あなたの答えは、残念ながら 不正解 です

今週の解答

[ニュースに関する問題]

国際通貨基金(IMF)の試算では少子高齢化により、2020年頃には日本も貿易赤字になると言われています。日米(日欧)の貿易赤字が双方とも赤字になった場合、為替レートはどう動くと考えられるでしょう。

正解は・・・
(2)日本の貿易赤字は円安要因なので、
ドル(ユーロ)高円安要因

日本の貿易黒字は円高要因で、アメリカ(欧州連合)の貿易赤字は米ドル安(ユーロ安)要因であることは、今ではよく知られたところです。

私は1985年のプラザ合意の頃から、日本の貿易収支が円の為替レートに決定的な影響を与えると述べています。しかし、当時はエコノミストや大手邦銀の外為チーフディーラーからなども、重要なのはアメリカの貿易収支で、誰も日本の貿易収支などに注目していないと笑われたものでした。証券会社の一介のディーラーが何言うかと思ったのでしょう。

また、外為市場における貿易がらみの売買は1%にも満たないので、その影響力はゼロに等しいとも言われました。しかし、その残りの99%は資本取引がらみの売買を除けば、ごく短期の売買です。その日のうちに買ったものは売り、売ったものは買い戻すのです。つまり、翌日の為替レートに与える影響力は、そちらの方がゼロに等しいのです。

では、なぜ日本の貿易収支が長期の為替レートにそれほど重要なのでしょう?貿易収支は通関統計ですから、税関を通る物の流れを集計しています。黒字、赤字とはいっても、実際にその貿易でどれほどの収益が上がっているかは関係がなく、輸出金額が輸入金額を上回れば黒字、その逆は赤字となります。したがって黒字では外貨が流入し、赤字では円貨が流出します。外為市場では黒字では米ドル、ユーロなどの外貨売り・円買いが上回り、赤字では円売り・外貨買いが上回ります。

すなわち、日本の貿易黒字は外為市場における「売り買い差し引きネットでの円買い」を表しています。ドル建て貿易ならばそのままドル売り・円買い、その他通貨建てならばその他通貨売り・円買い(銀行間では流動性の関係上、その他通貨売り・ドル買い→ドル売り・円買いと、いったんドルを介在することも多い)、円建て貿易の場合は貿易の相手が自国通貨売り・円買いを行います。いずれの場合にも円買いが入り、ドル円を押し下げます。

貿易収支に現れる外貨、円貨の実需は、相場のトレンドに大きな影響を与えています。売り戻しや買い戻しが前提の投機筋の売買と違って、売り切り、買い切りを行うからです。そのときどきで投機筋が注目する為替相場を動かす材料や相場観が変化しているにもかかわらず、ドル円が30年前の3分の1以下、20年前の半分以下でしかないのはそのためです。日本は過去30年以上にわたって貿易黒字を積み上げています。過去10年に限りますと、当局による外貨準備の積み上げや機関投資家の外株、外債投資、個人の外貨預金などが貿易黒字の圧力を緩和している状態です。

いっぽう、アメリカの貿易収支はアメリカの通関統計です。日本の貿易黒字とアメリカの貿易赤字では、どちらを見ても同じだと考える人がいるでしょう。ではアメリカが対アメリカ大陸諸国との貿易が貢献して貿易黒字となった場合を想定してください。あるいは今日の設問のように双方とも赤字となる場合も想定していなければなりません。

アメリカの貿易黒字は外為市場におけるネットの米ドル買いを表していますが、同時に日本の貿易収支が黒字の場合はこちらはネットの円買いを表します。つまり、アメリカの貿易収支には関係がなく、日本の貿易が黒字である限り、ドル売り円買いが出ます。両方が黒字の場合には米ドルは対その他通貨では強くなりますが、対円では弱くなります。すなわち、円の実需を知るには日本の貿易収支を見るだけで十分なのです。

ドル円など円を見る場合は日本の貿易収支を、ユーロ・ドルなどユーロを見る場合はユーロの貿易収支を、ポンド・ドルはイギリスの貿易収支を見ます。ドル全体のイメージを持ちたい場合にはアメリカの貿易収支を見ますが、アメリカ大陸などとの貿易もありますので、それをドル円のイメージと重ねると大失敗をする恐れがあります。

もっとも、ここで忘れてはならないのが、外為市場における貿易がらみの売買は1%にも満たないということです。中長期の為替レートを動かす大きな要因には、金利差やその他の割安感(土地、会社、労働力など)を背景にした資金の移動があります。また、買い戻し売り戻しが前提の投機筋の売買でも、キャリートレード(金利差をもとにしたトレード)のように数カ月以上も保有すれば、その期間は為替レートに大きな影響を与え続けています。

為替レートを動かす要因は数多くあります。短期売買で注目するその時々の動きは、どんな材料が「旬」であるかを見極める必要があります。いっぱんに報道されている材料が「旬」であることが多いとも言えるでしょう。次に、その材料の「変化」に注目します。

取り扱う材料が多すぎるために、「旬」と「変化」が為替の短期トレードのキーワードです。ちなみに、日本がアメリカのように財政、経常収支とも双子の赤字となり、他国よりも金利が低ければ、強烈な円安は避けられないと言えるでしょう。

残念ながら不正解だったあなたは・・・

実際に運用をする前に、ほかの「ニュースに関する問題」で、さらに勉強しましょう。

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【監修】矢口新(やぐち・あらた)
テクニカル指標の成績表

1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。

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