投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
技術革新が告げ知らせるマネーの“潮目”とは?
歴史が語るマネーの「今」
金融メルトダウンによる経済低迷が続く中、政局にも混乱の時が訪れている。国内外を問わず、政治が金融・経済と密接な繋がりを持つものである以上、現下の政財界一体となった混迷は当然と言えば当然の事態といえる。しかし、それにしても、このところ「重大ニュース」が多すぎる。これでは、真に重大なニュースがどれなのか、そこにどのような意味を読み取るべきなのか、それに従ってどう動くべきなのか、といった点で戸惑ってしまう人々が多く出てきても無理はないではないか。
そのような状況だからこそ、個別の情報に振り回されることなく、むしろ歴史の大局を見据えた思考に努めるというのも一法なのかもしれない。事実、私たちの研究所では今、すぐそこにあるマネーの「潮目」を追うのもさることながら、100年に一度あるかないかの世界システムの大転換を控え、どのような歴史の「潮目」が紡がれるのかに専心している(この世界大のシステム転換について、詳しくは拙著『大転換の時代――10年後に笑う日本人が今するべきこと』(ブックマン社、2009年1月刊)を参照されたい)。
日本語で「急がば回れ」とは良くいったものだ。改めて金融資本主義の歴史を振り返り、その古層に分け入った者の眼にこそ、かえって現在のマネーの「潮目」がくっきりと浮かび上がってくるのである。
“越境する事業主体”は“越境する投資主体”に先行する
金融メルトダウンの中、“越境する投資主体”たちが続々と経営破綻する様を目にした大手メディアは、多くの場合、米国流金融資本主義という悪魔の錬金術がついにはじけたと大騒ぎするだけである。
確かに、要するに「安く買って高く売りつける」「リスクは自分で負わない」という2つの大原則だけが支配するマーケットの世界にあって、あれやこれやとこねくり回し、結果として複雑怪奇で不透明な金融商品を続々と生み出した米国流の手練手管にはただただ呆れるばかりだ。だが、そもそも米国流金融資本主義が100年前の昔から、ずっとそのような調子であったと考えるならば、歴史の真実、すなわちこれから何が生じるのかを見損なうことになるであろう。
なぜなら、“越境する投資主体”が国境を超える(すなわち「越境する」)のには、それなりの理由があるからだ。しかも、“越境する投資主体”だけがそうするのではなく、彼らは逆に別の主体が越境するのを助ける形でいわば後追いをするに過ぎなかったのである。
それでは“越境する投資主体”に先行するそうした主体は一体何なのかといえば、技術革新によって誕生した新しい技術を海外へ移植しようとする事業主体なのであった。技術革新の結果、まず米欧で新しい技術は花開き、マーケットを獲得していく。しかし、やがてそれが飽和状態になった時、新たな技術を引っ提げてこれら事業主体たちは、海外へと雄飛するのである。
そのような時、「先立つもの」が必ず必要となる。そこで、これをファイナンスすべく、別の専門家たちがついていったというわけなのである。これが、20世紀後半より生じた“越境する投資主体”たちの元祖による行動パターンだったのである。
ところが、当たり前といえば当たり前のこうした歴史上の連鎖反応は、意外にも歴史家たちによって研究されていない。軍隊による侵略なら侵略、あるいは工場による進出なら進出、そして植民地銀行の開設なら開設といった具合で、各々の主体についてだけ研究がなされてきたのである。
とりわけ戦後日本の歴史学においては、一定の歴史観に基づいて歴史叙述が行われてきたので、これらを複合的にとらえることは時に都合の悪いやり方だったのであろう。なぜなら、これらの主体が折り重なる中で“越境する投資主体”たちが海外へと雄飛し、やがては利益確定して、別の地域に移ることによって資本主義の歯車が絶えず回っているという歴史の真実が明らかになってしまっては、「資本主義はやがては終わり、社会主義・共産主義がやって来る」という主張が正に打ち壊されてしまうからだ。
19世紀後半以降の世界で、こうした“越境する事業主体”の後に“越境する投資主体”が追って出て行くというパターンを最も美しく描くことができるのは、電力セクターにおける展開である。この分野においては、ようやく最近、欧州で集中的な研究成果が公表され、研究者たちの間で耳目を集めているところだ(William J. Hausman 他“Global Electrification”)。
これを読む限り、当時から閉鎖的なマーケットなど存在しなかったのであって、日本の電力セクターでさえ、“越境する投資主体”たちの手を借りなければ立ち行かなかったことが明らかなのである。そして、こうしたトレンドを作り出したのが、米国でかのエジソンが作り出した「電灯」という技術革新なのであった。電灯を“越境する事業主体”たちが続々と普及させる中、これをファイナンスするために“越境する投資主体”たちも国境を超えていく。その中で日本の“事業主体”=電力セクターと出会ったというわけなのである。
技術革新と“越境”――その次なる姿は?
それでは、今、バタバタと倒れつつある“越境する投資主体”たちは一体どのような“越境する事業主体”について、国境をまたいでやってきたというのであろうか。――様々な考え方があるだろうが、私としては何といってもインターネットが決定的な役割を果す技術革新であったと考えている。今では死んだようになっている日本の新興マーケット。そこでかつては大商いを繰り返していたIT関連銘柄のバックに、絶えず「あの米系投資銀行がいる」「いや、この米系ヘッジファンドが潜んでいる」などと叫ばれたものである。
だが、そうした米系“越境する投資主体”たち自身が息も絶え絶えとなっている中、もはや彼らから手助けを得ることのできないインターネット業界は、死んだように静まり返っている。かつては「年次改革要望書」などという大鉈を振り回して日本マーケットへの参入を求めてきた米系“越境する事業主体”も、インターネット分野ではすっかり息を潜めてしまっている。
その意味で、「“越境する事業主体”に“越境する投資主体”が追随し、大量のファイナンスを行う中で、マーケットが大暴騰するものの、やがてバブルが弾け、両者は共にターゲットから去っていく」という原理原則がここでもまた働いていると見るべきなのである。
そのような中、ブログの利用率、あるいは携帯でのネット使用などを見ても、日本が今や随一のIT“利用”大国であることは誰の目にも明らかだろう。遠く離れた米国で生み出された技術が、またしても日本にとどまり、発展を遂げているのだ。
この事実は、かつて英国海軍の水兵たちが着ていたセーラー服が、極東へと伝わり、女子学生の制服として「日常」のものになったという文化の大流すら思い出させてくれるものである。しかし、セーラー服を着ている欧米人は今や誰もいない。全く新しいモードへと切り替わった欧米の文化との比較でいえば、次なる技術革新が何であり、それを伝播させるべくどういった“越境する事業主体”が「潮目」を生じさせ、これにいかなる“越境する投資主体”が追随するのかが大変気になるところなのである。
こうした論点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その背景にありながら私たち=日本の個人投資家が知ることのなかった歴史上の“真実”について、私は、3月14、15日に福岡・広島で、4月4、5日に東京・横浜でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナーで詳しくお話できればと考えている。ご関心のある向きは是非ともお集まりいただければ幸いである。
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
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