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米国住宅ローンを下敷きにしたサブプライム・ローン関連商品で、欧米の金融機関は巨額の損失を計上し、百数十年(明治維新の頃から)の歴史を持つ大手の米投資銀行がすべてその形態を変えてしまいました。ノーベル賞クラスの高度な数学を駆使しリスクを完璧に封じ込めていたはずのサブプライム・ローン関連商品で、どうしてそのような巨額の損失が発生したのか不思議な気がします。個人投資家にサブプライム・ローン関連商品は直接には関係ありませんが、あなたが金融機関の担当者になったと仮定すれば、今後、どうすれば良いと思われますか?

正解は・・・
(2)住宅価格が値下がり始めた時に、損切りを忘れないようにし、住宅関連商品への投資を続ける


投資物件が値下がり始めた時、損失の拡大を防ぐ最も効果的な方法は損切りです。正解は(2)の「住宅価格が値下がり始めた時に、損切りを忘れないようにし、住宅関連商品への投資を続ける」になります。


まずは今現在、問題となっているサブプライム問題を復習してみましょう。


アメリカの住宅市場は1990年代の初めから10数年間の上昇トレンドを保ちました。上昇トレンドが長く続くと、多くの人が買ってしまう、価格が上がる、などから、買える人が減ってきます。一方で、トレンドがまだ続くと信じて建て過ぎてしまうので、物件が余ってきます。業者としては何としてでも買い手を見つける必要が出てきます。そこで業者が金融機関と組み、それまで信用力がないために住宅価格の上昇を指をくわえて見ていた人たちに融資を持ちかけて、新たな購買者層を作り上げたのがサブプライム・ローンなのです。


金融機関は、自分の家が欲しいという欲求だけでもともと資金力がない人に、3倍近くに値上がりした物件を買わせるためにサブプライム・ローンを貸し付けました。常識的に考えれば、宝くじにでも当たらない限りそのローンの返済は不可能ですが、住宅価格が更に上昇すれば転売するなどして支払うことができます。


一方で、金融機関はローンの残高を減らし新しい貸出に向かえるように、既存のローンを債券化して他の金融機関に売り払うことにしました。そのサブプライム・ローン証券化商品は債務不履行の可能性リスクに応じてパッケージ化され、保険会社や保証機関の債務保証なども付け加えて、世界中の金融機関に販売されました。こうして、アメリカの資金力のない人がした大借金が返済不能に至る(必然の)リスクが、保険会社などを含む世界中の金融機関に分散されることになりました。


ところが、2005年後半から新築住宅販売件数が、2006年初頭をピークに住宅着工件数が、急激に落ち始めました。とうとうアメリカの住宅市場は飽和状態に至り、(住人は名目だけで実質的には金融機関が住宅を購入する)サブプライム・ローンをもってしても、新たな購買者を見つけることができなくなりました。住宅需要が大幅に先食いされていた上に、価格が高すぎて誰も買えなくなっていたのです。


これは典型的なバブルの末期的症状です。しかし、住宅着工件数が1年前の6割ほどに減少した2007年初頭時点でも、まだ住宅価格は最高値圏にいましたので、バブルから無事に抜け出すことは可能なはずでした。日本の信託銀行の中には、住宅価格が下げ始めた時点でサブプライム関連商品を売り払ったところがあったと聞きます。サブプライムが問題化する2007年夏以前のことです。


ではなぜ、プロ中のプロと目されるアメリカの投資銀行やヘッジファンドが、バブルにつかまってしまったのでしょうか?それは、バブルの生成過程での、彼らの社内でのパワーバランスに注目すると、案外簡単に答えが見つかります。


大相場が続くと、その相場で大きく張った人間が大儲けできます。相場観の良い人というのは、大体において先見の明がありますので、相場の初期、中期には乗ることができますが、末期が近付くと、その先見の明によっていち早く相場を降りてしまいます。あるいは、リスク管理を徹底して、そこそこの利益で満足しようと考えるようになります。


ところが相場では、しばらく上げ相場が続いてから参入してくる人が多く、また、それまでの収益を背景に、さらに大きく張る人が出てきますので、相場は理論や需給などでは到底説明できないところまで上がるのが常です。そこで、相場の後期から末期にかけて大勝負をかけた人が大儲けできるようになります。


ヘッジファンドなどでは、四半期毎の運用成績が評価として世間に知れ渡りますので、成績の良いファンドには急激に資金が集まるようになります。サブプライムで儲けたファンドに大量のニューマネーが入ってきたなら、彼らは意を強くして、また出資者の期待に応えるためにも、サブプライムに追加投資します。


