今週の解答
[ニュースに関する問題]
昔から選挙で自民党が勝てば株価が上がると言われています。このジンクスは今でも通用するのでしょうか?
(3)自民党が勝てば
株価が上がると考えていてもよい
選挙の結果と株価との相関関係をつぶさに検証したことはありません。また、どんな本質的な好材料でも、市場が事前に織り込んでいたなら、材料の実現はそのまま材料出尽くしとなり、株価は売られてしまいます。とはいえ、株式市場は、経済成長や企業収益のリスクファクターとなりえる政治の不安定を望みません。したがって、政権与党の選挙における勝利は、株価の好材料と見なしていいでしょう。(3)が正解です。
(2)のように、政治と株価の相関性をデマと決め付けるのは無理があります。また、(1)のように支持率が低下傾向にあっても、選挙に勝利したなら、これまでの政策は維持されるのですから、逆に織り込まれていない分だけ株価が上がるといえるでしょう。
政治と経済とは密接につながっています。現状の政治システムのもとで存在を認められている株式市場は、誰でもが取ったリスクに応じて見返りを望むことができますので、富の再配分に貢献し、私有財産を保証します。これらのことを理解しやすくするために、株式会社、株式市場の成り立ちから振り返ってみましょう。【以下、拙著『リスク管理資金運用』日本実業出版社刊より抜粋】
「株式会社」は、15世紀半ばのヨーロッパで、貿易商人たちによって創設された「合資会社」に端を発しています。これらの会社は、ビジネスを行なううえで、オーナーたちがそれまで個人的に担っていた金融債務を、会社という容れ物に分離させるという重要な革新をもたらしました。会社は、それ自体が人権を持つ実体のあるもの(法人)として存在するようになります。
このことにより、オーナーたちは、そのビジネスに投資した額以上の損失を被らないよう、個人の資産が守られるようになりました。すなわち、別人格の法人である会社がどれだけ多くの債務を抱えようと、オーナー(出資者)たちは、自分が出資した資本金以上の損失からは免れるようになったのです。この「有限責任」により、会社は多くの出資者を募り、より大きなビジネスを展開できるようになりました。植民地経営で世界を股にかけた西洋の大航海時代は、このような金融面での革新に支えられ発展したのです。
そして、ビジネスへの出資者(投資家)たちを引き入れるために、会社の所有権が一定数の株式に分割されるようになります。「株式会社」の誕生です。これにより、貿易や植民地経営で得た巨額の富は、王家や有力貴族などに独占されず、株主たちに出資額に応じて均等に配分されることになります。この幅広い有産層の出現が、後の近代民主主義の土台となります。また、所有権の証拠として、所有証明書が株券の形式で投資家たちに発行されるようになりました。英語で株式を表わす「stock」は、会社を1本の木に見立てた株、「equity」は持ち分(所有権)、「share」は取り分(分け前)で、それぞれ一般的に使われています。
1460年には、世界最初の「株式市場」が、英仏海峡に近いベルギーのアントワープに創設されます。株式市場を英語では「stock exchange(株式交換)」というように、株式市場ができることによって、株式(所有権)が金銭などを対価に交換できるようになりました。
このことにより、投資家(株主)は、急な資金ニーズが起きたときに転売して資金を回収したり、あるいは株式を購入した時よりも高い価格で売却し、売買差益を得ることができるようになります。一方、会社が当初に資金調達(株式発行)する際に資金を提供できなかった投資家でも、株式市場で既存の株主から株式を購入することにより、どの時点からでも投資を始めることができるようになりました。【以上、抜粋部分】
株式会社の効用は、大航海時代の船の所有者と船長というように、出資者と経営者とを分離し、双方の責任を有限としたことです。このことにより、出資者と経営者の量と質とが格段に高まることになります。より多くの人々が自分で判断し、リスクを取り、リターンを得ることができるようになったのです。社会主義では意思の決定が集中化されますから、理想をいかに高く掲げようとも、個人の判断が制限され、民主主義からは遠のいていきます。現在、中国の社会主義政権下での株式市場は、あくまで過渡期的なもので、いずれどちらかが崩壊する運命にあります。資金の需要と供給とを、ビジネスプランという「儲け話」で出合わせるのが株式市場です。しかし、株式市場はそういった実需だけでは円滑に機能しません。個々の需要と供給とがピッタリと一致することなど、なかなか望めないからです。そこで、その「儲け話」に相対的な価値を与え、割安なものに転売目的で買いを入れたり、割高な価格を実需と見合うレベルまで引き下げる投機筋の出番となります。
この資金の需要と供給、その2つをつなぐビジネスプランは政治に大きな影響を受けています。また、その出合いの潤滑油となる投機も、政治の影響から逃れることはできません。ビジネスを企画した時点での政治体制と、実際に展開するときの政治体制とが違っていたなら、企画通りの収益を望むことは期待できなくなります。アナリストが企業の収益予想を立てるときも同様で、前提となる税制や経済政策が変わってしまったなら、予想株価も変更を余儀なくされるのです。
選挙で自民党が敗北し、民主党が政権を奪取しても、政治体制が変わるわけではありません。とはいえ、すべてがこれまで通りにいくこともありません。一般論として、想定外の「変化」は株式市場のリスクファクターなのです。もっとも、最近の自民党に顕著なように、低い投票率で得た(必ずしも民意を反映していない)議員の数の力だけで重要法案を可決し、国民が本当に望んでいないような「変化」を押し付ける場合には、自民党の勝利が株式市場のリスクファクターとなることでしょう。
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油断は禁物、ほかのカテゴリの問題にも挑戦してさらにセンスを磨く努力を怠らないようにしましょう。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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