今週の解答
[投資心理に関する問題]
あなたはこれから投資を始めようと思っています。どの程度の勝率を目指すべきでしょう。
(2)5割
リスクを取って資金運用を始めるからには、目標だけでも10割といきたいものです。ところが、この壮大かつ非現実的な目標こそが、あなたの資金運用を歪めてしまうのです。勝率10割というのは、決して負けないということです。相手が誰であっても、どんな場合にでも決して負けないということは、八百長をすることです。あるいは、負けを負けと認めず、ゲーム中にルールの変更をすることです。そうでなければ、決して負けないために、戦わずに逃げ続けることになるのです。
個々のトレードでは勝ち負けを繰り返しながらも、ある期間を通せば勝ち続けることは可能です。しかし、何連勝を誇るなどと、負けないことを自慢する連中は、プロであっても油断がなりません。「ナンピン買い」など、いたずらに勝率を高める行為は、法的には問題がない場合でも、大損する危険をはらんでいます。(参照:増益見通しなので購入・保有していた銘柄が値下がりしたら?)
相場では何が起きるか分からないことを前提とします。テロや自然災害、スキャンダル、あるいは、大口の投資家が行った気まぐれな売買でも、相場は動いてしまうのです。そんななかで、絶対に儲けるぞといきまいてみても、自分の行動をいたずらに制約してしまうだけです。相場では、上がるも下がるも5分5分と居直ったところから、何をなすべきかが見えてきます。勝率5割で、どれだけ残せるかを考えるのです。
その居直りは、あなたの気持ちを楽にもします。プロでもアマでも、どんなに頑張っても5分5分なのなら、つまりやってみなければ分からないのならば、準備不足を恐れることはありません。何がより大切なのかというと、始めた後のリスク管理なのです。そのトレードにどんなリスクがあるのかを分析し、自分が取れるリスクだと判断できたなら、あとは「やるだけ」です。
3割と答えた人は、もしかすると私の著書を読んでくれている人かも知れません。私は1990年の著書『生き残りのディーリング』と、2001年の『同・決定版』で、3勝7敗のディーリングを唱えています。
上げ下げ5分5分なら、思惑と違った5回は損切って5敗。あと、思惑通りの5回のうち、利食いに失敗しての2敗。そのようにして出来るだけ利を伸ばすようにすれば、残りの3勝でも利益が残せるという考え方です。しかし、利食いに失敗しての2敗は、あくまで失敗です。勝率の目標は上げ下げの確率と同じ、5割でいいのです。
以下に、「3勝7敗のディーリング」を引用します。
「私は相場観には自信を持っていて、10回ディールをやれば7回か8回は勝てるのですが、あとの2、3回の損が大きくてなかなか上手くゆきません。相場って難しいものですね」
ディーラー、またはファンドマネージャーと呼ばれている人たちの、2人に1人あるいはそれ以上の人が、このようなことを言います。なぜ、相場観が良いのに儲からないのでしょうか。それは、やり方がまずいからなのです。毎回1安打では9安打しても1点もとれず、たった1本のホームランに負けてしまうのです。
右か左か、上か下かを問題とすれば、確率的には5分と5分、5勝5敗のはずです。7勝3敗、あるいは8勝2敗というのは相場観が良いためなのでしょうか。3敗の負けの大きさは言うに及ばず、7勝の勝ち方の方には問題はないのでしょうか。
(1) 買ってはみたものの相場は下がる一方、しかしじっと我慢の子で耐え通したら、何とか浮上したので1勝。
(2)ナンピン買いが効を奏して難を逃れ、これも1勝。
(3)底と思って買ったら思惑通り上昇。素早く利食って、文句なく1勝。
相場での勝ち負けは必ずしも5分5分ではないのですが、自分が入ってゆく相場の上げ下げは謙虚に5分の確率と思っていて下さい。 10戦中常に7勝も8勝もするようだと、どこかに落とし穴はないか、問題点はないかとかえって点検して貰いたいのです。
上記の3勝はいずれも×です。(1)、(2)は戻ったからいいようなものの、戻らなかったらどうなるのでしょう。(1)の場合で、たとえば買ってから10パーセント下がったとします。そしてそのレベルからの相場の上げ下げの確率がやはり5分5分だとしたら、非常に不利な賭をしていることになります。
(2)のナンピン買いはディーラーが決して取ってはならないリスクです。ナンピン買いは評価損からの脱出をはかってポジションを膨らませているもので、何とか浮かび上がりたいというささやかな期待利益に比べてのリスクが大きすぎるのです。損を出さないという消極的な目的のために、かえって大損のリスクを抱えています。(1)、(2)のような勝ち方をしていると、どうしても損を出す時は大きなものになります。
(3)は一見文句なく思えるのですが、素早く利食ったことが気に掛かります。なぜ、素早くなのでしょうか。大儲けのチャンスなどそれほど多くはないのです。相場を張るには損切りというコストがかかっています。利食えるからといってすぐに利食っていたのでは、将来の損をカバーできないのです。儲けるときに大きく儲けていないと、結局損が出るというくらいの認識がいるのです。相場に気の弛みは許されません。利食いこそが真剣勝負なのです。
ただ勝率だけをあげたいのなら、実は簡単に9割以上の勝率があげられます。相場は常に上下動を繰り返しています。逆にゆけばじっと持ちこたえる。またはコストダウンを狙ってナンピンする。そして利が乗れば素早く利食う。価格波動を鑑みれば長期間に亘って一方通行の相場などそれほどないと分かりますので、このやり方で9割の勝率が確保できます。別に相場観が良いわけでも、天分があるわけでもないのです。しかし、それでもなお負けた時の1敗というのは必然的に大きく、残りの9勝の利益を食い潰してしまうのです。生き残れるディーリングとは呼び難いと言えます。
右か左かは5分5分なのだと前提して、私は3勝7敗のディーリングで良しとしていました。なぜ負けの方が多いのでしょうか。買って下がったら、すぐ損切っての5敗です。あとの2敗は買って上がったのにもかかわらず、利食いに失敗しての2敗なのです。利食える時に利食わないで、結局損を出す。まるで馬鹿のようですが、それほど利食いとは難しいものなのです。馬鹿と言われようが、爪の伸ばし過ぎと言われようが、利食いをできるだけ引き延ばそうとすると、5回のうち2回くらいは失敗するものです。その代わり、残りの3勝が大きいのです。1勝で他の9敗をカバーすることだってまれではありません。
勝てる時に大きく勝っておかないと差し引きネットでは損をだす。勝てる時はそれほど多くはないと気を引き締め、貪欲に利益を追求する。小さな評価益を確定せず、より大きな期待利益のためにそれを捧げる。逆に行った場合の損切りは徹底する。これが3勝7敗の意味なのです。
書籍
プロフィール
- 【監修】矢口新(やぐち・あらた)
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1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。野村證券(東京、ニューヨーク、ロンドン)、ソロモン、UBSなどで為替、債券のディーラー、機関投資家セールスとして活躍。著書『生き残りのディーリング決定版』は、現役ディーラーの“座右の書”として、高い評価を得ている。現在は会社社長兼ファンド・マネージャーとして、資本金を株式市場などで運用。主著に『実践・生き残りのディーリング』『なぜ株価は値上がるのか?』など。新著『テクニカル指標の成績表』は2009年11月11日発売。
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