今週の解答
[投資心理に関する問題]
先日、ギリシャ財政危機への懸念などから、ニューヨーク・ダウが一時1000ドル近い下げを記録した際、ダウ構成銘柄のP&G株は前日の終値62.12ドルから39.37ドルまで約37%急落しました。その後、P&Gの株価は10分足らずで鋭角的に切り返し、終値では前日比2%安まで値を戻しています。このような極端な値動きに上手く乗ることができれば1日で大きなリターンを得られそうですが、その場合、どのような心構えでトレードに臨むべきでしょうか。
(2)暴落している理由を確認しているようでは、目の前のチャンスをみすみす逃してしまう。値動きを頼りに、実際にリバウンドの始まるタイミングを目で見て反射的に買いを入れるのがよい
相場は、誰かが気まぐれに売っても下がります。そして、大きく売った人が買い戻しを始めると戻ります。その行為の裏側に、どのような事情や意欲があろうと、相場が動くのは実際の売買が出てからです。そして、実際に売買が行われると、相場は瞬時に動くのです。
したがって、目先のリバウンドを取ろうとする時に、売られた理由を詮索していては間に合いません。正解は(2)の、「暴落している理由を確認しているようでは、目の前のチャンスをみすみす逃してしまう。値動きを頼りに、実際にリバウンドの始まるタイミングを目で見て反射的に買いを入れるのがよい」になります。
市場には反射神経を活かして、動物的な売買を行う人と、何事にもまともな理由をつけて、知的な売買をする人とがいます。「知的」な人たちは、売り買いに納得できる理由付けすることを好みますので、いつも上げ下げには理由があります。
ところが、間違いで売買しても相場は動くのです。今回の問題での急落は、ギリシャ財政危機への懸念とはいわれていますが、あれほど大きく動いたのは、「誤発注」のためではないかとの調査中です。買い戻しの大きさから考えれば、「誤発注」で売ってしまったものを、慌てて買い戻したとする可能性が高いのですが、ギリシャ財政危機への懸念は説得力があるので、下げの理由とされました。
市場はどのような要因でも動く可能性があるので、上げ下げの理由をどのようなものにでも求めることができます。例えば、同じギリシャ支援が材料でも、上げれば、ギリシャ支援を好感となり、下げれば、ギリシャ支援の効果に懸念となるのです。
ここに、急落の直接の原因が誤発注であっても、売られたから、「懸念」が1人歩きしたのです。仮に急騰でもしていれば、「好感」が1人歩きしていたことと思います。売り買いのすべてにまともな理由を求めるのは、「知的」というよりは、「知的な自分」を満足させるだけなのです。
ここで、もう一度、市場価格が変動する仕組みを復習しておきましょう。
まず、相場の方向性を意味するトレンドは、ポジションの量と保有期間により決められます。つまり、大量に買って、売り手より長く持ち続けると、相場は上がります。
これを、私は「タペストリー第1理論(Tapestry Theory #1)」と名付けました。
http://ameblo.jp/dealersweb-inc/entry-10295633030.html
そして、相場の上げ下げを意味するボラティリティは時間制限のある投機(仮需)によって、上記のトレンドは長く保有する投資(実需)によってつくられます。
つまり、投機はキャピタルゲイン狙いの売買ですから、買ったものは売ってしまいます。このことは、上げ下げは作るが、その後のトレンドには関与できないことを意味するのです。
これは、「タペストリー第2理論(Tapestry Theory #2)」で、詳しく説明していますのでご覧下さい。
http://ameblo.jp/dealersweb-inc/entry-10300171680.html
そして、投機(仮需)と、投資(実需)の一時的な力関係では、常に、前者が数倍も、数十倍も勝っています。なぜなら、投機(仮需)はレバレッジ効果により、うまく行っていれば、ほとんど際限なくポジションを膨らませることができるからです。
とはいえ、投機(仮需)は本質的に時間制限のある売買です。つまり、投資対象そのものを欲しているわけではないので、買ったものはいつか売り、売ったものは買い戻します。その売買の動機はキャピタルゲインで、相場観によってポジションを取るのです。
相場観とは、思惑のことです。思いつきと大差なく、同じものでも、好感したり、懸念したりするものです。どんなに理論だった説明をしていようと、実のところは、まともな理由とは呼べないものなのです。
一方の投資(実需)は、経済のファンダメンタルズの実際を反映していますので、まともな理由で売買されますが、量に制限があるので、その日の相場に与える影響力は限られています。メディアを中心に多くの人は、こちらに注目しますが、市場価格に与える短期的な影響力は大きくないのです。
今回の例であえて強調するならば、P&G株が実需で売られたのは2%分で、後の35%は仮需の売り仕掛け(誤発注)と買い戻しです。
つまり、リバウンドを取りにいくなどの目先の動きには、売り買いの材料を分析する時間的な余裕はなく、また、その必要もないのです。
正解は(2)の「暴落している理由を確認しているようでは、目の前のチャンスをみすみす逃してしまう。値動きを頼りに、実際にリバウンドの始まるタイミングを目で見て反射的に買いを入れるのがよい」となります。
ここで注意したいのは、下げている途中では買わないことです。どんな小さな手掛かりでもいいから、下げ止まり、谷越えしたと確認してから(できたと思ってから)、買うようにします。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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