あなたの答えは、残念ながら 不正解 です

今週の解答

[資金管理に関する問題]

あなたは老後に備えるための資産運用の一環として、約100万円を投資してオーストラリアドルの外貨預金を始めました。しかし、ここ数ヶ月の急速な円高の進行で資産は60万円程度にまで目減りしてしまいました。まだしばらくは円高傾向が続きそうだと報道されており、あなたは口座の解約も検討しています。このような場合、どうするのがよいでしょうか。

正解は・・・
(2)オーストラリアのような先進国の通貨の価値がゼロ近くになることは考えにくいので、金利なども踏まえれば急いで解約する必要はない


1990年代の初頭から2008年12月まで、オージー円は概ね60円から100円の間で推移し、豪ドル金利の中で最も低い政策金利は6%を中心に上下2%の間に収まっています。これだけの金利がありながら、あなたが投資した100万円が4割ほどやられているということは、あなたはこの20年でオージー円が最も高い2007年後半の107円あたりか、2008年夏の105円近くで買ったものと思われます。老後に備える資産を高値で買ってしまったのは致し方ないとして、安値で恐くなって売ってしまっていたら、長期投資は成り立ちません。ここは腹をくくって、持ちこたえるしかないでしょう。正解は、(2)の「オーストラリアのような先進国の通貨の価値がゼロ近くになることは考えにくいので、金利なども踏まえれば急いで解約する必要はない」になります。


豪ドルは通貨です。株式や債券などの金融商品と違い、換金せずにそのまま使うことができます。あなたが預金している約1万ドルは、オージー円が105円から60円になった今も、別に目減りしている訳ではありません。むしろ、金利の分だけ増えています。例えば、7%の金利があれば、元金は10年複利で2倍近くになります。5%でも10年で1.6倍、20年で2.7倍、30年で4.3倍、40年で7倍を超えます。つまり、25歳の人が老後のために準備した1万ドルが65歳の時には7万ドルになります。7%の複利だと40年で15万ドル近くにもなります。あまり先の話だとピンときませんが、老後に備える長期投資ならば、少なくとも10年、20年タームで物事を考えねばなりません。


豪ドルは通貨ですから、豪ドル建てのものは株式でも債券でも、オーストラリアに不動産でも買うことができます。もし、豪ドル預金に魅力を感じないのなら、豪ドルで他の投資物件を探してもいいのです。もちろん、豪ドルで円を買う(豪ドル口座を解約して円に戻す)こともできるので、円で投資することが豪ドル預金よりも魅力的ならそうすれば良いのです。但し、老後に備える長期投資なのですから、あまり目先の動きには捉われないようにします。余裕資金があれば、豪ドル預金はそのままにして、円での投資は別に考えたいものです。


通貨の価値を損ねるのは、為替レートというより、インフレです。その通貨の同じ金額で買えるものが少なくなってしまうからです。1997年、1998年に通貨危機を迎えたアジア諸国やロシアは、通貨安により強烈なインフレに見舞われました。2008年のジンバブエのような、ハイパーインフレになってしまうと、その通貨はほとんど無価値になってしまいます。2008年第3期末のオーストラリアの消費者物価指数は前年比で4.98%の上昇、前期比で1.15%の上昇です。また、その後の商品市場や株式市場の動向を見ても、ハイパーインフレの兆候はありません。もっとも将来にわたっても、オーストラリアがジンバブエのようにはならないという保証はありませんが、日本がそうならないという保証もないのですから、そこまで考える人なら、いくつかの主要通貨に分散しておくのがいいでしょう。


仮にあなたの当初の目的が、長期投資でなくキャピタルゲイン狙いのFX信用取引である場合は、損切らねばなりません。105円で買ったものを60円で損切るというより、100円を切った時点で損切っておくべきです。60円で買った人でも、54円を割り込むようなことがあれば、いったん損切った方がいいでしょう。2008年の年末はどこの国の金利もゼロ近くになりそうですから、円売り外貨買いの大きな動機である金利差がなくなってしまいます。それでも54円が固いならまだしも、抜けてしまったなら、底値を確認してから入り直しても遅くはありません。


他の選択肢を見てみましょう。


(1)の「急速に円高が進んでいる時は、同じ外貨でも預金口座は解約し、円高でも利益の出せるFX信用取引で積極的に運用するのがよい」では、老後に備えた長期投資であったものが、いつのまにかキャピタルゲイン狙いの投機になっています。相場の動きに振り回されて、大本の方針を変えてしまうのは感心できません。


(3)の「あまりにも激しく為替が動いているときは、いったん為替市場を離れ、資金を株式投資などに回すのがよい」にも方針のぐらつきが見られます。老後に備えた外貨預金の目的はリスク分散と金利享受のはずです。オージー円でのオージー安は、円高ということですから、両通貨をある時点で同じ量保有していたなら、その後の損益は常に相殺されます。そこで確実に残るのは金利なのですから、高金利にはそれなりの魅力があるのです。また、トレーディングならば値動きが大きい方が収益のチャンスも大きいので、為替市場を離れる理由がありません。


2008年9月末の時点で、日本人はその金融資産の53%以上を円の現金か預貯金で保有しています。つまり、資産の大半を日本政府発行の通貨で持ち、その多くを日本政府が決めた規制金利で運用しています。政治が悪いという人が多いのに、その資産運用の多くの部分を政府に任せっきりのようです。老後に備えて外貨預金をしたり日本株投資を行うのは、自分で自分の老後の資産を管理するということです。


長期的に考えれば、オーストラリアドルの外貨預金は、あなたの資産のリスクヘッジとなります。1万豪ドルの預金があるのなら、金利で増えることを楽しみにして、いちいち円に換算して一喜一憂しないこと。さらに十分な額の豪ドル預金があれば、もしもの場合には移住できる可能性も増えるのですから、その意味でも老後のリスクヘッジになるのです。

残念ながら不正解だったあなたは・・・

実際に運用をする前に、ほかの「資金管理に関する問題」で、さらに勉強しましょう。

書籍

このコーナーが本になりました!第二弾発売中
矢口新のトレードセンス養成ドリル Lesson2

マネーのまぐまぐ!で連載中の「目指せ!相場の勝ち組〜矢口新の『トレードセンス養成講座』」が本になりました。過去の問題から、特に相場力アップに役立つ50問をピックアップ。矢口氏の書き下ろし解説もついて、自分の頭を使って考え相場の“基礎体力”を養うためのヒントが満載です。ぜひご覧ください。

『矢口新のトレードセンス養成ドリル Lesson2』の詳細はこちら

プロフィール

【監修】矢口新(やぐち・あらた)
テクニカル指標の成績表

1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。

メールマガジン

矢口新のメルマガ

さらに詳しく勉強してみたい方にはこちらの無料メルマガをおすすめします。

相場を知る・より安定した将来設計のために

投資運用の基本を押さえれば、やればやるほど上達します。自己責任の時代。相場で飯を食いたい。息の長い相場生活を送りたい。そんなあなたへ、相場のプロからひとこと、ふたこと。「生き残りのディーリング」の著者の相場解説!

メールアドレス 規約に同意して
まぐまぐ!・有料メルマガ
相場はあなたの夢をかなえる─有料版─

ご好評のメルマガ「相場はあなたの夢をかなえる」に、フォローアップで市場の動きを知る ー有料版ー が登場。本文は毎週月曜日の寄り付き前。フォローアップは週2〜3回、ホットなトピックについて、より忌憚のない本音を語る。「生き残りのディーリング」の著者の相場解説!

【840円/月(税込)/毎週 月曜日(祝祭日・年末年始を除く)】

購読申込み