あなたの答えは、正解 です!

今週の解答

[投資心理に関する問題]

あなたがはじめて株式を買った会社の製品に不具合が出て、リコールの発表がありました。その後、2日間連続でストップ安になり、明日は寄り付きそうです。どのような対応をすればいいでしょうか?

正解は・・・
(2)被害の影響がわからないので
その会社の株は全部売る

メーカーの株式を購入するとき、その会社の製品がリコールされることは、まず想定していません。もし、リコールにつながるような製品の不具合があらかじめ想定できていたなら、リコール後に株価が安くなったところを買えばいいからです。投資や投機で、想定外の悪材料(ネガティブ・サプライズ)が出たときは、すみやかにそのポジションを閉じることが原則です。というわけで(2)の被害の影響がわからないのでその会社の株は全部売る、というのが正解です。

(3)の会社の広報やIRに問い合わせ、現状を確認してから判断する、というのは、現実に株価が下落して損失が出ている以上、全くのナンセンスです。

ところが、今回の問題の場合には、悩ましいところがあります。売りたくても、2日間連続のストップ安では、売るに売れないからです。相場では常に冷静さが要求され、パニックになった者が負けるのですが、2日連続のストップ安の水準で売ることは、事実上、パニックになったのと同じ結果をもたらします。

これを確率的にもう少し詳しく説明します。

たとえば、ヒストリカル・ボラティリティ(一定期間における価格変動の大きさを表す指標のこと)が16%の株があったとします。ボラティリティの表示は年率でなされるので、まず1日当りのボラティリティになおすことにします。ここで「ある期間でのボラティリティが1%である場合、その期間を2倍にすると、ボラティリティは 1.41421356%になる」という事実があります。つまり、√2になるのです。土日休日を除いた1年の立会日が約256日だとすると、√256は16ですから、年率のボラティリティを16で割ると1日分が出ます。すなわち、この株の場合だと、1日のボラティリティは1%になります。

この場合、オプションの理論に用いられている正規分布の確率論では、この株価は68.3%の確率で引け値が前日の引け値の上下1%ずつの変動幅に収まることになります。また、95.4%の確率で上下2%ずつの変動幅に収まり、そして99.7%の確率で上3%下3%の幅に収まることになります。

これがヒストリカル・ボラティリティが32%の株だと、1日のボラティリティは2%になるので、 68.3%の確率で引け値が前日の引け値の上下2%ずつの変動幅に収まります。また、95.4%の確率で上下4%ずつの変動幅に収まり、そして99.7%の確率で上下6%ずつの変動幅に収まることになります。このことは、ヒストリカル・ボラティリティが32%の株が1日で6%以上下落したなら、ほぼ100%の確率で引け値では6%の内側に戻っていることを表わしています。つまり、そこで損切るとほぼ100%の確率で底値で損切ることになるのです。

ストップ高・安の1日の値幅制限は、株価が3,000円以上5,000円未満なら上下500円、 5,000円以上10,000円未満なら上下1,000円ですから、この価格帯で10%から20%にもなります。 100円未満の銘柄などは上下30円ですから、数倍に高騰することもあり得ます。ということで、2日連続のストップ安水準で売ることは、まず底値で損切ることを意味しています。したがって、確率論を信じる人は、ここで売ってはいけないのです。そこで、(1)連続でストップ安になり、これ以上安くならないと思うので買い増し、を正解だと考える人が出てきます。

ところが、確率論が絶対ならば、そもそも2日連続のストップ安などあり得ないことになります。現実には、正規分布の両端では例外が頻発するものなのです。つまるところ、相場での値動きは確率論だけでは捕らえきれないということです。確率を妄信して、なんぴん買いを重ねて破滅する人は、あり得ないほどの確率で存在します。今回の問題は初心者を想定していますので、(1)のような悪い癖を覚えることはありません。

企業が出す情報、エコノミストやアナリストの見通し、確率論や経験則、それらはすべて参考すべき事柄に過ぎません。言い換えれば、参考にとどめておくべき事柄です。相場での真実は値動きだけです。また、相場とはサプライズを取りにいくべきもので、「サプライズを敵に回すといつか死ぬ」のです。

見事正解だったあなたは・・・

油断は禁物、ほかのカテゴリの問題にも挑戦してさらにセンスを磨く努力を怠らないようにしましょう。

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プロフィール

【監修】矢口新(やぐち・あらた)
テクニカル指標の成績表

1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。

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