今週の解答
[個別銘柄に関する問題]
あなたはファンダメンタルズや今の株価水準などを検討し、ある大型銘柄を中長期投資目的で購入しようとしています。調べてみると、この銘柄は特に材料がない日でもそれなりに商いされており、出来高ランキングの上位にも頻繁に登場しています。このような銘柄は中長期投資の対象としてどう評価すべきでしょうか。
(2)出来高が大きければいざというときに売りやすいので中長期投資にも向いている銘柄といえる
参加者が多く出来高が大きくて、簡単に売買ができることを流動性が大きいと言います。その反対に、参加者が少なく出来高があまりなくて、売買に支障がきたすことを流動性リスクが大きいと言います。流動性リスクが大きく、自由に換金できない商品は評価価格で売買することができません。値上がりしたと喜んでいても、いざ売りにいくと損失で終わることも珍しくないのです。出来高は非常に重要です。正解は、(2)の「出来高が大きければいざというときに売りやすいので中長期投資にも向いている銘柄といえる」になります。
先ごろ問題となったサブプライム証券化商品は、個々の商品そのものに流動性リスクがあったことと、大手の金融機関のほとんどが同じ方向のポジションを抱えていた(皆で買っていた)ために、売りたい時には買い手がいないという流動性リスクがありました。この2つの流動性リスクを掛算すると、サブプライム証券化商品はほとんど流動性がないという代物でした。
このような商品は評価損益と実現損益とはまったく別物と考えていいのです。サブプライム証券化商品で儲けた人たちは、その評価益で多額のボーナスを何年間か手にし、相場の崩壊で会社を去りました。これらの商品に流動性がないことは、実際に取り扱ったディーラーや、長年の相場経験のある部門ヘッド、経営者たちには常識です。売るに売れないと分かっている商品に値段をつけ、儲けた儲けたと自慢するのですから、彼らは確信犯的にサブプライム証券化商品を取扱い、多くの報酬を受け取ったことは想像に難くありません。
相場では流動性のなさを積極的に利用する人がいます。相場で収益を上げるには、短期売買から中長期投資まで、相場の流れを読む必要があります。とはいえ、それは必ずしも簡単なことではないので、自分で流れを作ろうとする人たちが出てきます。外為市場のように流動性が抜群だと生半可な金額では相場をつくれませんが、商品相場だとより少ない金額で大相場を演出することができます。原油や金のように、商品としては大市場でも、投機筋が集まればあれほどの大相場がつくれたのです。
株式の1銘柄だと、もっと少ない資金で相場がつくれます。参加者が少なく出来高があまりない銘柄だと、それなりの資金があればファンドや仕手筋でなくても、個人投資家でも可能な人はいるでしょう。流動性がないものは、買い上げるだけなら容易です。ですが、いざ売るとなるとまったく売れないことを覚悟する必要があります。ファンドならば評価益だけで報酬を手にしたり、仕手筋ならば発行会社に買い取らせるという力技もありますが、個人投資家ですとまず自分の買いコスト以上で売れる買い手を見つけることはできません。もともと参加者が少なく出来高のない銘柄なのですから。
あなたが手にしている現金はどこでも使える流動性抜群の通貨です。株式に投資する場合は、多少なりとも流動性を犠牲にし、それなりのリターンを期待することになります。しかし、換金ということを考えると、犠牲にする流動性はほどほどにしておくのが賢明です。
他の選択肢をみると、(1)の「機関投資家やデイトレーダーなどが頻繁に売買しており急に値崩れする可能性も高いので、中長期保有であれば避けておく」は的外れ。(3)の「中長期投資では、前日に比べて急増したなどの急激な変化でない限り、出来高はそれほど気にする必要はない」というのは程度問題なので、(2)の「出来高が大きければいざというときに売りやすいので中長期投資にも向いている銘柄といえる」という選択肢がある以上、正解とはできません。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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