今週の解答
[個別銘柄に関する問題]
あなたはこれまで、自分のよく知っている身近な銘柄の中から、将来性があると思ったものを選び、投資してきました。しかし、結果は芳しくありません。そこで、PERやPBR、EPS、ROE、優待+配当利回りなどの条件でスクリーニングをかけて銘柄を探すことにしました。その結果、条件に合致する銘柄をいくつか見つけることができましたが、どの銘柄も名前も聞いたことがなく、事業内容もよく知りません。このような場合、スクリーニングの結果をどう捉え、どう行動すべきでしょうか。
(3)スクリーニングは有効な手段の1つだか、機械的に銘柄を選別するだけなので、その銘柄を知っていても知らなくても、参考程度に留める
スクリーニングで分るのは、選んだ条件においてその銘柄が、対象全銘柄中に占める位置です。ところが、スクリーニングによってその銘柄が相対的に割安であると判明しても、それが将来の株価の上昇につながるかどうかは誰にも分かりません。誰も買わなければ割安に放置されるだけで、株価は上がりません。正解は(3)の「その銘柄を知っていても知らなくても、参考程度に留める」となります。
株式投資をどう始めたらいいか分からないという人の中には、多くの銘柄の中からどの銘柄を選んでいいか分からない人がいることと思います。個人投資家が自由に売買できる日本株は4,000銘柄を超えますので、自分で探すことができない人は、営業マンやアナリスト、雑誌などの意見を参考にすることになります。そういった他人任せの銘柄選択には一長一短があります。
長所は、
1、推薦されている銘柄はそれなりに知名度がある。誰も買わなければ株価は上がらないのだから、少なくとも証券会社の営業マンやアナリストに注目されているだけでも上げる可能性がある。
2、推薦されている銘柄は、推薦される理由が明確になっているので、その理由をもとに自分で判断することができる。
短所は、
1、推薦する人の事情や意向、あるいは趣味を反映している。
2、彼らが語っているのは銘柄の良し悪し、あるいは好き嫌いであって、そのことと将来の株価との関連性は必ずしも高くない。
などといったところです。そして、いつまでも他人任せの銘柄選択をしていては、自分で銘柄を選択するという力は一向についてきません。そこで、PERやPBR、EPS、ROE、優待+配当利回りなどを根拠に、ある銘柄を推薦する人がいたなら、鵜呑みにするだけでなく自分でスクリーニングをかければいいのです。
ここで、念のために問題で挙げた指標を簡単に説明しておきます。
PER:株価収益率(Price Earnings Ratio)
株価をEPS(一株当たり利益)で割ったもの。株価が収益の何倍まで買われているかをみる。株価が500円で、EPSが50円ならば、株価収益率は10倍となる。株価収益率の基本的な特徴は、株価の相対的水準を測る尺度として、株式利回りを算出する際に使用する配当金(株主に分配される部分)に代えて、内部留保される分をも含めた利益金を採用していること。
PBR:株価純資産倍率(Price Book-value Ratio)
株価を1株当たり純資産(=貸借対照表上での株主資本にあたるもので、資本金、資本準備金、利益準備金などで構成)で割ったもの。株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているのかを示す。株価が1,000円で、1株当たり純資産が500円なら株価純資産倍率は2倍となる。会社を解散した際に、最後に株主の持ち分として残る純資産は、解散価値を表しているともいえる。
株価収益率が株価と利益(フロー)の関係を表しているのに対し、株価純資産倍率は株価と純資産(ストック)の関係を表しており、株価収益率同様、株価の相対水準を示す指標。
EPS:一株当たり利益(Earnings Per Share)
当期利益(税引後利益)を発行済み株式数で割ったもの。
ROE:株主資本利益率(Retuen On Equity)
自己資本利益率。当期純利益(税引後利益)を、前期及び当期の株主資本の平均値で割ったもの。
優待+配当利回り
株主優待制度を金銭価値に直したものと配当金の合計を、投下資金で割ったもの。
例えば、優待+配当を根拠にA社株を推奨する人がいたなら、自分で優待+配当利回りを条件にスクリーニングをかけてみます。するとA社株以上に優待+配当利回りが高い銘柄が見つかることでしょう。そこでしばしば直面するのが、今回の問題の「どの銘柄も名前も聞いたことがなく、事業内容もよく知りません」といった事態です。
A社株の魅力が基本的に優待+配当利回りだけだという時、同じ条件ではるかに優位にあるB社株を、自分が知らないという理由だけで避けるというのはただの怠慢です。今はインターネットでの検索を通じて、上場株の事業内容や財務状況を知ることができるので、調べればいいのです。
また他の条件でも検索してみて、どの条件でもA社株よりB社株が優れていた場合、それまで馴染みがなかったからという理由だけでB社株を敬遠することは避けるべきでしょう。選択肢(2)の「『遠くのものは避けよ』の格言の通り、よく知らない銘柄には手を出さない」は、不正解です。
ところが、どんなにファンダメンタルズ的には良い株であっても、株価が上昇するとは限りません。多くの買い手がいても、何らかの事情でそれ以上に売る人たちがいれば、株価は下がってしまいます。それでも良い株なのだからと保有しているうちに、その企業を取り巻く環境や企業自身が変わってしまい、ファンダメンタルズ的にも悪化してしまうようなことも起こりえます。したがって(1)の選択肢、「自分の限られた知識の範囲にとらわれず、その結果をもとに買ってみる」ことを、そのままで正解とすることはできません。
企業のファンダメンタルズと株価とが同じように動くとは言えませんが、株価と損益とは直接的につながっています。その株価を記録したものがチャートですので、買う前にチャートをチェックすることは重要です。とはいえ、チャートも過去から今までの値動きの記録でしかありませんから、未来の株価までは分かりません。そこで忘れてはならないのがリスク管理なのです。
身近な銘柄の株価が上がらないからといって、すべての銘柄がそうであるとは限りません。スクリーニングでは効率的に良い条件の銘柄を絞り込むことができます。そこで目ぼしい銘柄が見つかったなら、そのチャートをチェックします。ポイントは急角度で買われ過ぎてはいないか、あるいは底値が固まってきているかなどです。また、株価のゆらぎを考慮して、そこまで下げたら損切るというレベルを決めておきます。大体の利食いレベルも決めておいていいでしょう。
相場では少しでも勝つ確率を高めるようにします。ファンダメンタルズに優れたもの、チャートの形のいいものを組み合わせれば、それだけ確率が高くなります。それでも思惑とは違った時のリスク管理を忘れなければ、あなたの収益は安定するようになってきます。
見事正解だったあなたは・・・
油断は禁物、ほかのカテゴリの問題にも挑戦してさらにセンスを磨く努力を怠らないようにしましょう。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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