今週の解答
[その他の問題]
あなたは会社勤めをしながら、スイングトレーダーとしていくつかの銘柄を保有しています。そんな時、翌日から3日間の急な出張を命じられました。保有している銘柄を見てみると、市場全体の軟調な展開に引きずられてか、いずれも値下がりし、損切りラインには達していませんが、多少の損が出ています。一方、チャートを見ると全体的に反発の兆しも見られます。出張先では、いつも通りというわけにはいきませんが、売買をすることもできそうです。また、あなたは売り崩しに会うことも多いので、いつもは逆指値は利用していません。このような場合、どうするのがよいでしょうか。
(2)損切りラインに達しておらず反発の兆しが見られるのであればいったんポジションはそのままにし、この時だけは逆指値を利用し、いつも通りの売買ができない出張先では下手に売買はしない
急な出張を命じられるということは、あなたはそれなりに大事な仕事を任されているのでしょう。仕事をなめてはいけません。同様に、相場もなめてはいけません。二兎を追うものは一兎も得ずです。正解は(2)の、「ポジションはそのままにし、この時だけは逆指値を利用し、いつも通りの売買ができない出張先では下手に売買はしない」となります。
会社勤めの人が相場をやるのは間違いだと言ってるわけではありません。むしろ私は、自分が勤めている会社と一蓮托生の運命を避けるためには、他社の株式を保有することも重要だと勧めています。近年は一部上場企業といえど、比較的短期間のうちに破たんしてしまうことが珍しくありません。経営者ならば事情が分かっていたり、再起をはかれるリソースを持っていたりしますが、多くの従業員にとっては青天の霹靂でしょう。その時、他社の株式を含めた金融資産を保有していたり、トレーディングのノウハウがあると、その後の人生の大きな支えとなるのです。
長寿時代、無事に定年退職を迎えても、その後の人生の支えがいります。投資運用は世界情勢に密に接するという意味からも、社会とつながりを持った人生を送ることができます。もう人間社会との関わりは十分だと、大自然だけに抱かれる余生を望む人でも、他人に迷惑をかけたくなければ、体力の衰えた老後に経済的な支えは不可欠です。相場に親しむことはあなたの人生の大きな選択肢の1つなのです。
とはいえ、まだ現役バリバリの勤め人でいながら、出張中にも相場が気になるというのはいただけません。たとえば、主張先相手との出会いがしらに先方が言った「今朝、日経平均が暴落していますね」などという世間一般の挨拶代わりの言葉で、あなたは肝心な仕事に身が入らなくなってしまうかも知れません。そんなことで大事な仕事をミスってしまえば、社会人としてのあなた自身という「株」も暴落していまいます。それでは会社との一蓮托生のヘッジに始めた株式投資が、まったくヘッジにならずに両方で損を出すということになってしまうのです。もしも職と金融資産とを同時に失ったら、目も当てられません。
仕事をする時には仕事に集中できる環境を、相場をする時には相場に集中できる環境を整える必要があります。会社勤めの人の場合には、仕事の環境を自分に合わすことが困難なので、相場環境を勤めの環境に合わせることで、十分にどちらにも全力で向かうことが可能です。
日中勤めている人は、場中に張り付いて集中力を要求されるデイトレは不可能です。職場のパソコンから株価の動きを見ているという人たちは、デイトレというより、何日間から数週間ポジションを保有するスイングトレードなどの株価の動きをチェックしているのだと思います。チェックしてどうなるというのでしょう。そこで売買するのなら仕事は手抜きでしかなく、ただ見ているだけならば心が乱れるだけで、気休めにもなりません。
会社勤めの人が行うスイングトレードは、造りも手仕舞いもオーダーを入れるのがいいでしょう。場中に自ら売買しないのを物足りなく思う人もいるでしょうが、プロの運用者でもオーダーのみの人は多いのです。大きな資金を動かすプロが、場中の動きに反応して売買すると想定外に値を飛ばしてしまうことが多いからです。このような流動性を考慮する場合の他にも、中長期の運用でターゲットを決めて行うものでは、オーダーのみの売買で十分だと言えます。
他の選択肢も見てみましょう。
(1)の「いつも通りの売買ができないのであれば、損切りラインに達していなくてもポジションを閉じてから出張に行く」のは、メリハリをつけるという意味では正しいのですが、このような事情で損失を確定させてしまうのは残念です。「反発の兆し」というのが相場の側の事情ですから、自分の事情より優先させたいものです。
(3)の「この時点で決めることはできないので、損切りラインに達したら売る、反発するようなら買い増すなどができるよう、出張先でもできるだけこまめに相場を見る」というのは、仕事と相場と二股をかけた状態ですので、賛成できません。
したがって、正解は(2)の「いったんポジションはそのままにし、出張先では下手に売買はしない」になるのですが、いくつかの条件があります。
まず、「全体的に反発の兆し」とありますが、軟調な地合いのなか、すべての保有銘柄が反発しそうだという訳ではないでしょう。何日間かは不自由になるのですから、損切る銘柄、残す銘柄と絞り込むようにします。そして、残す銘柄は損切りの逆指値と、利食いの指値を入れるようにします。
また、夜にホテルで株価をチェックする時間があったなら、上記の逆指値と指値とがずれ始めていないかチェックし、必要とあれば入れ直します。その時間がなければ当初通りでもいいでしょう。
損切りの逆指値に関しては売り崩しに会うなど、利用されることを嫌う人も多いのですが、大損失につながる危険を未然に防ぐのが損切りですので、避けて通ることはできません。どうしても逆指値が嫌なのなら、軟調な地合いなのにいつまでも保有していないで、ここに至る前に損切っておくことをお勧めします。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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