あなたの答えは、残念ながら 不正解 です

今週の解答

[資金管理に関する問題]

あなたは余裕資金で株式投資を行っていますが、購入した銘柄が値下がりすることが多くあります。その都度、機械的に損切りをしていますが、それでは全く儲けが出ず、手法を変えるべきかと考えています。そんな時、友人がナンピン買いで利益を出しているという話を聞きました。ナンピン買いはリスクはありますが、ただ機械的に損切りをするよりは儲けにつながりそうな気もします。投資にナンピン買いを取り入れるべきでしょうか。

正解は・・・
(1)ナンピン買いはどのような場合でも避ける

ナンピン買いは、評価損からの脱出という消極的な目的のために、多額の資金と時間をかけるという、戦術的にリスクとリターンとが見合わない拙い手法です。正解は、(1)の「ナンピン買いはどのような場合でも避ける」となります。


相場で取引が成立することを「出合い」といいます。売り手には売る事情があったり、値が下がると思っています。買い手には買う事情があったり、値が上がると思っています。出合いでは、同じものが同じ価格なのに、正反対の事情や見方が相対しています。


つまり、どのような場合にでも選択肢(2)のように、今後値上がりすると思われる要素は出合いの数だけ存在します。同じように値下がりすると思われる要素も出合いの数だけ存在し、結果としてあなたが買った銘柄が下がっているのです。ここでのナンピン買いは、あなたが相手の事情や感情を察することができない、独りよがりの人間であることの証明でしかありません。(2)のような考え方で資金運用をしていると、いつか破滅してしまうことになるでしょう。


選択肢(3)の、「相場は必ず上下するもので、ナンピン買いで利益を上げられる可能性も十分ある」ことは事実です。誰しも損切りで底値を売るのは嫌なので、相場の反発を期待するものです。ナンピン買いすれば買いコストが平準化され下がるので、勝率が高まります。とはいえ、勝率と引き換えに、やられる時には大損するのです。あなたが息の長い投資生活を望むならば、ナンピンを選択肢から外さねばなりません。(3)も不正解です。


実を言うと、プロのなかにもナンピンこそが相場の秘訣だと考えるものが多くいます。かつての私の仲間にも、ナンピン買いが好きな奴がいました。彼はナンピンで大儲けをし、巨額のボーナスを受け取りました。翌年、彼はナンピンで前年儲けた以上の大損をし、クビになって会社を去りました。


彼が儲けた年に得たものは、日本のサラリーマンの十数人分の生涯賃金にもなろうかというボーナスでした。そして、翌年になくしたものは職だけでした。彼が、前年に貰ったボーナスを返却したという話は聞いていません。


彼だけでなく、海外のトレーダーのなかには、大きな資金を動かせる立場になったことで、すでに勝負に勝ったも同然と考える人がいるのです。いくつかの会社を渡り歩く経営者にも、そういった考えの人はいることでしょう。サブプライム問題で職を辞した経営者にも見られたように、彼らは会社の金を使って大勝負をします。勝てばもちろん、会社だけでなく自分自身も潤いますが、負けても損をするのは会社だけで、自分が失うのは職だけなのです。


評判ですか?相場の世界では不正でもしない限り、大勝負ができる男(女)ということで、むしろ評価が上がるのです。そして、他の会社に高給で迎えられることも稀ではありません。会社のためにと不正まで働き、自分自身の儲けなどほとんどなく刑務所にまでいく日本人がいるのとは、なんたる大きな違いでしょうか。


日本人でもナンピンで破滅した人は多くいます。自分の勝負のために会社を利用する、いわば確信犯的な先の外国人トレーダーたちと違って、彼らは自分の職や会社のためにと頑張ります。金融機関などを舞台に、スキャンダルにまでなったトレーディングでの大損失のいくつかは、ナンピンでやられています。そして彼らの多くは、不正操作までしてしまうのです。


どうしてナンピンは、そのように大儲けもできれば、大損にもなるのか、ここで少し振り返ってみましょう。


最初はつまらない額の損なのです。「評価損」を「実現損」にするのが嫌でナンピン買いをします。ナンピン買いとは、買って値下がりすればさらに買い増すことです。価格に波動はつきものなので一方向に突っ走る相場などそれほど多くはなく、無事に切り抜けます。


何度かそういうことを繰り返すと、相場のコツを掴んだ気になり自信を持ちます。ナンピン買いは、トータルコストをどんどん下げていくので、少しの反発でも生き返るのです。英語では、ナンピンのことを「コストの平均化(averaging cost)と呼んでいます。相場が50%下げると、元の値段に回復するには100%の上げを必要とします。ところが、下値で同量のナンピンをすると、50%で回復します。さらに多めに買うと、わずかな戻しでも回復します。


