今週の解答
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あなたは株式投資を始めてからしばらく経ち、テクニカル分析の基本も身に付けたように思います。しかし、ゴールデンクロスなど基礎的な指標はあまりにも簡単で、「これで儲けられるなら、株で損をする人などいないのではないか」という気もします。ゴールデンクロスなどの基礎的なテクニカル指標は、実際のトレードに役立つものでしょうか。
(3)テクニカル指標はあくまで参考にする程度に留める
ファンダメンタルズ分析が投資対象を分析するのに対して、テクニカル分析は値動きや出来高など市場と市場価格を分析します。そして、テクニカル分析に用いる価格などのデータは、実際に市場で取引されたものですから、データそのものには嘘がありません。分析の仕方さえ間違わなければ、あなたのトレードの強い味方となってくれます。
とはいえ、それらのデータはすべて過去に起きた出来事の記録でしかありません。未来のことは誰にも分らないのです。正解は(3)の「テクニカル指標はあくまで参考にする程度に留める」で、実際に重要なのはポジションを取ってからのリスク管理です。
選択肢(1)「簡単な指標ほど見ている人が多いので、実際のトレードでも役に立つ」のように、簡単な指標ほど見ている人が多いのは事実ですが、実際のトレードにはあくまで参考にする程度に留めるべきでしょう。買いサインだから上がる、売りサインだから下げるなどという保証はどこにもありません。
選択肢(2)のように、「高度で難しい指標だけが役に立つ」というのは少し相場が分かり始めた頃に多い思い込みです。価格データとして必要なのは、1日や1週間といった時間枠での寄値、高値、安値、終値の4本値で、バー・チャートやローソク足にはそのすべてが揃っています。データに何の作為も加えないこの2つを「素」のチャートと呼んでいます。ローソク足は陽線、陰線を描くことで、上げ下げや勢いを強調しますが、バー・チャートは単なる縦棒に過ぎませんから、その分トレンドが見やすくなります。
昔から相場師と呼ばれる人やディーラーたちは手書きのチャートをつけてきました。私自身が相場を初めた頃は、値が重いとか、底が堅いとかの感覚のみで売り買いしていましたが、そういう感覚はチャートでの二番天井や二番底に他ならないと気付いてからは、手書きでチャートをつけ始めました。
私がつけていたのはローソク足ですが、米国債では利回りベースでのポイント・アンド・フィギアが良く当たると、信託銀行のファンドマネージャーの方に教えてもらってからは、そちらも並行してつけました。どちらも10年くらいはつけたと思います。移動平均線も、米銀の為替のディーリング・ルームに良く当たると評判の方がいたので、伺って話を聞いたことがあります。その後しばらくは自分でも手計算して10何本もの移動平均線をつけていました。
移動平均線は「素」のチャートに何かを加えるのではなく、4本値のうち終値だけに注目することで過去からのトレンドをわかりやすく表示し、またデータを取る期間を限定することでトレンドの変化を見せようとします。つまり、重要と思わないデータをあえて消し去ることで、見せたいものだけ見えるようにしているのです。
高度で難しい指標になればなるほど、考案者による相場の見方によって、元のデータが歪められて提示されるようになります。テクニカル指標は当たる、当らないなどと言うのは、その考案者の見方が当たる、当たらないと言うのと等しいのです。テクニカル分析は「素」のチャートから始めて、いろいろとデーターをいじくった挙句、何のバイアスもかかっていない「素」のチャートに帰ります。その頃には「素」のチャートを見るだけで、様々なテクニカル指標ではどのように提示しているかが大体見えるようになってきます。
さて「素」のチャートは単純に見えて、多くの情報が生のままでむき出しですから、そのままではよくわからないという人もいるでしょう。一見、取りとめもない生の情報を整理する第一歩は、1本の線を引くことです。チャートの縦軸は価格、横軸は時間ですから、価格水準を知るためには、現在の株価から線を横に引きます。これだけで現在の株価の位置が強調されてきます。すなわち、たった1本の横線だけでも、いまの株価が高値圏なのか、そうでないのかといったようなことが強調されるのです。
投資資金の存在を暗示するトレンドラインは、投機的な売買の判断にも有効です。トレンドラインを引くには、見えているチャートの期間内の最安値に定規を当てます。そして、その右側(時間的に現在に近い側)に2番目の安値を見つけて線を引きます。最安値と2番目の安値を結んだこのラインが、このチャートのサポートとなります。このとき、時間を少し左(過去)にずらして、そのサポートラインを不適当にしてしまう重要な安値がないか確認しておくといいでしょう。高値も同じようにします。
ある期間を切り取って、安値を結んだ線が右に切り上がっていたなら「上昇トレンド」です。高値を結んだ線が右に切り下がっていたなら「下降トレンド」です。相場が切り上がっていく安値を結んだ線と切り下がっていく高値を結んだ線に囲まれていたなら、トレンド模索中の「三角保合い」です。安値がどんどん更新し、高値がどんどん更新するような拡散した相場には、ボラティリティだけがあって、方向性を表わすトレンドはありません。極めて投機的な相場だといえます。
移動平均を使えば、トレンドラインを引くことなしにトレンドらしきものを知ることができます。移動平均は、当日までの過去何日間かの終値の平均値を当日の株価の上または下に点で打ちます。たとえば、25日移動平均は、当日までの過去25日分の終値を足し、25で割ったものを当日の株価の上または下に点で書きます。平均値が株価の上にくれば当日の株価は平均値よりも安いので、これだけでもトレンドは下向きだと暗示されます。
25日線では毎日新しい終値を足し、26日前の終値を計算式から省いていきます。そして、毎日の点を結んで線とします。この線が上向きならば平均値が高くなってきていますので、トレンドは上向きと暗示されます。
移動平均線は普通1本だけではなく、短期長期の2本、あるいは中期を加えた3本を組み合わせて使います。つまり、当日の株価の位置、最近のトレンド、中期トレンド、長期トレンドの組み合わせで、売り買いのサインまで出すものです。
株価が移動平均線を上抜けすれば、目先トレンドが上向いた暗示です。短期線が長期線を上抜けすればゴールデンクロスと呼び、短期トレンドが上向いた暗示です。そして、長期線が上向いて短期線や株価を追いかけ始めると長期トレンドも上向いた暗示です。逆に短期線が長期線を下抜けすればデッドクロスと呼び、短期トレンドが下向いた暗示です。ゴールデンクロス、デッドクロスは今回の問題のように、買いサイン、売りサインともされています。
テクニカル指標は現在の株価が歴史的にどのような位置にいるかを知るための天気図のようなもので、相場に科学的にアプローチするためには欠かせないものです。しっかりと勉強して下さい。慣れるまでは手書きすることも有効な勉強方法です。天気図がよく読めるようになると、大体の天気の移り変わりが分かるようになってきます。
とはいえ、急なにわか雨や、雷、突風などの被害を100%防げるものではありません。相場も同様で、何があるか分らないことを大前提としながらも確率の大きな方に賭け、思惑とは違った時のリスク管理を忘れないことなのです。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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