今週の解答
[その他の問題]
100%減資による上場廃止懸念から一桁台に下落したある企業の株価が反発し、場中に50%の上昇を見せる場面がありました。これといった買い材料がない中、マスコミは「マネーゲーム的な売買」と解説しており、あまり良いニュアンスでは報道されていないようです。ここで問題。マーケットにとって、このような「マネーゲーム」に参加する投機家の存在は害悪でしょうか?それとも、彼らも何らかの役に立っているのでしょうか?正しい認識は…
(2)このような投機家も、頻繁な売買によって市場に流動性を提供するなどマーケットには貢献している。場中に5分間、キャピタルゲイン狙いで株を保有するだけだとしても、相応のリスクを背負ってやる以上は害悪ということはない
市場に参加し、市場を形成しているのは、長期投資家だけではありません。短期的なキャピタルゲイン狙いの投機家の、市場での役割も大きいのです。正解は、(2)の「このような投機家も、頻繁な売買によって市場に流動性を提供するなどマーケットには貢献している。場中に5分間、キャピタルゲイン狙いで株を保有するだけだとしても、相応のリスクを背負ってやる以上は害悪ということはない」になります。
市場は、実需筋と投機筋とで支えています。実需の動きは市場にトレンドを与え、市場の存在自体に明確な意義を与えています。そのほかにも為替市場での輸出入企業や、株式市場での年金基金や資産家による長期投資などの実需筋は、実体経済での役割が大きいので、彼らの存在意義を疑う人はいないでしょう。
一方の投機筋は、市場というシステムを両輪の片側として支えているのですが、なかなか理解されてはいないようです。私たちの仲間うちですら、自分の仕事を虚業であるとか、博打打ちだとかいい、卑下する連中がいます。ここに一つ、市場から投機筋を一掃すればどうなるのか論じてみましょう。
実需の存在が分かりやすい為替市場を例にとると、市場での取引は、財・サービスの輸出入にからむ実需と、旅行者などの外貨、邦貨の手当、資産の裏付けのある投資とその収益の送金などに限られてしまいます。出来高はいまの数パーセントとなり、売りたい人は買いたい人が現れるまで待ち続けねばなりません。
経済規模の小さな国や、経常収支が均衡している国ならば、国家が一時的に相手を勤めて、あまり問題にならないかもしれません。しかし、日本のように貿易が大幅黒字の国では、外貨を売りたい人が行列を作って、買い手を待つことになります。しかも、この行列は日増しに長くなるのです。
売り手は、とにかく売ることが先決となり、レベルが80円であろうが、70円であろうが、売った者勝ちという恐ろしい事態が出現することになります。売れない市場に、買いを入れる投資家はいません。投資家が最も恐れるのが、流動性の欠如だからです。金利差ゆえの外貨建て投資も、投機筋が流動性を与えてくれているからこそできているのです。
仮に奇数日には実需の買いが上回り、偶数日には実需の売りが上回る市場があるとします。その市場に実需しかいなければ、奇数日には買えない人が事実上のストップ高水準で並び、偶数日には売れない人がストップ安水準で並ぶことになります。これでは、安心して売買できる「市場」とは呼べません。
ここに、「儲かりそうなので」と、奇数日には買い手に対しての売りを、偶数日には売り手に対しての買いを出す者が現れたとします。その人は奇数日の夜はショートポジションを保有し、偶数日の夜はロングポジションを保有して、翌日の実需に充てることにより収益を追求します。
彼は、実際にはそのものを必要としていません。買戻し・売戻しを前提とした売買です。狙いは売買差益、キャピタルゲインです。つまり、彼は投機筋であり仮需なのです。
我々は、彼をディーラーと呼びます。実需相手に値を建てる、彼の行為がマーケットメイキングです。市場は、ディーラーのような投機筋の参入があってはじめて機能します。投機筋が実需筋や投資家の相手を務めているのです。
ちなみにブローカーとは、実需の意向を聞き出して、売り買いをマッチングさせ、手数料を取る人です。ディーラーはブローカーの情報を得ることで、より機能的に活動できるようになります。
実需だけの市場に参入したディーラーは、ストップ高水準の高値で売り、ストップ安水準の安値で買い戻すので、暴利をむさぼることができます。
その儲けを見た他の投機筋がたくさん集まってくると、奇数日の売値が下がり、偶数日の買値が上がり始めます。投機筋が多くなればなるほど、投機筋の利鞘は減りますが、実需筋にとっては、より望ましい価格で売り買いできるようになります。ここで投機筋が市場に与えたのが流動性なのです。投機筋が多く集まると、市場はよりよく機能するといえるのです。
このように、投機筋の市場における役割は非常に大きいのです。上記のように、マーケットメーカー以外の投機筋も、市場に流動性を供給し、安全で安定した市場をつくりあげるという面では、同様の働きをしています。誰かがリスクを取り、踏みこたえることによって、実需の偏りの緩衝材となり、過度の変動を抑えているのです。
また、取ったリスクは、リターンとして報われることになっています。要は自分が取りやすい、管理しやすいリスクを、適量取ることなのです。
2010年1月19日に会社更正法の適用が申請されたJALは、13日に7円にまで急落した後、14日には10円まで戻りました。15日の高値も10円(安値7円)でしたが、19日は高値6円、安値3円でした。
JALはここ数日、大商いを続けていますので、今回の問題のような参入者が多いことは明らかです。15日までに7円の指値で買った人は、10円の指値で売ることで利益を最大にできます。売り指値が付かなければ、9円で売るのがベストで、躊躇して19日まで持っていれば、6円で売るのさえ、困難です。
あるいは、19日に3円で買って、6円で売り抜けた人がいるかも知れません。
ここでの投機家は綱渡り的なリスクを取っています。それが、キャピタルゲインにつながるかどうかは分かりませんが、間違いなく流動性の拡大には役立っています。
JAL株がゼロ円になるのを覚悟していた人たちは、9円ですべてを売ることもできたのです。大株主にとっては、天の恵みです。うまく立ち回った投機家が1日2日で最大50%の利益を上げたからといって、投機家が市場に与えた流動性の恩恵を鑑みると、罪悪視すべきものではありません。
今回の問題の正解は(2)の「このような投機家も、頻繁な売買によって市場に流動性を提供するなどマーケットには貢献している。場中に5分間、キャピタルゲイン狙いで株を保有するだけだとしても、相応のリスクを背負ってやる以上は害悪ということはない」となります。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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