あなたの答えは、残念ながら 不正解 です

今週の解答

[投資心理に関する問題]

あなたは、資本主義経済の成長とインデックス投資の優位性を信じ、国内・海外の各種ETFをバランス良く組み合わせた長期のポートフォリオを構築しています。ところがリーマン・ショック以後、メディアでは「100年に一度の危機」が喧伝されるようにりました。駅売りの雑誌にまで「米国はデフォルトを宣言する」「通貨の価値が無くなる」「資本主義経済は終焉する」といった見出しが踊るようになり、さすがのあなたも、少し自信が揺らいでいます。このような悲観論とは、どう付き合うべきでしょうか。

正解は・・・
(2)高値圏でまだ上がると囃し、底値圏でまだ下がると脅すのがメディアの常。資本主義経済の終焉など気にしても、リスクヘッジのしようがない。漠然とした不安で方針を変えたりせず、冷静にポートフォリオをメンテナンスしていく

大予言者ではありませんが、この世の終わりや、何々の終焉などと危機を煽る人がいます。また、そういった終末論を好む人も多くいます。とはいえ、そういった杞憂をベースに生活を営むことはできません。今夜、世界が終ると信じていても、明日朝また陽が昇れば、通常の一日が始まるのです。人は夢だけでも、悪夢だけでも生きることはできません。しっかりと地に足をつけねば、歩けないのです。投資運用も同じです。


正解は(2)の「高値圏でまだ上がると囃し、底値圏でまだ下がると脅すのがメディアの常。資本主義経済の終焉など気にしても、リスクヘッジのしようがない。漠然とした不安で方針を変えたりせず、冷静にポートフォリオをメンテナンスしていく」となります。


メディアはホットな話題を追いかけますので、特にテレビなどを見ていると、ある時期にはどのチャンネル(テレビ東京以外?)を見ても、同じようなニュースが流れています。そして、凶悪犯罪のニュースが続いたりすると、時代は悪くなっている、日本は危険になっていると思ってしまいますが、統計的には凶悪犯罪が減っていたりします。


アメリカの住宅バブルや、原油価格の高騰なども、冷静に考えれば、どう考えても継続するはずがなかったのですが、メディアを含め、ほとんどの人は踊らされました。


2008年9月15日、158年の歴史を持つリーマン・ブラザーズが破たんしました。翌、2009年6月1日には、100年の歴史を持ち、2008年まで77年間世界一の自動車メーカーとして君臨したゼネラル・モーターズ社が破たんしました。これを持って、100年の1度の危機、資本主義の終焉と言うべきでしょうか。


時期が近く、共にアメリカを代表するような企業の破たんですので、同じように捉える人もいるかと思いますが、実は破たんの原因に共通点は多くありません。


リーマン・ブラザーズの破たんの直接の原因は不良資産、つまり資金運用の失敗です。その根っこは、サブプライム問題、つまりアメリカの住宅バブルの崩壊です。アメリカの人口増加率、持家比率の推移、家計収入、住宅価格、住宅着工件数、住宅販売などから見た、サブプライム問題の要点は、以下のブログにまとめましたので、ご覧下さい。
(参照:http://ameblo.jp/dealersweb-inc/


データから見えるのは、「サブプライム住宅ローンが導入されたきっかけは、飽和状態になった住宅市場が、必死になって新たな購買者を造り上げようとした現実がある。ここには、『需要があるから供給するのではない。需要は造り上げるものだ』というサプライサイドの論理がある」というものです。


「サブプライム住宅ローンは、バブルをつくるために実体のない(資金のない)買い手をでっちあげただけなのだ。住宅建築会社は増収増益を確保するために、住宅を建て続け、買い手を求めていた。金融機関はバブルを利用して儲けようと画策し、低所得者の名前を借りて自分たちで相場を買い上げたのだ」


そして、証券化商品により、「アメリカの資金力のない人がした大借金が返済不能に至る(必然の)リスクが、保険会社などを含む世界中の金融機関に分散されることになったのだ」とまとめています。


リーマンの破たんは、四半期毎の増収増益を強いられた経営者が、無理矢理に需要を造り上げ、小さな利益をレバッレジで膨らまさせるという、ビジネス・モデル崩壊の象徴です。アメリカの住宅市場を例に挙げれば、2009年の第1四半期からすでに底打ち感が見え始めているものの、何しろやり過ぎたので、本格回復には相当の時間を要すると思います。