上げ下げ五分五分のはずの相場で異常な勝率を自慢する人は、利食いが早いか、ナンピンするかの人だと思います。ともあれ勝率が高まると、周りが一目置くようになります。そうしてナンピンは癖になるのです。


いつの間にかポジションが膨らみ過ぎていて、ときどき恐い思いをするようになります。そこもさらなるナンピンで切り抜けます。ここまでくると破滅は目の前です。彼は、ナンピンして我慢しさえすれば、いつか浮かび上がれるものと思っています。そして、ナンピンで損を抱えたまま、所属する会社の決算をまたぐようなことがあると、損を計上するのを避けるため、その場しのぎの「奥の手」を使ってしまうのです。


「損隠し」です。当初は一時しのぎのつもりです。どうせ相場はいずれ戻るのです。そのときまでの応急処置というわけです。それが機能すればほっと一息で、「もうあんな恐い思いは嫌だ」と、そのときは反省します。しかし、一度覚えた悪癖は、困ったときには必ず出てきます。一度うまい汁を吸った者が再び困窮すると、誘惑には勝てないものなのです。


そして、ナンピンを繰り返しているうちに、どうにも隠せないほどに損失が膨らむことになり、破滅に至るのです。あるいは、不正のチェックが先にきます。


とはいえ、不正が発覚して捕らえられることになっても、まだ運が悪かったとしか思えない人もいるでしょう。彼らにとっては、「勝ち続けてきたのに、たった1回の失敗でやられた」としか思えないのです。また、不正が発覚さえしなければ、そのまま続けて勝てていたとも考えるでしょう。


しかし、「飛ばし」や「損隠し」に至らずとも、ナンピンは単なるギャンブルです。どんなに負け続けていても倍々と掛け金を増やしていけば、たった1回の勝ちで取り戻せる。ギャンブルで身を持ち崩す人の発想なのです。ギャンブルで破滅した人たちも、「資金さえ続けば、誰にも邪魔されなければ勝てたはずだ」と思うのでしょう。ところが、どこかで資金の限界はくるものです。


また、株式で資金の続く限り個別株をナンピンし、買い占めてしまうと、特定少数の株主(自分のこと)で発行株式数の大半を所有してしまうことになり、上場廃止となって売れなくなります。


このように、どこまでも大きなリスクを取り続ける人とは、勝てば自分の利益、負けても会社を辞めるだけと割り切っている人か、このまま損失を計上すれば身の破滅、同じ破滅するのならもう一勝負してからと考えるスキャンダル一直線の人のどちらかでしょう。私はどちらも見てきました。


個人投資家は自分の資金を運用しているのですから、ナンピンのメリットはありません。買ったのに思惑通りに上がらない確率は5割あります。そんな場合は損が大きくならないうちに損切っておいて、思惑通りに上げた残りの5割で勝負するのです。そのことを辛抱強く繰り返していれば、いつか儲けることができるようになります。


少し長くなりますが、拙著『実践・生き残りのディーリング』にナンピンについてまとめていますので、最後に該当箇所を引用し、締めくくりとします。


90. ナンピン買いの効用

以下の文は、私が以前に、ナンピン買いについてまとめていたものです。バブル期に書いたため、株式は上がるものという前提がなされています。にもかかわらず、ナンピン買いを否定しています。時代は変わり、株式が必ず上がるものと思っている人は、ほとんどいないでしょうが、将来また同じ間違いを繰り返さないとはいえません。そのときに備えていっておきます。


ナンピン買いは、たとえ右肩上がりの相場でも、してはならないのです。


長期投資をもっぱらとする株式では、依然としてナンピン買いに対する強い信仰があります。「辛抱できない奴は儲からない」「自分を信じたものが勝つ」「損切りなどもってのほか」などと、当初の売買の動意を大切に守り、いかに我慢強いかが株式投資の秘訣である、と説く人がいます。長期にわたる株式のチャートを見ていると、それらの意見は、歴史的に証明済みのように思えます。


株式が必ず値上がりするもので、ただ値上がりに要する時間だけが問題なのだとすれば、投資家やアナリストが銘柄を吟味するのは、より早く、より効率的に上がる株を探すためということになります。


そうだとすれば、買って値下がりした株をじっと辛抱して持ち続け、時間をかけて値上がりを待つことは、投資として非効率といえないでしょうか。株式が必ず上がるものだとすれば、株式投資にとって重要なのは、買いのタイミングだけということになります。そして購入株の値が下がるのは、そのタイミングを間違えた結果なのですから、投資の失敗を意味するはずです。


買った株が値下がるのは、どこかで何かを間違えたのです。買いの動意となったシナリオに何の間違いも見出せなければ、単に買いのタイミングを間違えたのです。間違いは早めに修正しましょう。さもなければ、今度は売りのタイミングを逃すという間違いを犯します。


