今週の解答
[投資心理に関する問題]
あなたが、直近の業績やテクニカルなど十分吟味した上で有望と見込んだ企業の株を買い進め、含み益が出はじめたところで、著名投資家のA氏が、その企業の将来性にネガティブな見解を示しました。A氏は当該株を保有しているわけではないようですが、あなた自身、日頃から彼の発言に注目していたため迷いが生じています。今のところ、A氏の発言内容にあなたの見込みを覆すような新たな事実はなく、株価も反応していないようですが…。ここからの方針は?
(2)いま確認すべきなのは、自分の見解を修正する必要性の有無、事前に設定した損切りポイントの妥当性、そして値動きそのものである。前提条件に変化がないなら恐れる必要はないし、株価が反応しないなら動く必要もない
あなた以上にその銘柄のことを知っている人はたくさんいます。おそらく、著名投資家のA氏以上にその銘柄のことを知っている人もたくさんいると思います。とはいえ、ナンバーワンのアナリストでも、相場をよく外すのは周知の事実です。
権威に怯えることはありません。正解は(2)の「いま確認すべきなのは、自分の見解を修正する必要性の有無、事前に設定した損切りポイントの妥当性、そして値動きそのものである。前提条件に変化がないなら恐れる必要はないし、株価が反応しないなら動く必要もない」となります。
今ある株価は、その銘柄に対するあらゆる見方、あらゆる情報を集約したものだという考え方があります。もしあなたが、そんなことはない、この株価は安過ぎると考え、同じような考え方の人が買うと、株価は上がります。
買っても株価が上がらない、あるいは逆に下げたとすれば、高過ぎると考えた人たちが売ったからです。そうでなければ、相場観や情報とは関係なしに、売らねばならない事情の人たちが売ったのです。つまり、買いたい人や買わねばならない人が買い、売りたい人や売らねばならない人が売った結果が、今ある株価なので、今の株価はその銘柄に対するあらゆる見方、あらゆる情報を集約したものだといえるのです。
あなたの銘柄が千数百円の株価だとすれば、まだ上げると思っているあなたの、たった1円か2円上には、下げると思っている売り手がいます。ここに、いろいろな事情や情報が入り乱れて、その結果株価が上がれば、あなたの見方が正しかったといえますし、下げれば、売り手の見方が正しかったともいえます。つまり、事情や情報を、正しく読み込めなかった方が、その時点での勝負では負けるのです。
あなたが信奉するA氏が、どれほどの人かは知りませんが、巻き込まれてはいけません。例えば、著名投資家であるウォレン・バフェット氏は、GE株が10年ほどで10分の1になっても、持ち続けました。また、ジム・ロジャース氏は原油価格が200ドルになると言っていたように記憶しています。両氏などは大きな資産を持ち、他の投資物件もたくさんありますので、その失敗が致命傷にはなりません。あるいは、ヘッジ目的などの他の投資とのからみでは、失敗ですらないかも知れないのです。
他の選択肢を見てみましょう。
(1)あなた以外の投資家は、あなたの知らないことを知っている。自分だけの見解にこだわるのは狭い。A氏ほどの人物が発言した以上、その悪影響はじきに出てくるはず。含み益の出ている今のうちに撤退するのが賢明である
どの投資家にもそれぞれの事情があり、それぞれの考え方があります。あなたにA氏の発言の真意を知ることは望めないのです。また、情報は出し手、受け手双方によってバイアスされていますので、どこまで信頼できるかは分かりません。
仮に誰かが、今あるすべての信頼できる情報を持っていたとしても、明日のことまでは分かりません。つまり、A氏の発言も、発言した時点では非の打ちどころはなくても、あなたの耳に届いた時点では、間の抜けたものになっている可能性すらあるのです。
そして、A氏だけでなく、あらゆる人の情報や事情を反映したものが株価なのですから、A氏だけに肩入れする必要などないのです。
(3)著名投資家も時に間違える。発言に無反応な株価が示すのは、今回はA氏よりもあなたの見解が上回っているという事実だ。多数派がA氏の発言に惑わされる今のような時こそ買いのチャンス。積極的に買い増して勝負する
株価が無反応なのに、多数派がA氏の発言に惑わされていると、断言することはできません。現に、あなたのように動揺していながらも、惑わされることなく様子を見ている人も多いでしょう。
一方、実際に売りが出ているのに下げないとすれば、売りと同等の買いが出ているのですから、惑わされている人ばかりではないことになります。
また、大手の投機筋のなかには、A氏の発言に動かされながらも、素直に売るのではなく、いったん買い上げておいて、市場の買いポジションが膨らんだ後で、ドテンするような連中もいます。そして、そんな売り物で株価が下げ始めたなら、A氏の発言が効いてくるのです。
情報に振り回されはいけません。「いま確認すべきなのは、自分の見解を修正する必要性の有無、事前に設定した損切りポイントの妥当性、そして値動きそのものである。前提条件に変化がないなら恐れる必要はないし、株価が反応しないなら動く必要もない」のです。
したがって、正解は(2)となります。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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