今週の解答
[その他の問題]
外国為替の信用取引でドル売り円買いのポジションを持ちました。午後5時頃になって、これといった理由も見当たらないのに、急速に円安が進みました。あなたがとるべき、もっとも適切な対応は?
(1)すぐに損切る
私は常に、自分が扱っている資金が投資資金なのか、投機資金なのかを明確にしろとアドバイスしています。投資資金とは差し当たり使う当てのない余裕資金で、最悪の場合にでも寝かせておける資金です。投機資金とは目先のキャピタルゲインを狙うための資金で、借入金や信用取引がその典型です。自分の運用資金がどちらに相当するかで、運用の仕方も変わるのです。これは為替取引にも当てはまります。
今回の問題は信用取引ですから、投機資金です。投資資金とどう運用の仕方が違うのか、まずは投資資金の場合をみてみましょう。
投資資金のポイントは保有です。為替でドル円の場合ですと、「手持ちの」円を売ってドルを買う、あるいは「手持ちの」ドルを売って円に換えることを意味します。たとえば、あなたが1万ドルを115円で買って保有したとします。1万ドル購入にあてた資金は115万円です。1年後に、ドルが下落して100円になったとします。この時、ドルを売って円を買い戻せば、金利が4%ついていたとしても104万円ほどにしかなりません。11万円損をしたといえます。
確かに、円に換えればその通りです。しかし、米ドルは通貨です。株式や債券といった金融商品のように、通貨に換金しないと物が買えないというものではありません。世界的には日本円よりも流通している、使い勝手のいい通貨なのです。
つまり、ドル円レートがどのように変動しようと、今の1万ドルは1年後には1万400ドルになっていて、今より多くの物が買えるのです。円で使うことに拘らず、ドルで使えばいいのです。この場合、ドルの価値を左右するのは、ドルのインフレ率です。アメリカの消費者物価の上昇率が金利以下である限り(ほとんどいつもそうです)、ドルの価値は少しずつでも増えていくのです。
もちろん、ドル高円安になっても、同じようにドルは実質金利(金利−インフレ率)分しか増えていません。たとえば、130円になっていても、1万400ドルでしかないのです。あなたなら、この場合にどうしますか?
ここでドルを売って円を買い戻せば、135万円ほどに増えています。余裕の資金があれば、何割かは米ドルやユーロ、英ポンド、豪ドルなどの外貨に換えておけば、上がれば円に戻し、下がれば金利を取るだけで、資産は勝手に増えていきます。嘘のような本当の話です。困るのは、外貨安円高のときに、急な入用ができて泣く泣く円に換えることです。投資はあくまで余裕資金が基本です。金持ちはますます太るようにできています。
今日の問題は信用取引ですから、投機資金です。円が上がれば利食えますが、下がれば損切るしかありません。この問題のポイントは、理由もなしに損切れるのか?という点と、午後5時頃になって動き始めたという点です。
ここでも、投資と投機のアプローチの違いがでてきます。投資では、売買につかう判断材料を十分に理解していると考えることが前提となります。いっぽうの投機では、数字は簡単に操作できるし、何が起きるかも分からない、水面上に見えているものなど当てにはならないので、価格の動きのみを信じるというものです。今日の問題の場合では、急速な円安そのものが、損切りの十分すぎる理由なのです。
それでもサポートラインが抜かれるまでは持っていたい。あなたは「サポートラインの内側には、多くの場合円買いのオーダーが入っていて、そこまでで円安は止まるだろう。そこが抜けたら円を売る、損切りのオーダーを入れておけばいいだろう」と考えるかもしれません。
それは、やめた方がいいです。午後5時頃に動き出したのは、ロンドンが入ってきたからです。彼らは東京のオーダーを潰すためだけに、揺さぶりをかけています。あなたが損切りのオーダーを入れたなら、ロンドンのディーラーはそれをつけに行きますので、その日の円の安値はその辺りになることが多いのです。あなたが安値で売った円を、彼らが買って儲けようとするのです。
ロンドンの外為市場は世界一の規模を誇っています。加えて、きわめて投機的なのです。彼らにとっては、東京が残したオーダーを利用して儲けることが、文字通りの朝飯前の仕事です。東京の損切りオーダーは9割以上が無理矢理につけられると思っていてください。
投機資金での売買は、取ったり取られたりの繰り返しです。損は早めに切るしかありません。いろいろ考えるのは、利が乗っている時だけ。勝負は流れに乗れているときにするものなのです。
見事正解だったあなたは・・・
油断は禁物、ほかのカテゴリの問題にも挑戦してさらにセンスを磨く努力を怠らないようにしましょう。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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