あなたの答えは、残念ながら 不正解 です

今週の解答

[資金管理に関する問題]

あなたは余裕資金の1500万円で、不動産会社3社に、A社…800万円、B社…400万円、C社…300万円の割合で投資しました。ある日、A社が破綻し株価が1桁台に落ちてしまったので、あなたは全投資資金の40%以上の大きな損失を被りました。銀行がA社の借り換えを拒否したために、資金繰りがつかなくなった黒字倒産です。
あなたは、A社、B社、C社のすべてが、業績自体は回復基調にあると認識していました。いまもその認識は変わっていません。実際、B社、C社の値動きは順調で、A社の破綻にも特に反応せず、株価は年初来安値の2倍に達しています。あなたの利益もそれぞれ20%ほどになっています。
とはいえあなたは、A社で被った損失により、ここ1週間ほど、夜も眠れないほどのストレスを感じたのも事実です。このような状況で、どのように再起を図るのが良いでしょうか。

正解は・・・
(3)投資した際の認識に変化がないのなら、恐怖にかられて全てを精算するのは得策ではない。そのような姿勢では、大きな損失を取り戻すことはできない。順調なB社、C社の利を伸ばし、ここからの高値で利食うことに集中する

投資運用では、思惑とは違った時の損失を小さく、思惑通りの時の利益を大きくすることで、勝率5割でも利益が残るように心掛けます。とはいえ、今回の問題のように、突然の破たんで思わぬ損失を被るようなことも起こります。起きたことは仕方がありません。A社の株はまだ取引されているうちに速やかに売り、残る2銘柄の利益を大きくすることを狙います。正解は(3)の「投資した際の認識に変化がないのなら、恐怖にかられて全てを精算するのは得策ではない。そのような姿勢では、大きな損失を取り戻すことはできない。順調なB社、C社の利を伸ばし、ここからの高値で利食うことに集中する」になります。


他の選択肢を見てみましょう。


(1)の「40%以上の損失は、回復不可能なほど大きなもの。それほどまで損失が大きくなる時点で相場に向いていないので、すべて精算し、金輪際、株の取引をやめたほうがよい」というのでは、おそらく誰も、株式投資に向いている人はいなくなります。株式投資を行うには投資資金がゼロになる覚悟を持つ必要があります。実は、これは株式投資に限ったことではないのです。


たとえば、2009年5月、米国のジェネラルモーターズ社(GM)の経営破たん回避で話し合われていたのが、債務の株式化でした。債務や債券には、借入者が貸出者(債券なら購入者)に元利金を支払う義務があります。ところが、GMはその義務を果たそうにも原資がなく、債権者に債務の株式化を願い出ました。株式ならば、投資資金を返却する義務はなく、利益が出た時だけ配当すれば良いので、これまでの他人の資本(有利子負債)を自己資本と見なせるからです。


株主の資金なのに、会社の自己資本と見なせるのは、株主が会社を所有しているからです。つまり、債務の株式化とは、他人だったものが身内になること。もっと端的に言えば、他人の財布だったものを自分の財布と一体化することです。他に有利な条件をいくつかつけても、少なからずの債権者は拒否しましたが、当然です。大借金を抱える赤字会社と、財布を共にすることは、投資金額がゼロになる(少なくない)可能性を受け入れることだからです。


これはGMだけに限ったことではありません。貸出、あるいは債券投資が、本当に100%元利金が返ってくるものならば、不良債権という言葉はなくなります。同じことは、もっと安全だと見なされている保険や銀行預金にも当てはまります。では、自宅に現金を抱えていれば良いのかというと、窃盗や火事などの災害で失う危険を伴います。すべては程度問題で、絶対安全だというものはこの世にないのです。


株式投資であれ、債券投資であれ、保険や銀行預金でも、資金を出した先が経営破たんしたなら、少なからずの影響を受けます。株式投資の場合は、投資資金のほとんどを失うと言っていいでしょう。これは、あなたが相場に向いていないからではありません。したがって、これで損したからといって、株式投資を止める必要もありません。


(2)の「不動産銘柄に集中投資しすぎだし、ストレスのせいで正しい判断ができない恐れもある。ただちにB社、C社の利益を確定させ、全てのポジションを閉じる。約850万円のキャッシュを手元においた後、あらためて投資銘柄を選考する」は、一理のある回答です。


すべてのことにリスクがあるのだから、1つのものに集中することは、やられた時の損害が大きくなります。たとえば、保険も信用せず、すべての資産を自宅に置いていると、火事ですべてをなくす恐れがあります。


したがって、不動産関連がいいと思っても、3銘柄とも不動産銘柄というのは感心できません。業界が同じでも、財務内容や業績、収益の安定性、利益率、株主構成、規模、得意分野など様々です。チャートの形も違います。株式投資の面白さは、そういったことを考慮しての絞り込みにもあるのです。不動産関連で1銘柄に絞り込んだら、残りは他の業界か、あるいは他の投資物件に投資します。


とはいえ、不動産関連しか考えられない。1銘柄だと心配なので、3銘柄に分散したのだと言う人もいるでしょう。そういったケースなら、1銘柄は潰れたが2銘柄が上昇しているのですから、あなたの投資方法は間違っていません。起きたことは起きたこととして、ストレスを感じないように努め、残る2銘柄にリベンジを託すのです。


危ないと承知で、似たようないくつかの銘柄に分散投資し、1つが潰れても、他の値上がり益で取り返すという投資法もあります。あなたの場合は、図らずも1つが潰れてしまいましたが、そんなことも起きるのが相場です。相場だけでなく、実生活でもいろいろな事が起きるものです。そんな時は、落ち着いて、客観的に物事を見るようにしましょう。


今回は残る2銘柄が健全です。不安を取り除くために、もう一度2銘柄のファンダメンタルズやチャートをチェックし、いよいよの時の手仕舞い価格を決めましょう。そして、利益を最大限に膨らませるように、集中して相場に向かうのです。


正解は、(3)の「投資した際の認識に変化がないのなら、恐怖にかられて全てを精算するのは得策ではない。そのような姿勢では、大きな損失を取り戻すことはできない。順調なB社、C社の利を伸ばし、ここからの高値で利食うことに集中する」となります。

残念ながら不正解だったあなたは・・・

実際に運用をする前に、ほかの「資金管理に関する問題」で、さらに勉強しましょう。

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【監修】矢口新(やぐち・あらた)
テクニカル指標の成績表

1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。

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