今週の解答
[個別銘柄に関する問題]
業績も非常に好調で、将来性も期待できると判断し購入した銘柄が、特に悪材料もない中、市場全体の軟調な展開に押され値を下げています。含み損も約10%に達したので、損切りをすべきかと思います。一方で、悪材料が見当たらないなら、市場環境が回復すれば上昇するのではないかとの期待もあります。この銘柄が、空売り可能な貸借銘柄だった場合、どうするのが良いでしょうか。
(1)目前の値動きに素直に反応し、できるだけ早く損切りする
相場を長く続けたいなら、最も大切なのは運でも相場観でもなく、リスク管理です。個人投資家、プロを問わず、最も有効なリスク管理は損切りです。正解は、(1)の「目前の値動きに素直に反応し、できるだけ早く損切りする」となります。
そうは言っても、プロの機関投資家は大量のポジションを抱えていますので、簡単に損切りはできません。自分の売りが相場を更に押し下げ、自分で自分の首を絞める結果となることが多いからです。それで次善の策として、抱えているポジションと似たようなものを売ってヘッジします。あるいは、大きく値上がりしそうなものを見つけてきて、その値上がり益で今の損失を相殺しようとします。
もちろん、新しく投資した物件も値下がりすれば、にっちもさっちも行かなくなります。とはいえ、(売り抜けることは余り考えずに)値上がりするだけの大量の資金を注ぎ込めば、相場は必ず上がるのです。
極めて勝率の高い大投資家などは、少数の銘柄に大量の資金を投入して持ち続けていますから、小投資家には真似のできない決して負けない投資を行っているといえます。問題は、その大投資家が死亡するなどリタイアしたために、ファンドや投資会社を解散する時です。出資者に資金を分配しようにも、売るに売れない大量のポジションを抱えているのですから、その死後には生前の名声をすべて失う危険をはらんでいるといえます。あるいは、後任の人が泥をかぶります。
似たようなものを売るとは、例えば10年債をヘッジするのに、2年債ではなく5年債、あるいは5年債と30年債とを組み合わせて売るようなことです。先物がある商品は先物を使います。
今回の問題のような個別銘柄の場合には、同じ業種の似たようなものを売ります。例えば東京電力のヘッジに中部電力を売ります。もっともこの場合には、まったくヘッジにならず、両股開きになるリスクが出てきます。そこで貸借銘柄ならば、同銘柄をつなぎ売りしてヘッジすることになります。
では、(2)「将来性のある銘柄をただ手放すのはもったいないので、つなぎ売りする」も、正解とできるのでしょうか?
持っているものを売るには、そのまま買値を叩けばいいのですが、空売りにはアップティック・ルールが適用されます。つまり、売り値を買ってもらう形で売らねばなりません。売り値が取られずに、買値ばかりが叩かれるような状態になると、最終的に売れた時には大きく値下がりしてしまっています。例えば3%下で売れたなら、損失を3%余分にロックインしてしまったことになります。相場がそこから上がっても下がっても、13%の損失は残ったままです。これでは正解にはできません。
もともとつなぎ売りに経済的な合理性はありませんが、利益のロックインの場合にはそれなりの使い方があります。興味がある方は、拙著『リスク管理・資金運用』の、第5章「利食いと損切り」、第3項「つなぎ売りで利益を確定させる」を参照してください。
もう1つの選択肢、(3)「市場環境に左右されている間は下手に手を出さず、様子を見る」は問題外です。相場では市場価格が絶対です。市場環境に敏感になれないのなら、株式などの市場商品に手を出すことはお勧めできません。
悪材料もないのに下がるのは、悪材料で下がるよりも深刻です。悪材料で下がる場合には(買い戻し前提の)投機資金が売っていたり、材料そのものの解釈や変化で買い戻されることも期待できるからです。ファンダメンタルズ的に良い株が下がる時は、投資家サイドの事情です。
何故か分らないが下げている場合にも、裏側にはそれなりの理由があります。見えてもいないものを信じ続けて裏切られるより、見えている市場価格に素直に反応してください。市場価格は決して裏切らず、損益という形であなたに報いてくれるのです。
見事正解だったあなたは・・・
油断は禁物、ほかのカテゴリの問題にも挑戦してさらにセンスを磨く努力を怠らないようにしましょう。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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