何ごとも間違えば素直に非を認めることが肝心でしょう。相場だけが例外で、「間違えても非を認めなければ負けがない」などということではないはずです。いったん損切りして出直すべきなのです。そして手仕舞ったあとに、シナリオをもう一度点検します。


こう書くといかにも悠長に聞こえ、再投資の買いタイミングを逃してしまうのではないか、と思う人がいるかもしれません。しかしいったん手仕舞って、余裕を持って入り直すことが重要なので、何も長い時間をかける必要はありません。場合によっては数分でもよいのです。


相場に焦りは禁物です。そもそも、その焦りが当初のタイミングを見誤らせたのです。また、買いのタイミングを間違えるということ自体が、シナリオを組み立てた時点では予期していなかった事態の出現を暗示していないでしょうか。「あんな売り物は予期していなかった」のなら、そんな売り物を引き出した動意を探らねばなりません。もしかすると、その動意は、ほかの売り物を引き出すかも知れないのです。


いずれにせよ、買った自分のシナリオが、売り手の事情に負けたのです。その事情が深刻ならば、いかに資金を注ぎ込んでも勝てはしません。


相場は売り買いが出合って成立します。考え方によっては、相場の参加者の半数は必ず間違っているといえるかもしれません。自分だけが例外で、常に正しいと思うのは勝手ですが、現実に買ったものが値下がりしているのなら、負け犬の遠吠えに聞こえます。


評価損を持ち続け、益がでるのを待って利食い、何とか相場に勝てた、という人の話はよく聞きます。確かに株式の長期トレンドは、右肩上がりです。また、それを享受した人だけが、自慢話をしているのでしょう。ところが、インフレ率を差し引いたあとの利益がどれほどのものであるかは疑問です。資産の価値を計る目安として、インフレ率は常に重要なのです。数年待っていて、時価が買いコストを上回ったところで自慢してみてもつまらないでしょう。戦後の日本経済は成長の歴史です。そのなかで、評価損から抜け出すためにだけに資金が眠っていたのだとすれば、彼の投資は失敗だったいわざるをえません。


株のセールスマン、とくに個人客相手のセールスマンは、ナンピン買いが好きのようです。なぜなら、まず第一に、顧客に損切らせてしまったなら、そのあとの注文を取るのが困難になります。自分が推奨して買ってもらった銘柄を損切らせてしまったなら、損をさせられたという結果だけが残ります。印象が非常に悪いのです。おまけに、「他人の金だと思って、セールスマンは気楽なものだ」などと思われてしまったなら、そのお客さんとの縁も損切りとともに切れてしまうのです。


次に、ナンピン買いをすれば当然買いコストが下がり、勝つ確率が格段に高まります。何回かのナンピン買いにより、買いコストが相当低くなっていれば、わずかな戻しででも評価損から脱出できます。勝率が9割にまで高まれば、10人の顧客のうち9人は勝てるということです。残る1人は、間違いなく破産するのでしょうが、損切らせて顧客全員を失うよりはよいという考え方です。


第三に、お客さんと一緒に長く苦しむという行為が、顧客とセールスマンとの絆を深め、ナンピンが効を奏した暁には祝杯でもということになりがちです。苦しんだあとだけに、責任感の強い頼もしい奴という印象すら残せます。


第四に、これもセールスマンにとって重要なことなのですが、度重なるナンピン買いによって、顧客の懐具合を正確につかむことができるのです。当初のセールスの勧めに、「有り金全部注ぎ込んで」と口で言う人がいたとしても、実際に注ぎ込む人はまずいません。「ここが我慢のしどころ」と追い詰めに詰められて、初めて虎の子の資金がでてきたり、借金までして資金集めをするのです。したがって、当初あの客からは1億円までと思っていたのが、度重なるナンピン買いにより、数億円の資金力を持っていたと判明することが、ままあるでしょう。これは次回からの営業に役立つ情報なのです。


ここでことわっておきますが、私に個人客セールスの経験はありません。したがってこれらの話は、私自身が会社の資金を、債券や為替で運用する経験から推測しているだけです。結果的に、株のセールスマンを侮辱してしまったなら、申しわけなく思いますが、私は相場のリスクを語ったつもりです。


ナンピンは、評価損からの脱出という消極的な目的のために多大のリスクを取るという、戦術的には拙い手法です。勝率が高まっても、損益の総額では負けてしまうのです。やり直しのきかない相場などありません。いったん損切ってから、次の展開に備えるのです。

残念ながら不正解だったあなたは・・・

実際に運用をする前に、ほかの「資金管理に関する問題」で、さらに勉強しましょう。

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プロフィール

【監修】矢口新(やぐち・あらた)
テクニカル指標の成績表

1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。

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