今週の解答
[個別銘柄に関する問題]
あなたは投資の基本である「安く買って高く売る」で儲けるため、業績は良いのにPERなどを見ると割安に放置されている銘柄をいくつか購入しています。しかし、購入から数ヶ月たってもほとんどが横ばい、中には値下がりする銘柄もあり、損切りラインと決めている10%程の含み損が生じています。このような場合、どうするのが良いでしょうか。
(3)PERなどは参考でしかないので、早めに損切りする
相場における大きな誤解に、ファンダメンタルズ分析は理論的だが、テクニカル分析はおまじないのようなもの、というのがあります。事実は全く逆で、投資物件を分析するファンダメンタルズ分析自体がいかに科学的でも、市場価格との関係はおまじないのようなものだが、市場価格そのものを分析するテクニカル分析は科学的なのです。つまり、PERと市場価格との間に普遍的な関連性はほとんどありません。正解は、(3)の「PERなどは参考でしかないので、早めに損切りする」となります。
PER(Price Earnings Ratio)は、株価収益率ともいい、株価を1株当たり利益で割ったものです。株価が収益の何倍まで買われているかをみる指標です。株価収益率が高いほど、利益に比べ株価が割高であることを示し、逆に株価収益率が低いほど、株価が相対的に低いことを示しています。
ここで示されるのは、ある市場や業種、銘柄のPERが他市場、他業種、他銘柄のPER比べて割高か割安かだけです。あるいは、過去には何倍まで買われていたかなどという経験則だけです。つまり株価が収益の何倍まで買われたなら割高となるのかという基準は誰にも分かりません。そもそも適正理論PERというものが分らないのに、買われ過ぎ、売られ過ぎが判断できるわけもないのです。
東京証券取引所はマザーズを除く上場企業の規模別、業種別PER・PBRの一覧表を提供しています。※参照(PDFファイルが開きます)
これで見ると(連結:4月末時点)、合計PERは17.4倍で、業種別では空運業の56.2倍から非鉄金属の9.3倍までの開きがあります。つまり、空運業は非鉄金属の6倍も高く買われています。それを一概に割高割安と決めつけず、教科書通りにPERが高いのは高い成長性を見込まれているためだと考えれば、空運業は非鉄金属の6倍もの成長性が期待されていることになります。どうも腑に落ちないですね。ちなみに、その他金融業は赤字なのでPERが出せません。もし、収益と株価とに正の相関関係があるとすれば、赤字でも株価があるということの説明ができません。あるいは、無限大の成長性期待のみがその株価を支えていることになります。
もっとも、赤字の会社にも資産があります。そこで同じ表からPBRを見てみます。
PBR(Price Book-value Ratio)とは、株価純資産倍率のことです。株価を1株当たり純資産(=貸借対照表上での株主資本にあたるもので、資本金、資本準備金、利益準備金などで構成)で割ったもので、株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているのかを示すものです。一般にPBRが低いほど、株価は割安といわれています。1株当たり純資産は企業の解散価値(現時点で会社が清算した場合、株主に支払われる1株当たりの金額)を意味しているので、PBRが1倍未満ということは、株価が企業の解散価値より低いということを意味しています。
その他金融業のPBRは1.1倍です。上場企業の合計PBRが1.0倍、金属製品は0.5倍、建設業、パルプ・紙のそれぞれ0.7倍など解散価値であるPBR1倍割れの業種がいくつもあります。PBR0.5倍ということは、金属製品の会社の株を100万円で買い、もし現時点で潰れたとすれば、理論的には200万円帰ってくることになります。PBRはPERと違って、しっかりとした価値の基準があります。そう考えても、その他金融業はやはり割高だとなります。
この表を見ていると、投資に関するいくつかのストーリーが描けそうな気がします。とはいえ、そういった相場観はあくまで物語であって、実際の市場価格との相関関係は薄いのです。
今回の問題から、他の選択肢を見てみましょう。
(1)の「業績、PERなどから割安と判断されるのであれば、長いスパンでは値上がりする可能性が高いので、数年単位で保有する」というのは、2つの点で不適切です。まず上記のように、PERがどの水準になったら割安といえるのかが曖昧であること。次に、PERで割安なものがいつか値上がりするという保証がないことです。このような投資を行っていると、最悪投資金額の100%を失う恐れがあります。
(2)の「割安で値上がりの可能性があることを考慮して、損切りラインを超える30%程度の含み損が生じるまでは保有し、それ以上値下がりしたら売る」は、とりあえず30%の損失で抑えられる点だけが評価できます。とはいえ、30%も失くすと取り返すのが大変です。
損益に直結しているのは市場価格です。安く買って高く売れば利益がでますが、安く買ったつもりでもそれ以上に値上がりすれば損失となります。10%のロスなら、比較的簡単に取り戻せます。思惑とは違ったなら早めに損切りすることが、安定した投資収益への第1歩なのです。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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