今週の解答
[ニュースに関する問題]
東京株式市場の後場寄り付き後、東京23区を中心にM7超の非常に強い地震が発生しました。ニュース速報は「複数の区で震度6強、一部地域では震度7」と報じたものの被害詳細は不明です。日経平均はマイナスに転じたあと下げ渋り、為替はやや円安。また建設株に投機的な買いが入りつつあるようです。あなたが保有するのは首都圏を中心に展開する小売株で、フルインベストメント状態。地震直後からマイナスに転じた株価はロスカットラインぎりぎりです。まもなく大引けですが、どうするのが良いでしょうか。
(3)事前に予想していなかった事態で、通常の取引ルールは役に立たない。未曾有の大災害だからこそ、現時点で被害が報道されていない可能性もある。株価が損切りラインに触れるのを待たずに即、成り行きですべて手仕舞うべきだ
トレーディングで安定した収益を上げるには、それなりの規律が必要です。逆に行った場合の損切りはもとより、価格のゆらぎに惑わされて右往左往しないことも大切です。しかし、自分がポジションを取った時点でまったく想定していなかった事態に遭遇した時に、自分のルールにこだわって墓穴を掘ることは避けたいものです。正解は、非常事態なのだから、3)の「事前に予想していなかった事態で、通常の取引ルールは役に立たない。未曾有の大災害だからこそ、現時点で被害が報道されていない可能性もある。株価が損切りラインに触れるのを待たずに即、成り行きですべて手仕舞うべきだ」になります。
市場価格は常に波動を伴って動きます。後で振り返れば、問題なく上昇してきたように思える相場でも、週単位、日単位、時間単位で見れば、常に大きくゆらいでいます。トレンドは後にならないと分からないので、トレンドの変化に取り残されない警戒と、ゆらぎに惑わされない警戒とが必要です。その微妙なバランスが損切りラインなのです。
感性によってトレンドとゆらぎの違いが分かると豪語する人たちを何人も知っていましたが、どこかでその感性が曇ったのでしょう。いつの間にかいなくなりました。世の中、自分たちが思っている以上にダイナミックに動いています。大きな流れを押さえるだけでも大変なのに、小さなゆらぎまでお見通しということは望めません。その逆も同じです。
生き残っている人たちに共通しているのは、規律です。これはスポーツや勝負事など、他の分野でも同じでしょう。
その意味では、1)の「トレードでは、あらかじめ自分で決めたルールに従い、一貫性をもって売買を続けることが大切。いかに『ぎりぎり』であろうと株価がロスカットラインに触れていないのであれば慌てる必要はなし。じっくりホールドするのが良い」というのは、ほとんどのケースでは正解です。
ところが、今回の問題のケースは、自分が保有する銘柄に直接に影響を与える、想定外の事態です。目先の影響はおろか、中長期的な影響も分からない事態です。そんななかで、市場が機能し、まだロスカットレベルにも達していないというのは、ラッキーだと思うべきでしょう。天の恵みを活かさないと、後でそのつけを払わされることにもなるのです。
明日のことは分かりませんが、首都圏での地震が、首都圏に展開する小売業にプラスに作用するとは考えにくいことです。もしかすると、特殊要因で売上急増ということも全くないとは言えないでしょうが、海外の投資家がそう見なすでしょうか?
まもなく東京市場が大引けすると、次々と欧州、米国市場が開いてきます。アジアの市場は東京市場と重なっていましたが、東京が反応しないので、様子見となっていたのでしょう。東京が何もできない、欧州、米国の時間帯では話が違います。彼らは、首都圏での地震を、特殊要因によってプラスに考えるほど、日本の特殊な事情を知りません。素直な反応は、リスク回避のための売りだけです。分からないものを、いつまでも持っていることはありません。
東京市場の大引け後に、海外市場で大きく売り込まれてしまうと、損切りをしようにも、値がつかない可能性がでてきます。今回の場合のリスク管理とは、市場が開いている今のうちにすべてのポジションを閉じることです。閉じられないほどの大きなポジションを抱えている機関投資家は、なんらかのヘッジ売りをしたり、逆に日本市場以外で上げそうなものを買うことで、損失を最小限にしようと努めるはずです。
同様に、海外勢が、選択肢2)のように、「トレードで儲けるには、局面、局面で、値動きの良い銘柄にシフトするのが重要である。今回は、保有株のリスクが高まる一方、建設株に妙味が出てきたということ。大引け前に保有株を売って、いち早く建設株に乗り換えたい」と考えることもないでしょう。あなたが買えると思っても、仮にそれが東京市場の総意に近くても、リスクを避けたい海外はまず売り込んできます。買いたいのなら、明日の寄り付き以降、安くなったところを買えばいいのです。
想定外の事態により、トレンドの変化に取り残されない警戒と、ゆらぎに惑わされない警戒という、損切りラインの微妙なバランスが崩れています。正解は、3)「事前に予想していなかった事態で、通常の取引ルールは役に立たない。未曾有の大災害だからこそ、現時点で被害が報道されていない可能性もある。株価が損切りラインに触れるのを待たずに即、成り行きですべて手仕舞うべきだ」となります。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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