今週の解答
[個別銘柄に関する問題]
あなたが保有する株に、いきなり仕手らしき買いが入りストップ高まで暴騰しました。どのように対応するのがもっとも適切でしょう。
(3)半分だけ利食いして、
もう半分は下げ始めるまで待つ
(1)を選んでも、大きな利益が確定できますので、間違いではありません。これを選んだ場合には、手にした利益に満足して、その銘柄から離れることをお勧めします。仕手が入っている銘柄では、翌日も、その翌日もストップ高をつけるようなことがよくあります。いつまでも値動きを追っていると、なんだか大損したような気持ちになり、ついには高値でもう一度買ってしまうことになりかねません。高値で買って、仮にそこでも儲けられても、あなたはすでに冷静さを失っていますので、結局はすべてを失くしてしまうのが「おち」なのです。
(2)を選べば、翌日にもストップ高が期待できるという意味で、間違いではありません。しかし、「仕手」の次の動きを読むことは困難ですので、翌日にはストップ安になる危険性を冒すことになります。他人の思惑で動いている相場で、自分の損益が大きく振れるのはスリル満点ではありますが、楽しみ過ぎると、ついには冷静さを失ってしまいます。
(3)では確定した利益は半分だけですが、残り半分の評価益で、どちらの動きにも対応ができます。折衷案のような、一見つまらない選択肢ですが、腹八分目でいることにより、冷静さを保つことができるのです。
「仕手らしき買い」とは、どういうものなのでしょう?仕手をオンラインの大辞泉や大辞林で調べると、「能や狂言の主人公の役」とあり、3番目の意味として、「株式市場などで、投機によって大きな利益を得ることを目的として、大量の売買をする人」とあります。
株式市場や商品市場では昔から仕手筋として有名となった相場師は多くいます。相場操縦まがいの売買で株価を動かし、大きな利益を得た人もいれば、会社乗っ取りまがいの株式の大量取得を行った人もいます。近年では、世間を騒がせたライブドアや村上ファンドも、広い意味の「仕手」だと考えてもいいでしょう。
市場の参加者が多く、売り買いともに厚い(流動性の大きい)為替や債券の市場では、相場の主役となりうる「仕手」と呼べるだけの大きな売買はなかなかできませんが、ポンドを売り崩した時のソロスなどの投機筋は、「仕手筋」と呼んでいいかもしれません。
では、大量の売買をすれば本当に相場は動くものなのでしょうか?まず、市場が大きく、相対取引(売り手と買い手の直接売買)が中心の為替や債券市場を例に、価格変動のメカニズムを考えてみましょう。
あなたが大量の資金を扱える、ヘッジファンドのトレーダーだと仮定してみて下さい。あまり動かない相場付きの日に、あなたは相場を動かしてみようと、マーケットメーカー(銀行や証券会社)から10億ドル(1,000億円)を買ってみるとします。あなたが10億ドルのロングポジションを維持しつづけると、市場は「買いたい人だけがいる」状態になり、価格が上がるのです。
マーケットメーカーは、顧客相手に流動性を提供して収益をあげるという仕事のプロです。動かない相場付きの日には、彼としては大量の売買など受けたくないのですが、職務上あなたの購入に付き合うしかありません。彼にはあなたが他でどれだけ買ったか分かりませんし、どんな材料をもとにしているかも知りません。また、あなたには相場を動かそうという目的がありますが、 10億ドルを買われたマーケットメーカーには、ショートポジションを持ち続ける理由がありませんから、彼はそのショートポジションを即座にカバーします。
彼はあなたに売った価格よりも1銭でも安く買い戻せられれば利益がでます。それができない時には、高い価格ででも多めに買って、より高くなったところで差額を売って、差し引きで儲けようとします。たとえば、売った価格の1銭上で20億ドルを買い、3銭上で10億ドルを売れば、差し引きのポジションはゼロに戻りますが、利益は(−1,000万円+2,000万円)1,000万円出ます。
彼の買戻しに付き合った他のマーケットメーカーも(その次の人も)、同じ理由で、即座にショートカバーします。ショートカバーとは、空売りの買い戻しですから、「買い」です。この時点で、当初のあなたの「買い」が、市場で「買い」の連鎖を生んでいます。この場合のすべての買い手は能動的でオファー(売り呼び値)を取りにいきます。いっぽうの売り手は受動的にオファーを取られ、即座に能動的な買い手に転じます。つまり、市場には買いたい人だけがいます。
当初の10億ドルの連鎖だけでも、相場は上がっていきます。誰かが儲けようと多めに買うようなことをすれば、ショートカバーの量は雪だるま式に膨れ上がっていきます。
要するに、どこかで誰かがリスクを取り大量のショートポジションを持ち続けるか、あるいはロングポジションのはずしが出て、そのショートの量と見合ってしまうまでは相場は上がり続けるのです。
今日の問題に戻りましょう。取引所を通す株式の場合では、マーケットメーカーがいませんので、売り物を全部こなして上がり続けると、ついにはストップ高となります。空売りしている人が多い銘柄では、その日に買い戻すことができなかった人たちのショートカバーが翌日に入りますので、仕手が入っている銘柄では、翌日もストップ高ということが珍しくありません。
そのようにして株価が上がっていくと、昔買っていた人たちのロングのはずしが出て、いつの間にか市場は投機的な、コストの高いロングポジションでぱんぱんになります。値動きを見て、後から買った人は、もともとの買われた理由を知らず、後付の材料や噂を信じているだけなので、まだ上がると思っています。
しかし、最初に買った仕手は、すべてを知っていますから、売れなくなる前に売り上がり、下げ始める前には売り抜けているのが常道です。とはいえ、仕手もしばしば相場にのめり込み、冷静さを失って破滅してきたのが、相場の歴史です。
見事正解だったあなたは・・・
油断は禁物、ほかのカテゴリの問題にも挑戦してさらにセンスを磨く努力を怠らないようにしましょう。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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