今週の解答
[資金管理に関する問題]
最近、日経225先物と外国為替証拠金取引のデイトレードを始めたあなた。株の信用取引では10年近い経験がありますが、225先物やFXに関しては勉強中です。さてここで問題。日計りにおいて、保有ポジションを決済すると同時に逆のポジションを建てるいわゆる「ドテン」売買は、是でしょうか非でしょうか?
(1)思惑に反し支持線をブレイクするなどして保有ポジションを損切ったと同時に、それまでとは逆のポジションに転換するのであれば狙ってみてもよい
相場の動きは、方向性を伴うトレンドと、単に上げたり下げたりする揺らぎとからなっています。年率で10%上げたなどというときには、トレンドが意味を持ちますが、大小の揺らぎはその何倍、何十倍にもなります。その揺らぎを取りに行くのがトレーディングですから、ポジションの転換には柔軟でいていいのです。
また、揺らぎの幅を見極めるのは非常に困難で、テクニカル的には、サポートされたら買い、抜けたら売りと柔軟に対応します。つまり、ショートでいてサポートされたなら、利食いのドテンでロングに入れ替え、ロングでいてサポートが抜けたら、損切りのドテンでショートに入れ替えていいのです。
したがって、正解は、(1)の「思惑に反し支持線をブレイクするなどして保有ポジションを損切ったと同時に、それまでとは逆のポジションに転換するのであれば狙ってみてもよい」となります。
では、なぜ、(2)の「損切り後のドテンは往復で損失を出す恐れがありリスクが高い。ただし、利の乗ったロングポジションを利益確定すると同時にショートをふるような、往復で利幅を取りに行く積極的な売買であればOKである」は駄目なのでしょうか。
まず、「損切り後のドテンは往復で損失を出す恐れがありリスクが高い」とは言えないことです。リスクはポジションの量と流動性に応じて発生します。自分の損益とは別個のものです。売り買いの判断に損益を入れると、判断が歪むので、原則的には入れない方がいいのです。例外としては、相場の行き過ぎを暗示するσ2やσ3で、それを根拠に損切りを怠ると大変な目に合うことがあるが、利食いなら突き抜けたところで利益は残ります。
また、自分が利益確定したところが、相場の転換点であるとは限りません。中途半端に利食いをして、そこでポジションを入れ替えた後にも同じ方向に動き続けたなら、実現した利益以上の損失が出ることも多いのです。
私は上げたり下げたりするボラティリティを縦の動きとして「縦糸」、方向性を伴うトレンドは時間に大きな影響を受けることから「横糸」と名付け、相場は縦糸と横糸とで編み上げる、タペストリーのようなものだと提唱しています。
{参照:タペストリー第2理論(Tapestry Theory #2)}
http://ameblo.jp/dealersweb-inc/entry-10300171680.html
相場は買えば上がり、売れば下がります。それによって価格は上下動を繰り返すわけですが、ほとんどの参加者がポジションを膨らませたり閉じたりしている傍らで、静かに売り切り買い切り、あるいはそれに準じた長期保有をしている人がいるからこそトレンドができるのです。
{参照:タペストリー第1理論(Tapestry Theory #1)}
http://ameblo.jp/dealersweb-inc/entry-10295633030.html
つまり、売り切り買い切りや長期保有を行う実需筋、あるいは長期投資家がいないと、市場はキャピタルゲイン狙いの、買ったものは必ず売り、売ったものは必ず買い戻す投機筋だけとなり、相場は上げ下げを行うだけで方向性を持ちません。
では、なぜ、投機筋は必ずそのポジションを閉じるのでしょうか?
投機筋が市場に参入する動機は、通貨や株式、商品といった、そのものに対する需要ではありません。外為銀行のディーラーや、証券会社の相対取引では、顧客に市場を提供するというサービスのために参入しています。また、キャピタルゲイン狙いのヘッジファンドや個人投資家は、ドルや円が必要なわけでも、特定の会社の株主になりたいわけでもありません。対象物件は何でもいいから、買ったものを売って、キャピタルゲインで儲けたいのです。
そして、時間効率的に最大の収益を狙おうとすれば、短時間で大きな値幅が一番です。つまり、大きな値幅があれば、多くの投機筋は利食ってくるのです。つくったポジションを閉じるのです。
また、基本的に投機筋は時間に制限のある資金を扱っています。あなたが行っていた信用取引などの借入金には返済期限があり、あえて期限を設けていないものでも、その期間、金利がかかっています。また、金融機関のディーラーやヘッジファンドなどは、短期的な収益を期待されているので、適当な値幅で利食っておかないと、顧客が望んだ時期に収益を渡せないのです。
そして、キャピタルゲインを得るには、買ったものを売っても、売ったものを買い戻しても、その効果は同じです。株式の信用取引では、それでも売りから入るのを「空売り」と呼び、多少の注意を払う必要がありますが、先物やFXでは、売り買いともに、基本的に同じ条件で行えます。
パラボリックというテクニカル指標があります。価格がSARと呼ばれる線の上にいる間はロングをつくり、下抜けるとショートにして、下にいる間はショートをキープし続けます。このSARというのは、Stop And Reverse のことで、ドテンしろという意味なのです。したがって、SARを上抜けると、今度はドテンしてロングにします。その場合の、自分の損益は関係がありません。
もっとも、うまく行っていない時に、ドタバタとポジションを入れ替えていると、相場を見失ってしまうように思えますが、これはむしろ相場を見失っているからこそ、うまく行ってないのだといえます。いずれにせよ、自分がうまく行っていない時には、ドテンや、買いからだけ、売りからだけに関わらず、金額を減らすなどの調整が必要です。
選択肢の(3)も見てみましょう。
「休むも相場。思い通りにならないからといって、ころころポジションを転換するのはいただけない。リスク管理の観点から、ナンピンと同様、いかなるときもドテン売買はすべきでない」
ナンピンと違い、ドテンではポジションが増えませんので、リスクはそれまでと同じです。リスク管理の観点からは、まったくの別物です。
また、ナンピンは当初の相場観をいつまでも引き摺り、傷口をどんどん広げ、深めて行く行為です。一方のドテンでは、その都度、新たな判断を要求されます。例え、結果が同じように大きな損失につながったとしても、アプローチの仕方はまったく違います。
もっとも、ほとんどの人には、買いが得意、売りが得意といった、得手不得手があります。したがって、無理してドテンを繰り返すことはありませんが、トレーディングの選択肢にドテンを入れることで、あなたの相場の世界は大きく(2倍に?)広がることと思います。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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