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ニューヨークWTI原油先物の価格が上がり続けているにもかかわらず、日本の東工取原油先物の価格は、ファンドの大量空売りで下げ続けています。あなたが、原油の買いポジション(半年先の期先)を持っていた場合、どう対処するのが適切でしょう。

正解は・・・
(3)ポジションをいったん手仕舞う

相場観がよいと自他共に認めるような人が陥る落とし穴は、仮説と真実とを混同してしまうことです。ところが、どんなによくできた仮説も、様々な前提条件を基に築かれています。そのうちの1つの条件に狂いがでても、価格は思惑通りには動きません。仮に結果としては正しくても、途中の価格のぶれに耐えきれないことも多いのです。価格が自分の思惑とは違う方向に動き出したときに、あなたが取るべき最も適切なことは損切りです。アゲインストのポジションはいったん手仕舞うのです。


あなたがどんな相場観を持っていようと、今の相場をリードしているのは空売りを仕掛けているファンドです。つまり現実問題として、相場はファンドの思惑で動いていて、あなたには、その思惑が分かりません。分からないのに、行きがかり上、ポジションを持ち続けているのは賢明だとは言えません。すみやかにポジションを閉じ、下げ止まりが確認できたと思えたときに、入り直すのです。それでも下げれば、また損切ります。


自分の相場観に固執すると、どんなに大きな資金を持つところでも、最悪の場合は破綻します。 2006年に起きたヘッジファンドのアマランスの破綻は、天然ガスのトレーダーであるブライアン・ハンター氏がつくった、大きすぎるカレンダー・スプレッド(同一商品先物の限月間裁定取引)のポジションが原因でした。彼の場合は、閉じるに閉じれないほどのポジションを抱えたために、身動きがとれないで破綻しました。(参照:「相場を知る・より安定した将来設計のために」


それ以前のもっとも大きな破綻は、ノーベル賞学者を抱えていたLTCM(Long Term Capital Management)の破綻です。 LTCMは、ジャンク債を買い、国債を売っていました。両者の信用スプレッドが理論的にはあり得ないほど広がっていたので、その縮小に賭けたのです。


しかし、97年のアジア危機、翌年のロシア危機で「クレジットクランチ(信用収縮。破綻リスクを恐れて貸出資金の回収に走ること)」が起き、「質への逃避(flight to quality。投機的な証券から安全度の高い国債などに資金が移動すること)」から信用スプレッドは広がり続けました。すなわち、LTCMがロングにしている社債は売られ続け、ショートにしている国債は買われ続けたのです。


逆に行き始めると、ますます魅力を増すのが彼らが信じる理論です。ここで彼らは信用スプレッドのナンピン買いをしました。しかし、信用スプレッドは理論を超えて広がり続けましたので、ポジションとともに損失も膨らむ一方でした。


もっとも、LTCMはこの信用スプレッド・トレードの他にも、数種のトレードを他の証券会社や銀行と行ない、そちらでは利益が上がっていたようです。しかし、それらの金融機関はLTCMの信用不安を盾に、その利益の引き出しを凍結しました。資金が凍結されれば、損失の出ているポジションに追加の証拠金を納めることができません。信用不安が実現してしまいます。


そしてついに、LTCMに信用を供与していたアメリカの証券会社や銀行が、その資産を差し押さえたのです。 LTCMはファンド立ち上げ当初の3年間は投資資金の引き出し不可を顧客に求めていましたが、すでにその期間を終えていたので、顧客による引き出しもありました。


ちなみにその後、金融機関の手に渡ったLTCMの膨大な企業債と国債との両建てポジションはどうなったと思いますか?その信用スプレッドは、LTCMの狙い通りに縮まったのです。


企業債が売られたのは、自分の業績のせいではなく、アジアやロシアといった外部要因の連れ安です。企業債は破綻しなければ、きっちり100で償還されるのです。単純に考えてみましょう。売られて60くらいになっている社債を買い、買われて110くらいになっている国債を売って償還を迎えたならどうなるか。どちらも100で償還されるので、すごい儲けですね。おまけに信用スプレッドの大きなジャンク債のクーポン収入は大きいので、品借り料など国債の売りを建てる費用を支払ってもおつりがきます。


もっとも、ヘッジファンドであるLTCMが実際にジャンク債をロングにし、国債をショートにしていたかは疑問です。そうするには大きな資金を食ってしまうからです。信用スプレッドの拡大、縮小だけに注目するならば、その信用スプレッド・デリバティブだけを取引すればいいからです。そういったデリバティブは金利差分だけの資金で、債券そのものを取引できる、一種の信用取引だとご理解ください。経済効果は実際の債券をロング・ショートするのと同じです。つまりは、LTCMの儲けが確実な資産は借金のかたに取り上げられたのです。


こうした破綻の例をあげると、相場が恐くなるかもしれませんが、心配には及びません。相場が思惑とは違う方向に動き始めたなら、傷口が大きくなる前にポジションを閉じればいいのです。損を抱えて悩むのは馬鹿げた行為です。悩みの芽は、小さなうちにことごとく摘み取っておくのです。

見事正解だったあなたは・・・

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プロフィール

【監修】矢口新(やぐち・あらた)
テクニカル指標の成績表

1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。

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