今週の解答
[個別銘柄に関する問題]
あなたは1ヶ月半ほどで株価が2倍以上になり、1年来の高値に迫っている銘柄に目をつけました。急騰しただけあり多少の高値感がありますが、ここにきてアナリストが格上げしたこともあって、押し目を買えば儲けられそうな気がします。この銘柄で利益を上げるには、どうするのが一番良いでしょうか。
(2)か(3)
急騰した銘柄に金融商品としての投資価値はありません。あるのはキャピタルゲイン狙いの投機的な価値だけです。長く保有する投資では、多少の値下がりぐらいではまだまだ割高で、思ったリターンを上げることはできません。(3)の「高値感があるのであれば、たとえ押し目でも買わない」のが正解です。
一方、投機ではまだまだ上がりそうだと思えたなら高値を追い続けます。(2)「『押し目買いに押し目なし』、待っていても絶好のタイミングはなかなか来ないので、押し目を待たずに上がっているうちに買う」ことも正解となります。
金融商品の投資価値は、投下した資金に見合うリターンが期待できるかどうかを、相対的に比較することで判断することができます。金融商品のファンダメンタルズ的な価値が短期間で大きな変化をすることはほとんどありませんので、価格が2倍になり投下する資金が2倍になると、ファンダメンタルズ的な価値は半分に下がってしまいます。
金融商品には付加価値がないので、投資価値のあるものは安全性が同じなら相対的に割安なものだけです。同じ商品券の価格が、金券ショップによってばらつきがあるならば、そこに投資価値が生まれます。売値と買値のスプレッド以上の価格差があったなら、裁定取引(アービトラージ)により利益を確定することができます。
つまりある銘柄が大きく買われると、同じようなファンダメンタルズを持つ他の銘柄に対して、割高になります。市場全体が買われている時には、他の市場、他の金融商品に対して、割高となります。すべてのものが同じように買われている時はインフレで、単にマネーの価値が下がっているのです。このような場合には、他の商品に比べてまだ十分に買われていない、割安なものを買えばいいのです。
ファンダメンタルズ分析を専門とするアナリストの格上げは、あまり気にすることはありません。1ヶ月半前の、まだ投資物件としての価値を保っている時に格上げしたのならまだしも、上げてしまったここにきての格上げは単なる後追いです。1ヶ月半前に格上げし、投資価値が半分になってしまった今は、格下げするのが本当のアナリストの仕事です。また、ファンダメンタルズ分析はあくまで企業そのものを分析することであって、株価との相関性は必ずしも高くはないのです。
相場や市場価格を理解するには、相場が実需や投資資金による保有効果と、投機資金によるキャピタルゲイン狙いの売買とで動いていることを理解する必要があります。相場が何故動くのかについては、私のホームページで、66項. 価格変動の本質 −タペストリー第1理論−と、21項. 投資と投機 −タペストリー第2理論−をご参照下さい。
相場を始めるにあたって、まず自らをチェックしておきたいのは、長く寝かせることができる資金で保有する投資を行いたいのか、借入金や信用取引でキャピタルゲインを狙う投機を行いたいのかをはっきりさせることです。
投資ならば、時間をかければ値上がりすることが期待できる割安なものを買います。一方投機ならば、すぐにも値上がりが期待できるタイミングを捉えることが重要です。そしてタイミングを間違えたと思ったなら、すぐにでも損切りし、次のタイミングを狙います。
今回の問題では、すでに2倍以上に買われたものに投資するよりも、まだ買われていない割安なものを探すのが投資なのです。一方の投機では、高値狙いで買ってみるのも一考です。高値を抜ければ良し、抜けないと確信できたならドテンで空売りします。
(1)の押し目買いを狙うのは中途半端です。投資としては、押し目とはいえ高値を買うのは意味がありませんし、投機ではタイミングを逃してしまいます。投機的に押し目買いをするなら、押し切ったと見極めたところで買い、前の高値を抜ければ良し、抜けないと確信できたならやはりドテンで空売りします。前の高値を抜けないのを2番天井と呼び、相場が反転する兆しだからです。つまり、中途半端な押し目買いで持ち続けると、大変な損を抱えてしまうことになるのです。
見事正解だったあなたは・・・
油断は禁物、ほかのカテゴリの問題にも挑戦してさらにセンスを磨く努力を怠らないようにしましょう。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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