今週の解答
[個別銘柄に関する問題]
あなたはテクニカル指標を勉強し、これから上がるだろうと思った銘柄を購入しようとしています。しかし、同じテクニカル指標でも、その分析の対象期間を長く取ると、今後値下がりするのではないかとも思えます。このように同じテクニカル指標でも、分析の対象期間が違うことで、違う結果を示している場合、その違いをどう解釈してトレードするのがよいでしょうか。
(3)どちらが正しいということはないので、自分の投資スタンスに合わせて使い分ける
テクニカル指標は、用いる元データの最小単位が変われば、まったく違うものを見せてくれます。例えば日足と週足では、見た目通りのローソク足の色(陽線か陰線)や形状、組み合わせが変わるだけではありません。移動平均線の25日が25週に、RSIの12日が12週に、一目均衡表の9日や26日がそれぞれ9週、26週に変わります。取り扱う数値データは同量ですが、対象期間を長くとればその分長いトレンドを扱い、細かな価格の揺らぎには無頓着になります。あなたがデイトレーダーなら日足でも長過ぎ、週足になると絶望的です。正解は、(3)の「どちらが正しいということはないので、自分の投資スタンスに合わせて使い分ける」となります。
したがって、選択肢(1)の「対象期間が短いほうが直近の傾向を反映しているので、そちらに従いトレードする」は、勝負を数時間以内でつけるデイトレーダーたちにとっては正解です。デイトレードが扱うのはトレンドではなく価格の揺らぎですから、5分足などの日中足がいいのです。
このことは、選択肢(2)の「対象期間が長いほうが銘柄の歴史上の様々な要素を盛り込んでいるので、そちらに従いトレードする」は、中長期の投資家たちには正解となり得ることを意味します。中長期の投資でいちいち細かな揺らぎに動揺していては、トレンドを見失ってしまうのです。
チャートは一種の自己相似性を持っていて、どの期間を切り取ってみても、拡大すれば同じようなパターンで上げ下げするようなところがあります。つまり、長期間のチャートに波動、上昇トレンド、下落トレンド、保合い、上抜け、下抜けなどがあるように、分足で見れば1日の中にも、ティック足で見れば1時間の中にも、同じようなパターンが見られるのです。
デイトレーダーの中にはチャートを見ないで、値動きだけに反応する人が多くいますが、それまで重かったところが上抜けしたようなところは、分足やティック足でも上抜けしています。これは短中期トレードのスウィングトレーダーが、日足を見て上抜けしたと判断するのと同じです。下抜けも同様で、デイトレードでもスウィングトレードでも、その期間に適したチャートの下抜けと同時に、損切りの投げ売りが入ります。
自己相似性という意味では、さきほど「デイトレードは価格の揺らぎを扱う」と言ったのは、より長い期間の観点から言ったまでで、「1日の中の、あるいは1時間の中のトレンドを扱う」と言い換えることもできます。つまり、一般的に言うトレンドとは、(潮の干満など)大きな波動上の方向、揺らぎとは(風によるさざ波など)小さな波動としての動き、と言い換えることもできるでしょう。
テクニカル指標での対象期間をどう取るかは、扱う資金の性質や商品によって変わってきます。今回の問題のような、株式での「これから上がるだろうと思った銘柄を購入しよう」というレベルならば、日足を見るのが最も適当かと思います。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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