あなたの答えは、残念ながら 不正解 です

今週の解答

[ニュースに関する問題]

日経平均株価は、米株安などを受け連日2〜3%程の大きな値下がりを記録した後、軽い反発を見せる日が続いています。そのような状況の中、東証1部の売買代金が今年最高を記録したというニュースがありました。このニュースをもとにすると、今後の日経平均株価はどう動くと予想できるでしょうか。

正解は・・・
(3)売買代金と株価動向の相関性は乏しく、それだけでは予想できない

相場での売買成立を出合といいます。英語では change hands ともいい、その商品の持ち主が替わることを意味します。出合での売り買いは常に同数ですから、この量がどんなに大きくなっても持ち主が大きく入れ替わるだけで、それ自体が価格に与える影響力はありません。正解は、(3)の「売買代金と株価動向の相関性は乏しく、それだけでは予想できない」となります。


他の選択肢に触れる前に、まずは出合につてさらに詳しく解説しましょう。


出合での売り買いが常に同数であるにもかかわらず、価格が上下に動くのは、売り買いのポジションの保有期間に差があるからです。「買い手が売り手よりもポジションを長く保有する」と相場は上昇し、逆に「売り手が買い手よりもポジションを長く保有する」と下落します。


買い手が売り手よりもポジションを長く保有することの例として、買い手はポジション(買い持ち)を1年間保有できる、売り手は翌日までの1日だけポジション(売り持ち)を保有できることにしましょう。条件を切実化させるために、これを売り持ち(空売り)規制とし、守らねば罰せられることとします。


買い手には買い手の事情や意欲があり、売り手には売り手の事情や意欲があって出合っていますから、その日の相場は見合ったままで動きません。しかし、翌日には売り手は与えられた条件(=1日しか持てない)によって、ショートカバーをしなければなりません。どんなに売り持ちを保有していたくても、買い戻さねばならないという切実な事情があります。そこで昨日の売り手はビッド(買い指値)をいれたり、オファー(売り呼び値)をとったりして、今度は買い手にまわります。無事に買えればスクエアとなり、ポジションはゼロとなります。


当初の買い手は1年間持てますので動きません。当初の売り手は買い戻せたのでスクエア(何もない状態)ですが、今度はそのショートカバーに付き合った新たな売り手が存在します。この売り手もまた1日しかポジションを持てませんので、翌日にはショートカバーを行います。こういったショートカバーの連鎖は、当初の買い手が1年後にポジションを閉じるために売るまで続きます。この市場には今後1年間、毎日、どんな値段ででも買い戻さねばならない切実な買い手があらわれることになります。


毎日切実な買い手があらわれる市場では、売り手はいやいや売り向かうことになります。その売り手も翌日にはなんとかカバーしなければならないのですから、損せずにカバーできるような値段、つまり随分高いオファーを提示するようになります。こうして当初のたった1件の出合が価格の高騰を生んでしまうのです。


そんなものは机上の空論ではないかと考える人がいるでしょう。私は現場たたき上げの人間ですから、純粋な理論のための理論とは無縁で、こういったことは実際の相場の値動きから会得したものです。


例えば、外為市場で日本の石油会社が銀行からドルを買う場合、石油会社が買ったドルは産油国や石油メジャーに支払われてしまい、いつまで待っても石油会社からのドルの売り戻しは出てきません。一方、石油会社にドルを売った外為銀行はすぐにドルを買い戻しますので、この出合だけだと、ドルは限りなく上昇することになります。そうならないのは、自動車会社のように、買い戻しをしないドルの売り手がいるためです。そういった輸入金額と輸出金額とを相殺したものが貿易収支です。つまり、貿易黒字とは外貨余剰、円貨不足なので、円高圧力が働くことになります。


また、バブル崩壊までの日本株式市場では銀行や企業がお互いの株式を持ち合っていました。バブル相場の底辺には超長期で株式を保有している人たちがいたのです。こうした持ち合い構造の安定株主たちは、株価が上がろうが下がろうが持ったままです。発行株式の多くはそういった形で持ち合われ、限られた浮動株だけをいくらでも借金して買うのですから、バブルにもなろうというものです。


ポストバブル期はこれらが逆転しました。信用で買っていた人の投げ、日経リンク債などさまざまな仕組み商品により株式を持たされた人の投げなどに加えて、持ち合い株の解消売りや、年金の代行返上売りなどがでました。どれもが買い戻しを前提としない売り切りです。売れるということは、誰かが買っているのですが、その買い手が証券ディーラーや、目先の戻しだけを取ろうとする人ですと、その後上がっても下がっても、結局は転売してしまいます。ここでも売り手と買い手とのポジションの保有期間に大差ができていたのです。


1日の買い持ちは1日だけ相場を支えている。1年の買い持ちは1年間相場を支えている。10年債の買い切りは10年間相場を支えている。実需の買い切りは永遠に相場を支えています。そういった買い切りに対抗できる力は、同じような性質を持つ売り切りしかありません。


つまり、日計りの買いはその日の数時間相場を支えているだけなので、いずれ売りが出る。ヘッジファンドの買いは数日から数カ月相場を支えているが、やはり、いずれは売りが出る。しかし、年金基金の運用や外為市場での輸出入といった実需は、売り戻し買い戻しをやらないか相当長く保有しているので、相場に長く影響を与え続けるのです。これは重要なことで、それが分かれば、おおまかな相場の見通しを得ることができます。


さて、今回の問題に戻りましょう。


すべての市場参加者のポジションの保有期間が分かれば、相場の次の動きが大体見えるようになるのですが、それはなかなか望めません。それで実際の値動きから、次の動きを類推することになります。テクニカル分析です。


出来高が通常以上に膨らむのは、デイトレーダーなどいつもの参加者がより活発になっているか、いつもの参加者以外の参入が見られるかのどちらかです。どちらも同じ材料を見て、お互いが刺激し合ってますから、参加者が増えつつ、それぞれが活発にもなっていることが多いでしょう。そうすると出来高に応じて、ごく短期の売買以外のポジションが膨らんでいきます。出来高を伴って下げ続けると、時価の上方に大きなしこりをつくります。


問題文からチャートを描くと、高値が切り下がりながら、下髭のある陰線が続いていることになります。出来高が大きく膨らんできているとはいえ、パニック的に売られ過ぎになっているようには見えません。


したがって、(1)のように「市場全体の投資意欲が高まっているので、今後は上げる」とは考えにくいと言えます。しかし、パニック的にここから更に1日で7〜8%も急落し、出来高も更に急増したなら、その後に考えられやすいのは売られ過ぎによる反発ですから、(2)の「最高を更新したということはその時点がピークなので、今後は下げる」とも言えないでしょう。


株価の先行きに対して、売買代金の大小はあくまで補助的な意味しか持ちません。決定的なのは保有期間の長短なのです。それを推し量るには、実際についた価格の過去の推移(チャート)から逆に辿るしかありません。相場で最も重要なのは値動きなのです。

残念ながら不正解だったあなたは・・・

実際に運用をする前に、ほかの「ニュースに関する問題」で、さらに勉強しましょう。

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プロフィール

【監修】矢口新(やぐち・あらた)
テクニカル指標の成績表

1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。

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