今週の解答
[ニュースに関する問題]
欧州中央銀行(ECB)が、ユーロ圏の経済成長率の見通しを上方修正しました。このニュースが株価の上昇要因になると思われるのは次のどの企業でしょう。
(1)欧州向けに輸出している日本企業
まず、今日の問題である「ユーロ圏の経済成長率のアップ」が、日本の輸出入企業、及び内需関連企業にどういった影響を与えうるかを考えて見ます。
一般に、ユーロ圏に限らず貿易相手国の景気拡大にともなう消費増は、輸出数量の伸びを促します。いっぽう、貿易相手国の景気が拡大したからといって、日本の内需が伸びたり、輸入が増える必然性はありません。
また、景気拡大は通常、その通貨の買い材料とされています。この場合には、ユーロ高が予測されます。加えて、景気拡大に伴うユーロの利上げ観測により、円との金利差拡大が見込まれることも、ユーロ高円安に繋がります。
ユーロ高円安になると、輸出企業は価格競争力を得て輸出が伸びる、あるいはマージンが拡大しますので、業績アップに繋がります。
いっぽう、輸入企業にとっては、輸入品の仕入れ価格が上昇します。輸入企業はマージンの縮小を受け入れるか、国内販売価格に転嫁して価格競争力を失うかの選択に迫られます。いずれにせよ、業績の悪化要因となります。
内需関連の代表格は、建設、不動産、通信です。他の内需依存のセクターを含め、ユーロ圏の経済成長率とはあまり関係がなさそうです。しかし、ユーロ高円安により輸入資材などの価格が上昇すると、多少はマイナス要因となるかもしれません。
これらを整理すると、ユーロ圏の経済成長率の上方修正は、
輸出企業にポジティブ、
輸入企業にネガティブ、
内需関連にニュートラル、
となります。
さて、この要因を、実際のトレードにどのように反映させればいいのでしょうか?この要因では、内需関連にはノータッチでいいでしょう。
輸出入企業に対しては、対欧州貿易がその会社に占める「重み」が問題になってきます。たとえば、対欧州貿易がその会社の収益のほとんどを占める会社であれば、経済成長率の上方修正がわずかであっても、同社に与えるポジティブ、あるいはネガティブな要因はトレンドとして長く続く可能性がでてきます。いっぽう、何割かを占める程度であれば、経済成長率の上方修正が大きなものでない限り、さほど問題とはならないでしょう。対欧州貿易がその会社の収益にとって小さなものであれば、経済成長率の上方修正が大きなものであっても、大した問題とはなりません。
ここでは、極端なケース、すなわち欧州貿易からの収益に大きく依存している企業が、ユーロ圏の経済成長率の1%の上方修正に遭遇したような場合を考えてみましょう。過熱気味の経済を鎮めるのに、 0.5%程度の利上げ観測が出るのは珍しくありませんので、ユーロ高円安に向かうのは十分に考えられるところです。
実際のトレードを行うには、それでも前もって最低限のチェックを行います。為替市場、欧米の債券市場、欧米の株式市場がどのように反応したかを見るのです。
思惑通り、ユーロ高円安に進み、欧米の債券が売られ(米債券は連れ安)、欧米の株式が買われていて、日本株が出遅れていたなら(1)の企業を買ってみてもいいでしょう。欧米の関連業種の株価が上がっていたなら、なおさらです。
(2)の企業を売るのは保有していた場合のみです。個別株の空売りは、個別の材料に限るようにします。
見事正解だったあなたは・・・
油断は禁物、ほかのカテゴリの問題にも挑戦してさらにセンスを磨く努力を怠らないようにしましょう。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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