今週の解答
[ニュースに関する問題]
あなたは、このところ証券口座の開設件数が急増しているというニュースを目にしました。株価の大暴落をチャンスと捉えた個人が、株式投資に挑戦しているようです。これまで投資経験が全くないあなたも、このニュースをきっかけに株に興味を持ち始めましたが、投資に関する知識がありません。このような場合、どうするのが最もよいでしょうか?
(2)確かにチャンスだが、勉強してある程度自信を持てるようになってから挑戦したほうがよい
宝くじに当たる秘訣は、まずは買うことだそうです。買わねば当たらないのは当然で、リスクを取らねばリターンもありません。宝くじのリスクは、外れても仕方がないと思えるほどの少額なリスク、いわば捨て金のリスクです。しかし、株式投資のリスクはそれなりの金額です。余裕資金とはいえ、捨て金という訳ではないでしょう。大事な資金を使うのですから、多少の勉強はして貰いたいものです。正解は、(2)の「確かにチャンスだが、勉強してある程度自信を持てるようになってから挑戦したほうがよい」となります。
私が日本の証券会社からアメリカの証券会社に移った頃、古巣にあたる日本の証券会社は、一時的にせよ収益日本一を達成し、世界で戦える金融機関として超優良企業と言われていました。その頃の株価は6,000円近くだったと思います。そして先日、2008年11月20日には、その会社の株価は600円台に落ちていました。つまり、かっては1,000株を買うのに、600万円近くかかっていたのが、いまは60数万円で買えてしまいます。どちらのリスクが大きいでしょうか?優良企業だからと高値を買うよりも、売られたところを買う方がリスクは小さいのです。
もちろん、まだ下がるかもしれませんが、余裕資金があるのならリスクを取ることも必要です。ここで、(1)の「余裕資金の範囲であれば、知識がなくても挑戦してみるのがよい」というのも分からないではないですが、自分で判断できるだけの知識はつけて下さい。知識があれば、値上がりする株を見つける確率が高まるだけでなく、リスクを最小限に限定する技術も身に付きます。拙著や、この養成講座のバックナンバーも、あなたのお役に立てることと思います。
今回のサブプライム問題に端を発した株価の急落、景気後退は、信用の収縮による株価の急落であり、景気の後退です。これまでの投資銀行に代表されるビジネスモデルは、信用供与によるレバレッジ効果と、需要を先食いすることにより伸びてきました。サブプライムローンは、まったく資金の裏付けのない人にまで信用で住宅を買わせるという形で、住宅需要を極限まで先食いしてしまいました。一方、資金のある人はセカンドハウスを買いました。オートローンやクレジットカードによる需要の先食いもありました。つまり、世界は何年も先まで需要を先食いすることで、成長率を維持してきたのです。
こうしたビジネスモデルは、信用が加速度的に増大し続ければ需要をどんどん先食いすることで、いつまでも成長するかのような幻想を抱かせます。これが市場価格に連動すると、いわゆるバブルとなります。しかし、どんな信用拡大も、バブルも、自らの重みに耐えられなくなり破裂する運命を迎えます。これらの仕組みについては拙著『実践、生き残りのディーリング』をご参照下さい。
さて、拡大し過ぎた信用供与が正常に戻る過程では、逆レバレッジ効果による売り物が出てしまいます。また、需要が大幅に先食いされているので、しばらくの景気後退は避けられません。そこで今回、日本株も急落し、日本経済はリセッション入りしてしまいました。
とはいえ、それまでの日本株は住宅関連証券化商品や、原油などの商品市場、新興国の株式市場、債券市場などに比べて、著しくパフォーマンスが劣っていましたので、まともな投機筋が相手にしていたとは思えません。今の日本株のレベルは、 2003年の大底レベルですので、まさしく投機筋が売りつくしたレベルだと言えます。
ここしばらくは企業収益の落ち込みは避けられませんが、株価は収益力と比例するわけではありません。もし、正比例するならば、赤字会社の株価はゼロ円以下になってしまいます。
一方、11月20日引けの時点で、東証1部全銘柄のPBR(株価純資産倍率)は0.88倍です。これは100万円の価値のある資産を88万円で買えることを意味します。平均値がこれですから、とんでもなく割安になっている銘柄がたくさんあることになります。それでも、売り手が多ければ株価は更に下がります。ただし今は、日本のバブル崩壊後の失われた10年の頃にように、持合い株の解消売りや、年金の代行返上売りが出るわけではありません。むしろ、今これらの実需は、自社株買いとともに株式の買い手になっています。
ここで、同日の引けの時点での、東証1部2部合わせた時価総額は260兆円あまりです。つまり、260兆円あれば東証1部2部上場企業のすべてが買えてしまいます。売り手がその値段で売りたくなければ株価は上がります。日本人の個人の金融資産は1,500兆円ありますから、その気になれば、景気後退でも赤字でも、株価は何倍にも上昇します。買った株価が上昇すれば金融資産も増えますので、景気浮揚につながる効果も出てきます。つまり、リスクを取れば十分に見返りが望めるのです。
日本人は先進国の中で、最も株式投資に消極的でいながら、最も退職後や老後に関して悲観的です。つまり、自らは行動せず政府まかせで、結果的に「座して死を待つ」という国民性が見て取れます。いまの日本人に必要なのは、株式投資などリスクに向かう姿勢です。選択肢(3)のように、「ベテランにとっても難しい状況なので、市場環境が改善するまでは手を出さないほうがよい」という姿勢が、市場環境の改善を遅らせているのです。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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