今週の解答
[その他の問題]
株ビギナーのあなたは、マネー雑誌の「株主優待特集」に興味を持ちました。優待の内容は割引券や入場券、自社製品、お米などいろいろで、あなたがファンの企業も優待を用意しており、魅力的に感じます。誌面では、現物買いと信用売りを同時に行い値動きを消して、優待だけをタダ取りする“裏技”も紹介されており、なるほどこれなら少なくとも損はしないように思いました。ここで問題。株式投資で優待を積極的に狙い、オークションなどで換金すれば、リスクを抑えながらそこそこ儲けることは可能でしょうか?
(3)世の中そんなに甘くはなく、ローリスクハイリターンの投資というものは存在しない。株式投資の基本はキャピタルゲインとインカムゲイン。優待はおまけ程度に考えるのが賢明である
誰でもが情報にアクセス可能な市場では、自分だけが得するような、おいしい話はないと思っていた方がいいでしょう。正解は(3)の「世の中そんなに甘くはなく、ローリスクハイリターンの投資というものは存在しない。株式投資の基本はキャピタルゲインとインカムゲイン。優待はおまけ程度に考えるのが賢明である」となります。
おいしい話が、仮にあるとすれば、人に話した時点で裁定されてしまい、おいしい話ではなくなってしまいます。競馬での大穴が、一番人気になってしまったなら、例えその情報が正しくて勝ったところで、掛け金以下の配当しか得られないことにもなってしまいます。
ところで、おいしい話とは、究極的にどういうものなのでしょう。働かずに遊び呆け、贅沢三昧することなのでしょうか? どんな珍味でも毎日続くと飽きてきます。世界中の珍味を飽きないように、毎日新鮮な味わいを得られるとすれば、それを知った時点で、今の楽しみは明日のものの出し惜しみにすぎないと感じてきます。
モノを持つことは、価値のあるモノを多く持てば持つほど、あなたの心を重くします。最終的には、自分がモノを持っているのか、モノに自分が所有されているのか、分からないところに行き着くでしょう。
あなたをとことん魅了する異性が出てきたなら、あなたは虜にされて、心の自由を奪われてしまいます。また、働かずに遊び呆け、贅沢三昧している自分が、相手に相応しくないように思えてきて、「おいしいはずだった生活」が、今度は苦しみに変わるのです。
景色などでも同じでしょう。移ろいゆく時間をつなぎ止めようと、絵画や写真に残そうとしても、その瞬間を留めることなどできないのですから、深い諦めを持たない限り、幸福感は得られないのです。
余程のおめでたい、勘違い人種でない限り、生活を持続的に楽しむには、その生活を自分で正当化できるだけの努力や辛抱や、欠乏の時期が必要なように思えます。あるいは「これ位は罰が当らない」と思えるくらいが、いいのかも知れません。
株主優待制度とは、企業が長期保有の個人株主を増やす目的で、いわば配当の代替として行うものです。株主優待は通常3月・9月にある決算および中間決算月に権利が確定しますので、権利確定日の5営業日前に株式を購入しておくと、株主優待を受けることができます。
内容は、自社製品、自社の取り扱い商品または割引券の配布、自社施設の無料または割引利用券の配布、イベントなどへの招待があり、企業にとっては、通常、現金配当よりも負担が少なく、自社製品や施設の利用を促す効果もあります。
もっとも、投資家にとっての株主優待制度は、そんなにおいしい話と言うわけではありません。株式投資から得られる経済的な利益は、キャピタル・ゲインと配当、株主優待制度があります。配当と株主優待制度が合わせて年率6%の収入に相当する銘柄があったとすると、その銘柄が1年で6%以上下落すると、配当+株主優待制度ーキャピタルロスで、トータルでは損失となってしまうのです。
ところが、個別株では、1日で6%変動する銘柄も珍しくはないのです。
それぞれの回答をみてみましょう。
(1)興味のある優待を基準に、ただ闇雲に買ってもなかなか儲かるものではないが、現在の株価と優待の価値を慎重に吟味し、高利回りな銘柄に絞り込んで長期ホールドすれば、低リスクで大きく儲けることは可能である
株価と優待の価値をどんなに慎重に吟味しても、先のことは誰にも分かりません。大きく儲けることは可能ですが、低リスクになるとは言えません。
(2)可能だが、どのような銘柄にも株価変動のリスクが常にあるため、現物株の長期ホールドでは優待の価値以上の損失が出てしまう恐れがある。低リスクで儲けるには、優待の権利確定日直前に現物買いと信用売りを同時に行い、株価変動のリスクを消すことである
この件に関しては、あまり詳しくはないのですが、理屈で考えて見ましょう。
空売りとは、自分が保有していないものを売ることですが、全く無いものは売れません。それで、誰かから株式を借りてきて売ることになります。この時、株式に所属する議決権や優待権は、元の所有者に属します。つまり、空売りは、一時的に株式を借りているだけで、所有権が移動しているわけではないのです。所有権が移動するのは売買ですから、所有権も得たければ、借りるのではなく、買わねばなりません。
あなたが優待の権利確定日直前に空売りすると、あなたから株式を購入し、所有した人は優待権を手にします。ところが、あなたには売るべき優待権を持っていません。借りたものはありますが、借りたものですから、返さねばなりません。
ここで、あなたが優待の権利確定日直前に株式の購入もしていると、あなたは優待権を所有していますから、それをあなたの空売りの相手に渡すことができます。
つまり、あなたの売り買いはまったくの無駄で、あなたの手には何も残りません。買ったものを売ったのですから、何もなくて当然です。
もしかすると、私の記憶違いで、空売りのために株を借りた時に、優待権なども移動するケースを考えて見ます。
その場合、権利確定日直前に株式を貸し出すことは、年率何パーセントかに相当する優待権を手放すことになります。その場合には、実質的に誰も株式を貸し出さないか、貸株料が優待権を織り込んだものになるはずです。
ここでも、優待権を得た経済的な利益は、貸株料で予め支払うことになりますので、実質的には何も得られないと考えるのが自然です。
マネー雑誌には何と書いているかは分かりませんが、「裏技」があるとすれば、誰かから優待権を騙し取るような行為に近いものかと思います。私が知らないだけなのかもしれませんが、誰でもが情報にアクセス可能な市場では、自分だけが得するような、おいしい話は限りなく犯罪に近いと考えていいでしょう。
私が考える正解は、(3)の「世の中そんなに甘くはなく、ローリスクハイリターンの投資というものは存在しない。株式投資の基本はキャピタルゲインとインカムゲイン。優待はおまけ程度に考えるのが賢明である」となります。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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