今週の解答
[その他の問題]
一部のヘッジファンドは市場の変動に影響されない売りと買いを同時に行うロング・ショートの取引(裁定取引)を行っているといわれます。個人投資家がロング・ショートの取引を始める場合どのようにすればいいのでしょうか?
(1)逆張りの発想で、割安の株を買い、割高の株を売る
株式に限らず、金融商品の価値は相対的なものです。相対的に価値があるものとは、割安なものです。したがって、割安を買って、割高を売る(1)が、この問題の正解となります。
何を割安・割高と見なすかは、使う物差しによって変ってきます。ロング・ショートをワンセットで行う場合には、同じ基準で判断した割安を買い、割高を売ることになります。
たとえば、8月8日終値でのPERを尺度に使いたければ、12.06と低い日産自動車株を買い(ロング)、113.03と高い三菱自動車株を売り(ショート)ます。ロング・ショートを等金額にしていれば、市場全体がどちらに動いても、両社のPERのスプレッド(較差)が縮まれば利益がでます(手数料、信用金利、貸し株のコストを除く)。
順張りとは、トレンドに沿った取引です。つまり、上げ相場では買いから入り、下げ相場では売りから入ります。こう書けば、当たり前のようで、絶対に儲かりそうに思えます。
しかし、どんなトレンドにも終わりは来ます。まだ上がりそうだと、上げ相場の最終局面で買ってしまったなら、ほどなく下げ相場になってしまいます。あるいは、トレンドは上げ相場のままでも、時折訪れる調整局面の値下がりに、持ちこたえられないこともしばしばなのです。裁定取引では、スプレッドの拡大基調、縮小基調というものがトレンドとなります。
いま話題のサブプライムローン問題、アメリカの住宅市場を例に取り、どのようにして上げ下げのトレンドが変るのかを説明しましょう。アメリカの住宅市場は1990年代の初めから上昇トレンドに入りました。住宅着工件数、販売件数、販売価格ともに2、3年前まで伸び続けてきました。トレンドが長く続くと、多くの人が買ってしまう、価格が上がるなどから、買える人が減ってきます。
いっぽうで、建て過ぎで物件が余ってきていますから、業者としては何としてでも買い手を見つける必要が出てきます。そこで業者が金融機関と組み、それまで信用力がないために住宅価格の上昇を指をくわえて見ていた人たちに融資を持ちかけて、新たな購買者層を作り上げたのがサブプライムローンなのです。自分の家が欲しいという欲求だけで、もともと資金力がない人に、数倍に値上がりした物件を、大借金で買わせるのですから、宝くじにでも当たらない限り破綻しない方が不思議です。
サブプライムローン問題とは、どこにでもあるバブルの最終局面で起きる無理な与信問題で、どこにでもあるバブルと同じように、巻き込まれた人は破滅に近い打撃を受けます。ローンの借り手はもちろんのこと、貸し手やその証券化商品を買ったヘッジファンドなど、知識も経験もあるはずのプロが巻き込まれるのですから、相場には魔物が住んでいるとさえ思えます。
不動産、商品、株式など、どの上昇トレンドも同じように、割高になるとともにまともな購買者が減少していくなかで、買い遅れを焦ったり、更なる価格上昇を欲張った購買者が借金を重ねて買い上げたところで終わりがきます。こうしたバブルの性質を鑑みると、世界の株式市場にも、最終局面を迎えているところがありそうです。
逆張りというのは、トレンドに逆らい、上げ相場には売り向かい、下げ相場には買い向かう取引です。裁定取引では、スプレッドの拡大基調、縮小基調というトレンドに逆らうことになります。あえて、皆と違うことをするのですから、逆張りには理論や経験則などの裏付けを必要とします。しかし、そのままトレンドが続いてしまったなら、損失が膨らんでしまいます。
とはいえトレンドの転換点では、それまでの順張りが逆行するわけですから、逆張りとは、トレンドのスタート地点を探る行為だともいえます。損切りなど、しっかりとしたリスク管理ができていたなら、挑戦する価値のあるトレードです。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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