今週の解答
[個別銘柄に関する問題]
四季報の主要株主の欄を読んでいると、社長や役員などその会社の経営陣の持ち株数が増えていました。今後、この会社の株価が上がることを期待していいのでしょうか?
(1)経営陣が買っているのであれば株価が上がることを期待していい
経営陣は自分の会社の業務内容や将来の展望を他の誰よりも知っています。その経営陣が自分たちの持ち株数を増やしているのは、素直に考えれば好材料です。また、最近はM&Aなどで自社の経営権が奪われる恐れもありますので、自らが安定株主となり浮動株を減らす経営陣もいることでしょう。こちらは業務内容とは関係がありませんが、株価は長く保有する人がいると、上昇圧力を受けるのです。正解は、(1)経営陣が買っているのであれば株価が上がることを期待していい、となります。
株価に限らず、相場での価格は誰かが長く保有したり、買い切れば上昇圧力を得るのです。たとえば、石油会社が買ったドルは、そのまま原油の購入代金として産油国やメジャーに支払われます。石油会社がドルを売り戻すことは、原油の実需がからんでいる限り、ありません。ポジションとすれば買い切りで、持ったままで出てこない状態をつくりだします。
いっぽう、ドルを売った銀行に、そもそもドルを売るニーズもなければ、必ずしもあらかじめドルを保有していたわけでもありません。つまり、なんらかの利ざやを求めてドルを売っただけですので、いつか買い戻します。通常は即座に買い戻すのです。相場観によらない余計なショートポジションを長く保有することはないのです。この状況では、ドルのショートカバーが永遠に続き、ドル円は上昇し続けます。
その圧力を止めるのは、反対方向の同様の性質を持ったポジションです。すなわち、自動車会社など輸出企業のドル売り円買いなのです。これらのことで分かるのは、日本の貿易黒字は円高圧力として作用しているということです。
現在、円売りの主力は個人による外貨建投資と円キャリートレードです。円キャリートレードとは、金利の低い円を借り、より高金利の通貨やその国の金融商品で運用することです。どちらも、外貨を保有し続ける限り、円安圧力として作用しています。このことから、ドル円の相場観を持ち、トレードするに当たっての、ベースとなる注目材料が決まってきます。
株式市場も同様にポジションの保有期間を分析することで、その方向が類推できます。株式市場でもっとも長いポジションは、オーナーシップのための株式取得を除けば、企業間の株式の持ち合いです。これは純投資ではありませんから、株価が上がろうが下がろうが、政策が変わるまで持ち続けています。バブル崩壊後のもっとも大きな売り圧力は、こうした持ち合い株の解消売りから来ていました。その売りを受けていたのは証券会社ですが、彼らは手数料や利ざや目的で買っているだけで、解消企業に代わって持ち合うつもりはありません。株価が上がれば利食い売り、下がれば損切り売りをするまでです。つまり、この市場は売り手一色なのです。
株式市場で、次に長いポジションを保有するのは年金などの投資家です。バブル崩壊後は、ここも代行返上売りとして、売り手に回っていました。この構造が見えていたなら、長期間の株下げは疑う余地のないものでした。
いまは、企業買収防衛策と称して、株式の持ち合いが復活しつつあります。また、いったん現金化した年金の投資資金も、再び株式投資に向かいます。株式市場は長期の上昇トレンドに入っているのです。もっとも、株式の持ち合いは経営陣が自らの保身のために行う、後ろ向きの資金運用だとも言えるので、多くの場合はROEなどで表される資金効率が悪くなります。それを嫌う株主からの売りがでることもありますが、売られたところは(打診ででも)買ってみるのが、上昇トレンドへの対応です。
見事正解だったあなたは・・・
油断は禁物、ほかのカテゴリの問題にも挑戦してさらにセンスを磨く努力を怠らないようにしましょう。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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