あなたの答えは、残念ながら 不正解 です

今週の解答

[ニュースに関する問題]

ある有名な格付け会社が、日本国債の格付けを大きく引き下げました。これまでも先進国最低レベルだった格付けがさらに低くなり、ニュースでも大きく取り上げられました。あなたが外需依存度の高い輸出関連銘柄を保有していて、他にこれといった材料が見当たらない場合、どうするのが最もよいでしょうか。

正解は・・・
(3)大きくニュースで取り上げられたとはいえ、債券の動向が株式市場に与える影響は限定的なので、株価がどう反応するかを見てから決める

日本国債の格付けが下がると、日本国債に対するクレジット・リスクが高まることから、円安ドル高の材料となります。円安ドル高は輸出企業の業績に貢献するため、あなたの保有する株価には好材料です。とはいえ、実際に円安ドル高に向かうという保証はなく、仮に円安ドル高になったとしても、輸出関連のあなたの銘柄が上がるという保証はありません。正解は(3)の「大きくニュースで取り上げられたとはいえ、債券の動向が株式市場に与える影響は限定的なので、株価がどう反応するかを見てから決める」となります。


ほかの選択肢を検討する前に、格付けについて概要を見ておきましょう。

債券のクレジット・リスクとは、債務不履行に至る危険性のリスクです。世界の2大格付け機関S&Pとムーディーズは、債券のクレジット・リスクを次のような段階で、リスク小からリスク大へと格付けしています。

S&P ムーディーズ
AAA Aaa
AA+ Aa1
AA Aa2
AA- Aa3
A+ A1
A A2
A- A3
BBB Bbb
BB、Bb以下は投資不適格、いわゆるジャンク債


知名度のそれほど高くない企業が債券市場で資金を調達しようとする際、投資家に受け入れてもらいやすくするために、格付け会社に発行債券の格付けを依頼します。格付け会社は発行企業の財務内容を点検し、債務不履行に至る危険性のリスクに応じて上記の格付けを与えます。


債券は発行企業の名前には関係なく、基本的に同格付は同じものと扱いますので、同期間の国債にクレジット・リスクの格付けに応じたスプレッドが上乗せされます。例えば、10年国債の利回りが4%で、AAA/Aaaのスプレッドが20bp(ベイシス・ポイント=0.01%)だとすれば、AAA/Aaaの10年満期の社債は概ね4.2%で取引されます。これによって、発行企業は資金調達のおおよそのコストが分かり、投資家はその債券のおおよそのクレジットリスクが分るのです。


格付け機関は著名な発行企業の債券に対し、投資家の便宜のために、発行企業の依頼もなしに格付けを提供することがあります。この格付けにより格下げにあった企業が、「勝手格付け」として反発したことがあったのを、ご記憶の方もいられることでしょう。私見を言えば、格付け機関が公に流通している債券に対して、クレジットリスクの変化に応じて格上げ格下げを行うのは当然の行為で、それがなければ公社債市場は機能を失って投資家が離れてしまいます。それが嫌な企業は投資家と向き合う直接金融市場から離れ、銀行などからの借入に依存すべきでしょう。


格付けは本来、個別の債券毎に格付けされるものですが、同じ発行体による同じ条件の債券は同じリスクと見なされるところから、発行体の格付けと同義のように扱われています。しかし、同じ発行体による債券でも、担保の有無、優先、劣後の違い、あるいは投資家や発行体に有利な条件が付与されていたりすると、投資家に有利な甲債の方が発行体に有利な乙債よりも高格付けになるのが普通です。


ちなみに、日本国債の2008年7月現在の格付けはS&PがAA、ムーディーズがAa3となっています。したがって今回の問題のように、日本国債の格付けが大きく引き下げられるというのは、S&PならAAがA+以下、ムーディーズならばAa3がA2以下というように、2段階以上の引き下げを意味します。


日本国債の利回りは世界水準からすれば極端に低いので、日本国債を保有する海外の投資家が通常の投資基準を用いているようには思われません。また格下げされたとはいえ、投資不適格になるにはまだまだ余裕がありますので、上記の投資家が慌てて売るとは思われません。つまり、この材料は、風が吹けば桶屋が儲かる式の、投機的な連想ゲームにすぎません。


したがって、選択肢(1)のように「日本の国力低下=円安を連想させるので、輸出関連銘柄を買い増す」ようなことをしても、うまく上げれば利食い、反対に下げれば損切りと、速めにポジションを閉じた方がいいでしょう。つまり、株価に反応せよということです。


(2)の「格付けは国力の一端であり、その引き下げは輸出関連であってもプラスに働くことはないので、いったんポジションを閉じる」は、国の格下げによるネガティブと、為替効果によるポジティブの綱引きですが、足が速い投機的な材料としてはポジティブの方が強いと思います。


いずれにせよ、風が吹けば桶屋が儲かる式なので、(3)の「大きくニュースで取り上げられたとはいえ、債券の動向が株式市場に与える影響は限定的なので、株価がどう反応するかを見てから決める」のが良いでしょう。

残念ながら不正解だったあなたは・・・

実際に運用をする前に、ほかの「ニュースに関する問題」で、さらに勉強しましょう。

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プロフィール

【監修】矢口新(やぐち・あらた)
テクニカル指標の成績表

1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。

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