今週の解答
[資金管理に関する問題]
あなたは有休を取り、日経平均先物のデイトレードをしていました。しかし、コンピューターの調子が悪くなり、急に立ち上がらなくなりました。運が悪いことに、総資金に対して、大きめのポジションを持ったままです。どのように対応するのが良いでしょうか?
(2)証券会社に電話をして、損を覚悟で成行決済をする
デイトレードはその日のうちに売買を完結させるのが鉄則です。そのためには、利食いや損切りのレベルを決めていても、その日のうちに届かなければ決済しなければなりません。そういったデイトレードの当初の目的から離れないためには、(2)証券会社に電話をして、損を覚悟で成行決済をする、のが正解です。
トレードを行うにあたって、最も大事なのがリスク管理です。リスク管理の基本とは、儲けようとするにあたって、どのくらいのコストまで支払う用意があるかを定め、その限度額を厳守することです。
パチンコなどでも、1万円までしか使わないと決めたら、それを守るのがリスク管理です。この時、仮にクレジットカードを差し入れて遊べるパチンコがあったなら、自分がどれだけ使って儲けているかが分からず、リスク管理がうまく出来なくなるのです。その意味では、サブプライム問題で想定外の損失を出しているところは、リスク管理のイロハをもう一度学び直す必要があります。
(1)証券会社に電話をして、利食いと損切りの注文を入れる、は、当初からそのようなトレードを行う予定ならば、問題がありません。その場合には、会社を休んでデイトレードをする必要がなく、市場の寄付きまでにオーダーを入れておけばいいでしょう。
(3)の、今日の東京市場、今夜のニューヨーク市場ともに大きなイベントがなさそうであれば、明日、会社のPCで決済をする、という無闇な楽観主義は、サブプライム問題に通じます。本当のプロのカモにされるだけです。
これを機会に、サブプライムローン問題をもともとのところから復習してみましょう。
アメリカの住宅市場は1990年代の初めから上昇トレンドに入りました。10年単位で2桁増と確実な人口増に加え、近年は米10年国債に最も連動するといわれる住宅ローンの金利が、10年国債とともに歴史的な低水準にあったこと、雇用の不安が少なかったことなどで、住宅着工件数、販売件数、販売価格ともに2、3年前まで伸び続けてきました。
トレンドが長く続くと、多くの人が買ってしまう、価格が上がる、などから、買える人が減ってきます。いっぽうで、建て過ぎで物件が余ってきていますから、業者としては何としてでも買い手を見つける必要が出てきます。そこで業者が金融機関と組み、それまで信用力がないために住宅価格の上昇を指をくわえて見ていた人たちに融資を持ちかけて、新たな購買者層を作り上げたのがサブプライムローンなのです。自分の家が欲しいという欲求だけで、もともと資金力がない人に、数倍に値上がりした物件を、信用の不正申告までさせて大借金で買わせるのですから、宝くじにでも当たらない限り破綻しない方が不思議です。
これは、どこにでもあるバブルの最終局面で起きる無理な与信問題で、投資物件が値上がりし続けることが大前提となっています。ところがそれは市場の成り立ちからして不可能なので(拙著『実践・生き残りのディーリング』、69項「落ちがないと決まらない−バブルは必ず崩壊する−」参照)、どこにでもあるバブルと同じように、巻き込まれた人は破滅に近い打撃を受けます。
ローンの借り手は非常識、無知であることが罪だと言えばそうですが、相手がプロだけに「騙された」と許されるべきものだと思います。馬鹿げているのは、「騙した」はずのプロである貸し手や、その証券化商品を買ったヘッジファンドなどの、リスク管理の拙さなのです。
結局のところ、ここ数年間の最高値での住宅(抵当流れになると言われている240万戸X新築住宅販売中心価格23万ドル=5,520億ドル)を実質的に購入したのは、低所得者層から2、3年分の金利を受け取っただけの金融機関なのです。証券化商品は各国の大手銀行やヘッジファンドが購入していますから、つまるところ、バブルの最終局面でつかまったのは、いわゆるプロ中のプロでした。
識者の中に、日本の銀行がサブプライム問題で大きな痛手を負っていないのは、リスクを取らないからで、誉められたものではないと述べる人がいます。しかし、サブプライム問題の貸し手で大きな痛手を追った人たちは、リスクの種類や所在がよく分からないのに儲けにつられて損した人たちです。あるいは、流動性リスクを知らない人です。無知だから大きく張った。無知だから損した。そこには、識者が賞賛するに値するものは何もありません。とはいえ、日本の銀行も高収益だという理由だけでヘッジファンドに投資しているところがありますので、それなりにやられているはずです。
デイトレードのリスク管理は、相場が思惑とは逆に行った場合の損失を限定することで、損切りがもっとも有効なリスク管理となります。コンピューターでのトレード中にコンピューターがダウンしてしまったなら、自分がどれだけ儲けているか、あるいは損しているかが分からないのです。分からないのにポジションを持ち続けるのは、リスク管理の放棄だといえます。
見事正解だったあなたは・・・
油断は禁物、ほかのカテゴリの問題にも挑戦してさらにセンスを磨く努力を怠らないようにしましょう。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
-
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
メールマガジン
- 矢口新のメルマガ
さらに詳しく勉強してみたい方にはこちらの無料メルマガをおすすめします。
-
- 相場を知る・より安定した将来設計のために
投資運用の基本を押さえれば、やればやるほど上達します。自己責任の時代。相場で飯を食いたい。息の長い相場生活を送りたい。そんなあなたへ、相場のプロからひとこと、ふたこと。「生き残りのディーリング」の著者の相場解説!
- まぐまぐ!・有料メルマガ
-
- 相場はあなたの夢をかなえる─有料版─
ご好評のメルマガ「相場はあなたの夢をかなえる」に、フォローアップで市場の動きを知る ー有料版ー が登場。本文は毎週月曜日の寄り付き前。フォローアップは週2〜3回、ホットなトピックについて、より忌憚のない本音を語る。「生き残りのディーリング」の著者の相場解説!
-
【840円/月(税込)/毎週 月曜日(祝祭日・年末年始を除く)】