同じことは、金融機関の内部にもいえて、サブプライムで儲けた人がより多くの資金を扱えるようになるのです。彼らは社内でのいわゆる儲け頭ですから、トップですら遠慮がちになるほど発言力が増すようになります。そして、しばしば、中途半端にしか儲けることができない、したり顔のベテランを追い出すようなことをするのです。


きちっとデータを押さえていた人は、早い人(住宅販売を見ていた人)でバブルの最後の2年間、遅い人(住宅価格を見ていた人)でも最後の半年ほどを逃してしまっています。ディーラーなら攻撃された場合に生き残れない期間です。


いま株式会社の経営者は短期的な結果を出すことを求められています。彼が経営者で居続けるためには、四半期毎にそれなりの増益を出し続けねばなりません。そうでなければ、いつ株主から三下り半を突きつけられるか分からないのです。そうした経営者は、とかくアグレッシブなディーラーを重用したくなります。上げ相場で大きく買えるディーラーやヘッジファンドを最後の最後まで求め続けますので、バブルの最終局面でつかまるのです。


アメリカの経営者はバブルにつかまってもいいのです。彼が不正でもしていない限り、バブルで上げた報酬はそのまま彼のもとに残ります。また、バブル崩壊で職を追われても、不正がなければ退職金を受け取ることができます。メリルリンチの経営者の退職金は1億6,000万ドル(168億円)だと言われています。大勝負した者が勝ちなのです。
(参照)Merrill’s departing chief to get $160m

つまり、経営者がサブプライムでのイケイケ担当者を重用し、慎重な担当者やベテランの首を切り、あまり儲けていないセクションを縮小するのです。そして、バブルが破たんした後には、骨のあるディーラーは誰も残っていないようになります。これでは、損切りなどできるはずもありません。


結果として、アメリカには投資銀行(日本の証券会社)というものがなくなり、銀行が証券業務を兼ねるようになりました。当面は規制が強化されることになりますので、レバレッジ縮小の動きになるでしょうが、市場経済の仕組みと彼らのメンタリティを鑑みれば、銀行そのものが歯止めを失って相場にのめり込むのは時間の問題かと思います。


ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、メリルリンチ、リーマン・ブラザーズ、ベアスターンズという5大証券は2003年から2007年の5年間に、合わせて31億ドル(3,255億円)の報酬を経営者に支払っています。この金額はJPモルガンがベアスターンズ買収につかった資金の約3倍にもなります。
(参照)Wall Street Executives Made $3 Billion Before Crisis


サブプライム・ローン問題の要点は次の通りです。


1、米住宅価格が上がり続けるという前提があった。
2、パッケージ化されたローンの証券化商品にはもともと流動性に問題があった。
3、個々の金融機関は残高調整などのリスク管理を行っていた。
4、しかし、その個々が世界の金融機関、多くの業種にわたり肥大していた。
5、それらをすべて熟知しているはずの経営者に問題があった。

ここで、ノーベル賞クラスの高度な数学が関わっているのが、2と3です。つまり、金融商品の製作過程と、個々の金融機関でのリスクヘッジです。彼らの計算は緻密ですから、一見完璧な金融商品、完璧なリスクヘッジが出来上がります。しかし、私の知る限り彼らの計算に流動性が考慮されることはなく、仮にされていたとしても、まったく見当はずれのものであったことは、サブプライム・ローン関連商品が問題化したことでも明らかです。


完璧なリスクヘッジとは、買った商品を売り払うことです。その結果が利益でも損失でも、それ以上の評価損益はなくなります。損切りをしたくない人が、いろいろな理屈をつけて他の方法を考えます。その時に用いられるのがノーベル賞クラスの高度な数学なのですから、なんという貴重な才能の無駄遣いでしょう。損切りしていれば、リスクはなかったのです。


サブプライム問題では、2つの大きな流動性リスクがありました。1つは、商品そのものに流動性リスクがあったこと。2つ目は、皆で同じ方向のディールをしていたため、売りたい時にも売り手ばかりで、買い手が残っていなかったことです。


さて、今回の問題に戻り、ほかの選択肢を見てみましょう。


(1)の「高度な数式に用いた基礎的な要因を分析し改善して」も、それでは、巨額な損失から逃れることはできません。数学では、上に挙げた5つのサブプライム・ローン問題の要点のどれも解決することはできないのです。


(3)の「住宅市場はよく分からないので、住宅関連商品には手を出さない」では、住宅金融そのものを否定することにもなってしまいます。角を矯めて牛を殺してはいけません。


サブプライム・ローン関連商品だけではありません。相場が思惑とは逆に行き始めたなら、速やかに損切りすることが生き残る術です。

見事正解だったあなたは・・・

油断は禁物、ほかのカテゴリの問題にも挑戦してさらにセンスを磨く努力を怠らないようにしましょう。

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【監修】矢口新(やぐち・あらた)
テクニカル指標の成績表

1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。

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