GMの破たんはこれとは異なります。創業1908年9月、100歳のトップ企業の破たんですから、「100年に1度の経済危機」と結び付けたくなりますが、ガソリン価格の急騰がなくても、サブプライムショック、リーマンショックがなくても、GMの破たんは規定の路線でした。


2005年に出版された、拙著「リスク管理資金運用」には、後書きに換えて、次のようなことが書かれています。(お求めは:http://dealersweb.ken-shin.net/bookshop.html


「リスク分散の考え方

2005年5月世界一の自動車会社、ジェネラル・モーターズの社債がジャンク債の仲間入りをしました。ジャンク債とは投機的な(つまり安心して「保有」できない)債券とみなされ、投資不適格ともされます。そして一部のアナリストは満期まで2、3年のGM債は保有していても構わないが、それ以上はリスクが大きいので売却も視野に入れろと助言しました。すなわち、世界一の自動車会社が4、5年後には破綻しているかも知れないと示唆しているのです。企業が破綻すればその株式は紙切れとなります。債券は債務返済の優先順位が高いので、満額とはいえないまでも資金回収できる見込みがあります。しかし、破綻によりもっと大きな損失を被る人たちがいます。その会社の従業員たちです。

1つの会社に勤めているということは会社と自分とは一蓮托生なのですから、株式投資を嫌おうと嫌わまいと、銘柄的にはその会社に100%投資しているのと変わらないことになります。(以下、省略)」


この「リスク分散」の考え方は、大会社に勤め、社宅に住み、自社株保有と社内預金をすることのリスクを語り、他社への株式投資はリスク分散となると説明しているのですが、ここで分かるのは、2009年のGMの破たんは、2005年の時点で予測済みだったことです。


ところが、上記の「サブプライム・ショックの要点」では、「2005年7月に住宅販売がピークをつけた後、半年後の2006年1月に住宅着工件数がピークをつけ、その3、4カ月後の2006年第2四半期に価格がピークをつけている。そして、その1年数カ月後の2007年8月にサブプライムショックが起きた」となっています。


また、ガソリン価格のピークは2008年7月です。


つまり、GMの破たんは、サブプライムショックの2年以上前から、ガソリン価格高騰、リーマンショックの3年以上前から、規定の路線だったのです。100年に1度の景気後退とは何の関係もない、GM経営の構造上の欠陥で破たんしたのです。


それを一言で述べるなら、「大きな図体、巨大債務、高コスト体質が、GMが破たん不可避となった構造だ。これは市場経済の破たんというより、社会主義的な体質故の破たんだ。日本の官民の組織や企業でも、50歩100歩のところがあるかも知れない」となります。


このことは、私のメルマガ「相場はあなたの夢をかなえる」の今週号に、詳しく取り上げています。今週中は以下のページでご覧いただけます。
(参照:http://archive.mag2.com/0000031054/index.html

来週以降は上記のブログに移動させます。
(参照:http://ameblo.jp/dealersweb-inc/


この2社の破たんは、まったく別の要因ですが、だからこそ、今回の経済危機は本物だとも言えます。


一方は、市場経済を歯止めなく推し進めた上での破たんです。他方は、セーフティネットを異常な程に充実させたため、コスト負担に耐えきれなかったのです。つまり、資本主義も、社会主義も、行き過ぎれば破たんするのです。小さな政府を標ぼうしてきた米政府も、いまは史上空前の規模の大きな政府です。


薬も飲み過ぎれば毒であるように、何事にもバランスが必要なのです。その意味で、メディアの論調に従う選択肢(1)も、逆指標とする選択肢(3)も、正解とはできません。


正解は、バランスを保って冷静に対処する(2)の「高値圏でまだ上がると囃し、底値圏でまだ下がると脅すのがメディアの常。資本主義経済の終焉など気にしても、リスクヘッジのしようがない。漠然とした不安で方針を変えたりせず、冷静にポートフォリオをメンテナンスしていく」となります。

残念ながら不正解だったあなたは・・・

実際に運用をする前に、ほかの「投資心理に関する問題」で、さらに勉強しましょう。

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【監修】矢口新(やぐち・あらた)
テクニカル指標の成績表

1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。

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