投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
米欧軍需マーケット争奪戦が本格化?「防衛省汚職事件」の背景とは
「GE事件」とは何だったのか
07年後半に大騒ぎになった守屋武昌・前防衛事務次官をめぐる不祥事について大手メディアがまったく報じなくなって既に久しい。一部に期待されていた政界ルートへの波及もなく、結果として「おねだり夫婦」が一民間企業にたかっていた構図がイエロー・ジャーナリズム的に明らかとなるにとどまった。
しかし、この事件の背景には、そう遠くない将来に地域紛争が起こる危険性をはらんだ東アジアを巡る「軍需マーケット争奪戦」が見え隠れしていたことを忘れてはならないだろう。
事件の発端は次期輸送機C-Xのエンジン調達を巡るもので、そこで槍玉に挙げられたのは日本の防衛商社「山田洋行」であった。調達されたエンジンはというと米国屈指のコングロマリットであるGE(ゼネラル・エレクトリック)製で、この点こそが事件のカギともいえるのだ。
なぜなら、事件の展開如何によっては、これまで無敵に見えた米系コングロマリットが、同盟国・日本の当局からの火の粉を振り払わなければならない事態にもなり得たからである。戦後の米国という国家そのものともいえるGEの歩みからすれば、これほど「ありえない事件」はなかったことであろう。
これまで無敵に見えた米系コングロマリットが槍玉にあがったという点で、この事件はマネーが織りなす「潮目」だったのである。その意味で、この事件はマーケットの観点から見ると「守屋事件」ではなく、むしろ「GE事件」と呼んだほうが適切なのかもしれないのだ。
巨星ボーイング、墜ちる
実はこうした軍需マーケットにおける「潮目」は、何もGEだけに限られた話ではない。もう1つの巨星・ボーイングには、もっと大きな災難が降りかかっているのである。
3月2日、海外メディアは一斉に欧州系航空宇宙関連企業・EADSが米国防総省(DOD)より巨額の注文を受けたことを報じた。対象となっているのは空中給油機であり、その総数179機。受注総額は400億ドルを超え、今後10年から15年にかけて生産・納入されていくことになった。
EADSといえば、エアバスの生産で有名な企業である。ところが最近は米系ボーイングの猛烈なマーケティングに押され、圧倒的な劣勢となっていた。それが今回の受注ではEADSが圧勝。最近、仲が悪くなったといわれるメルケル独首相とサルコジ仏大統領は共に手放しで喜びの声明を発表したほどだ。
当然、ボーイング側は怒りを隠せない。「一体、誰がこんな屈辱的な敗北をもたらしたのか?」。話はスケープゴート探しへと移り、槍玉にあげられたのがジョン・マケイン共和党大統領候補なのだという(3月2日付フランクフルター・アルゲマイネ・ツァィトゥング参照)。マケイン候補は2003年に米国連邦議会上院の経済委員会の委員長をつとめた際に、DODが不当に高い値段でボーイングに注文を行っていると糾弾、「ボーイング叩き」に一役買った経歴を持っているのである。
ついには大統領選挙の行方にまで影響を与え始めた感のある今回の出来事。DODによる決定に疑問を呈する声があることは事実だが、EADSが提携しているノースロップ・グラマンの工場があるアラバマ州はこの決定を大歓迎しているともいう。つまり米国国内にも利害関係者(ステークホルダー)はいるのである。そうである以上、欧州勢が米国本土ではじめた「軍需マーケット争奪戦」の第一幕は、ひとまずボーイングの負けということで最終的に決着がつく可能性が高い。ただでさえ最新旅客機B787(ドリームライナー)の納期遅れが目立ってきているボーイングとしては苦しい展開だ。
軍需マーケット争奪戦から見える「潮目」とは?
それではなぜ、米国防総省はあえて欧州勢に花を持たせるような決定を下したのだろうか?この問いに答えるためにはマーケットで常に維持されている、ある1つの「原理」に立ち返る必要がある。それはズバリ「破壊と創造」の原理である。
この原理について、私は1月に上梓した『世界と日本経済の潮目 メディア情報から読み解くマネーの潮流』(ブックマン社)において説明している。また、3月22日には横浜、4月5・6日には大阪・名古屋、4月19日には東京でそれぞれ開催する無料学習セミナーでも詳しくご説明する予定である。
つまりこういうことだ。マーケットでマネーが「利潤」を生んでいくためには、ある段階まで支配的だった制度や慣習、あるいはマーケット・シェアが“破壊”されることが必要なのだ。そして破壊の先には新たな制度・慣習、そしてマーケット・シェアの“創造”が連なっていく。
軍需マーケットもその例外ではない。巨大なコングロマリットだからといって決してこの原理から逃れられるものではなく、絶えずマネーが織りなす「潮目」にさらされているのである。現にボーイング自身、あるいは先ほど述べたGEも創業以来、何度と無く急激な業績悪化に見舞われ、いわば瀕死の重傷を負うにまでいたったことがある。
米国防総省はすでに07年中ごろより、こうした巨大コングロマリットではなく、どちらかというとベンチャー企業への発注に熱心になり始めたという情報がある。確かに、すでに巨木となっている企業に投資するよりも、種あるいは芽にすぎないベンチャー企業に投資することで得る果実の方が大きいのであって、国家理性が経済合理性と一面では等しい米国としては、こうした流れは必然だというべきなのかもしれない。
こうした軍需マーケットで見え隠れする「潮目」は当然、日本にも及ぶはずだ。既にその第一波は「GE事件」として発生していることをあらためて思い起こしておこう。そして、その次にくる「潮目」をどのようにして察知し、あらかじめ戦略を立てられるのか。私たち=日本の個人投資家の力量が試されている。
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
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