『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

綻ぶ『米ドル=大衆民主主義=マスメディア』のトライアングル

“大衆民主主義”と“金融資本主義”の密やかな関係

主要各国当局による数々の取り組みも空しく、全世界で吹き荒れる金融メルトダウンは依然として止む気配を見せない。さすがに「危機は去った」「もう安心だ」等と根拠のない気休めを叫ぶ声も聞かれなくなった。総論としての金融危機は前提となり、あとは具体的にどの国(どの金融機関、どの企業)が危険なのかという各論が日々、人々の口の端に上っている。これが、マーケットとそれを取り巻く国内外情勢の日常風景である。


しかし、このような時だからこそ、考えなければならないことが1つある。それは、今も続く強烈かつ世界的な規模に及ぶ下げ局面が、現在の世界システムをどのように変えるべく仕掛けられたものなのかということである。そのためにはまず、「現在の世界システム」の源流へと歴史を辿っていく必要がある。


この文脈で私がいつも語る話がある。「今起きている強烈な下げは、100年に1回のシステム転換を促すものである可能性が高い」ということである(こうした複数のシステム転換について、詳しくは2009年1月刊行の拙著『大転換の時代――10年後に笑う日本人が今するべきこと』を参照されたい)。


それでは、100年前に一体何が起こったというのか。まず思いつくのが、米国における恐慌だ。1907年10月から始まった恐慌は、調子にのった信託会社が投機的売買を派手に繰り返したことが主たる原因であったが、次々に暴落を引き起こし、それこそ米国マーケットが“総崩れ”になってしまった。そのような中、まずロンドン・マーケットで米国勢に対する不信が巻き起こり、これへの対抗措置として、ついに米国勢はそれまで忌避してきた中央銀行制度(FRB)の設立へと踏み切るのである。つまり、米ドルによる“覇権”の淵源は100年前の恐慌にあるのだ。


しかし、この時期、もう1つの大きな世界システムが産声を上げたことを忘れてはならないのだ。それは「大衆民主主義」である。19世紀後半から勢いづいた第2次産業革命は、大量の工場労働者を生んだが、過酷な労働条件に耐えかねた彼らは徐々に政治における権利を求め始め、ついには「普通選挙権」を要求するようになった。こうした動きが世界的に大きなうねりとなったのが1910年代であり、米国においては1920年に女性の普通選挙権が認められるに至るのである(男性については1870年)。


一見すると相互に関係がなさそうな、これら2つのシステムではある。しかし、マネーの視点から見ると緊密につながっていることに気づく。というのも、大衆社会が当時において最も発達していた国の1つが米国だったからである。そこで普通選挙権を認めるということは、要するに「あなたたちが決めた代表が求めている税金なのだから、しっかり払いなさい」という論理を、大衆に押し付けるようになることも意味する。そして米国はそのカネ(税金)で武器を買い込み、大砲外交を繰り返す中で、今や中央銀行(FRB)が一元的に管理するようになった米ドルを世界に普及せしめ、世界を米国化していくことになるのだ。

地上波デジタル化放送で世界は一気に変わる

したがって、米ドルに象徴される米国流金融資本主義を押し進める米国勢からすれば、普通選挙権を持った一般大衆をいかに良い気にし続けられるかがカギとなってくる。すなわち、ある時は彼らをまとめて鼓舞し、またある時は慰撫し、動員するための大掛かりな演出道具が必要となってくるのである。


その役割をこの頃より果たし始めたのが、いわゆるマスメディアなのである。つまり、「米ドル=大衆民主主義=マスメディア」というトライアングルは、その生い立ちからして密接につながりあっていたのである。したがって、逆にいえば、その1ヶ所でもほころび始めるのであれば、同時に他2ヶ所もほころび始めるであろうことは容易に想像がつくのである。


この観点から最近、気になる報道があった。先だっての米連邦議会で大揉めに揉めた景気対策法案の陰に隠れ、日本ではあまり取り沙汰されることのなかった論点――米国における地上波デジタル放送移行のタイミングである。


去る2月11日、オバマ米大統領は米国においてテレビが地上波デジタル放送へ全面的に移行する期日を、当初予定されていた2月17日から6月まで延期する法案に署名した。だが、実は時間的にもロジックの上でも「それ以前」の段階で、話の腰を折るようなある調査結果が発表されているのだ。このデジタル化構想に関するアンケートによると既に2割の視聴者が「デジタル化への移行と共にテレビを見なくなる」と答えているというのである(2008年10月24日付テクノバーン参照)。


これは大変驚くべき結果である。なぜなら、第一にテレビを見なくなる人がそこまで大人数ということになると、マスメディアそのもののみならず、これに付随する一連のビジネス・モデルが崩壊する。もはや収益を上げられなくなるからである。


それと同時に、マスメディアが人々の政治行動に対する影響力を大幅に減らすことになるので、これまでのような「大衆民主主義」を前提とした統治は行えなくなるのである。その結果、あれやこれやと「大衆=有権者」がまとまりの無い意見を随所で叫び始める結果、米国内政は徐々に溶解していくことであろう。


米国内政の溶解は、米国外交の弱体化へとつながってくるはずだ。もはや大砲外交ができない状況にまで追い詰められることとなれば、それをバックに世界進出を果たしてきた米ドルの威光もほころび落ちることとなる。その結果、世界システムは歴史的な大転換を迎える。

その先にあるものは何か

こうした論点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”について、私は3月14、15日に福岡・広島で、4月4、5日に東京・横浜でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナーで詳しくお話できればと考えている。ご関心のある向きは是非ともお集まりいただければ幸いである。


今、私たち=日本の個人投資家は、このように世界システムが大転換を迎えた時、私たち自身が何を目指すべきかを考えるべきであろう。なぜなら、米ドル、そしてマスメディアを巡って米国からまず発される上記のような“潮目”は必ずや日本社会を襲い、ひいては日本の政治をも大幅に転換していくはずだからである。しかし、そうであればなおのこと、とめどなく“分散化”してしまう危険性にさらされている日本社会を、私たちは自らの手で一体どのようにしてまとめていくのかという、巨大な試練にさらされることになるのである。


「その先にあるものは一体なにか」――“潮目”はもはや動き始めている。
「自分のことは自分でやる」というのが大原則ではあっても、マーケットとそれを取り巻く国内外情勢について最も敏感な私たち=日本の個人投資家だからこそ、次なる一手を考えるべき、日本の最先端に立たされていることを自覚したいものである。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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