今週の解答
[個別銘柄に関する問題]
あなたは半年前から、業績見通しが明るいのに株価が底値圏で横張っているある銘柄を、少しずつ買い集めていました。一月ほど前にその銘柄が急騰し、一時は15%近い利が乗りましたが利食えず、その後ジリ下げから再び横ばいとなり、現在の含み益は7%程度です。同時に、以前は見られなかった分厚い売り板が出現し、いかにも上値が重たく感じます。あなたにあと半年程度の時間的な余裕がある場合、どのような行動を取るのが良いでしょうか?
(2)成り行き売りならともかく、遠い指し値の売りに一喜一憂する必要はない。業績見通しが変わらず明るいなら、1年間という当初の投資スパンを念頭にホールドし、高値で利食うことを考える
プロのディーラーの9割以上は株価が急騰したところで利食います。時間当たりの投資効率を考えるからです。あなたの場合は利食い損ねてしまいましたので、横ばっているところから、考えるようにします。ファンダメンタルズが良い銘柄なら、損切りラインだけを決めて、じっと待つことも必要です。正解は、(2)の「成り行き売りならともかく、遠い指し値の売りに一喜一憂する必要はない。業績見通しが変わらず明るいなら、1年間という当初の投資スパンを念頭にホールドし、高値で利食うことを考える」となります。
(1)の「いかにも上値が重く、もう一度15%以上の利が乗る可能性は低い。欲張らずに早めに7%の含み益を確定し、他の値動きの良い銘柄に乗り換える」というのは、一見もっともな考え方です。7%の利益でもしっかりと確定して、次々と動く銘柄を利食っていけば儲かるからです。
ところが、急騰後のあなたの銘柄のように、今まで動いていたものが、じり安から動きを止めてしまうことはよくあります。あなたが新規に買った銘柄がそうなると、横ばいの時はどうするのかと、今のあなたと同じ問題に直面してしまいます。その時、あなたが見捨てた銘柄の値動きが煮詰まって、再び急騰を始めるようなことも起こります。あなたは臍を噛むことになるのです。
また、上値が重いというような感触は、今日の真実ではあっても、明日はどうなるか分かりません。本当に売らねばならない人が多いなら、上がらないものは下値でも売ってきます。逆に言うと、売られて、下値を抜けるようなことがないうちは、持っていてもいいのです。
(3)の「分厚い売り板は投機筋による玉集めの可能性があり、急騰直前のサインと考えられる」というのは、その通りかも知れませんし、まったく的外れなのかも知れません。とはいえ、「もとから下値リスクは限定されている」というのは単なる思い込みです。したがって、強い思い込みだけで「残りの資金全部で買い向い勝負をかける」と、大きなポジションにも関わらず、損切りもうまくできないようなことになってしまいます。あなた自身、上値を重たく感じているのですから、そんな銘柄に新規の資金を注ぎ込むのは感心できません。
もし、新規の余裕資金があるのなら、いまの銘柄を辛抱して持ち続けながら、他の動きそうな銘柄を買えばいいのです。チャンスを2倍に広げておく方が、その分急騰の確率も高まります。もちろん、どちらも損切りラインを決めて、きちっと守ることが重要です。
したがって、ここでの正解は、(2)の「成り行き売りならともかく、遠い指し値の売りに一喜一憂する必要はない。業績見通しが変わらず明るいなら、1年間という当初の投資スパンを念頭にホールドし、高値で利食うことを考える」以外にはないのですが、ここにも一言、二言付け加えさせて下さい。
まずは、しっかりと損切りラインを決めておくこと。そして、なにも1年間という投資スパンに拘ることもないということです。
長い目で見て、好財務、好業績といったファンダメンタルズの良い銘柄が、悪い銘柄よりも安全で、値上がりも期待できるのは事実だと言っていいでしょう。ところが、その長い目というのが曲者なのです。
例えば、任天堂が日本を代表するファンダメンタルズの良い銘柄の1つであることに、異論を挟む人は少ないでしょう。なにしろ、無借金経営でいながら、4期連続で増収増益を達成しました。しかも前期は最高益です。ところが、そういった増収増益のさなか、2007年11月の高値73200円から、2008年10月の21600円まで、何と株価は3分の1以下に売り込まれたのです。仮に73200円が買われ過ぎだったとしても、21600円はいかにも売られ過ぎでしょう。こんなことが当たり前のように起きるのが株式市場なのです。
相場はタイミングです。どんなものでも、流れに逆らってはうまく行きません。だからこそ、私は谷越えで買い、山越えで売れと言うのです。
また、あなたは業績見通しの良いものを1年間持ちたいようです。そうすると、四半期毎計4回の収益見通し修正の洗礼を受けねばなりません。そして、あなたが1年持てば利益が大きくなると目論んでいても、業績の下方修正でもあれば、元の木阿弥ともなりかねないのです。
そういった諸々のことを鑑みると、急騰したものは利食っていいのです。
見事正解だったあなたは・・・
油断は禁物、ほかのカテゴリの問題にも挑戦してさらにセンスを磨く努力を怠らないようにしましょう。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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