投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
『親米保守』を切り捨てる米国と東アジアマーケット
「親米保守」という老人たち
日本でさまざまなメディア、とりわけテレビに出演していると、必ず出くわす老人たちがいる。いわゆる「親米保守」と呼ばれる人たちだ。
テレビの政治討論番組の司会であったり、あるいは常連のコメンテーターとして居座っている彼ら=「親米保守論者」たち。何せ、テレビのチャンネルをつけると、ニュースや報道、あるいは討論番組に必ず1人は出演しているので、彼らの論は知らず知らずの間に現代日本を生きる私たちの頭に刷りこまれているといってもよい。その影響力は、少なくともこれまでの日本においては絶大であったといえるだろう。
それでは彼らが依って立つ「親米保守論」とはいったいどんな考え方なのか?ポイントをまとめると次のようなものといえるだろう。
(1)日本は米国と戦争をして負けた。アングロサクソン、とりわけ米国と戦争をして、勝つわけがなかったのに、無謀な戦争を行ったのである。その後、米国はますます圧倒的な存在となっている。
(2)その一方で、目を西に転ずると中国(さらにはロシア)という大国がいる。これらの国々はいつ日本を襲ってくるか分からない、恐ろしい存在だ。したがって、こうした「仮想敵国」に対する備えを十分にしておく必要がある。
(3)この時、頼りになるのは米国をおいて他にはいない。日本の伝統、そして国家を守るためにも、米国と同盟を結び、仲良くするしか他に選択肢はないのである。
そして、こうした「親米保守論」を声高に語るものたちは、続けて「黒船ファンド恐怖論」に対してあからさまに批判を行うのがパターンだ。「日米同盟で守ってもらっているのだから、多少、その駄賃を米国にくれてやっても問題ないじゃないか。そんなカネ、カネいうな!」と、その筆頭格である塩川正十郎翁(元財務大臣)より、私自身、とあるテレビ番組で叱責されたことがある。
だが、こうした何とも無防備な「日米同盟神聖論」は、もはや支持できないことは、このコラムの読者である個人投資家の方々にはすでに明らかなのではないかと思う。日本のマーケットで「仕掛け」「壊し」「奪い去って」いる群れの先頭にいるのは、米国勢なのである。米系巨大ファンドの「御三家」がいよいよ東京にそろい踏みしている今、日本人が思慮なく丸腰で突っ立っていて良いわけがないのである。
台湾問題で「親米保守」を切って捨てた米国
世界中の経済・政治ニュースを選りすぐり、公式ブログでIISIAデイリー・ブリーフィング(無料)を出している私の目で、この観点より見ると、最近、大変気になることがある。それは、よりによってこうした日本の「親米保守論」の根底を揺るがすような発言を、カーター元米国大統領が行ったということである。
不思議なことに日本の大手メディアは一切黙殺しているが、米中国交正常化28周年の記念式典に出席するためにカーター元大統領は北京を訪問、その際、「米中国交正常化(1979年)に際し、米国による台湾への武器輸出を中国が認めると約束したので、米国は台湾との国交断絶と中国との国交正常化に踏み切った」と述べたのである(12月7日付「朝鮮日報」(韓国)参照)。要するに、米国は中国との間で密約を結んでいたのだ。
このニュースは、日本の「親米保守論者」にとって破壊的な意味合いを持つ。なぜなら、中国は自らに向けられるはずの台湾における武器増強を、米国に対し、密かに認めていたからである。その結果、「親米保守論者」が何かというと引き合いに出す、中国と台湾との間の軍事的緊張関係、あるいは「中国脅威論」+「台湾善玉論」というセットが巨大な虚構であったことが明らかになったことになる。
そうである以上、「脅威」であるはずの中国と裏では握手していた米国に助けを求め、ましてや米国との同盟関係を神聖視することほど愚かなことはないと明らかになったのである。なぜなら、この巨大なフィクションをつくりあげた張本人が米国なのであるから。
密約の存在を明らかにしたのが、当時の米国における交渉の最高責任者であったカーター元大統領であることから、もはやこれは疑いようのない真実である。見方を変えれば、カーター元大統領、さらにはその背後にいる米国勢、これまで忠犬ハチ公のようについてきた日本の「親米保守論者」を鞭で乱打し、切って捨てたに等しい。これは巨大な「潮目」だ。
東アジアの新秩序こそ「越境する投資主体」たちの狙い目
1月19日に東京、26日に大阪、27日には名古屋で開催する拙著の新刊記念講演会(無料)では、その辺りの事情も踏まえつつ、2008年における日本、そして東アジアにおけるマーケットとそれを取り巻く世界の見通しについてお話できればと思う。
日本には今、やたらと悲観論を口にする論者が多い。だが、そのような議論が横行している時だからこそ、実はネガティブな評価を受けているマーケットで、巨大な「仕掛け」が行われているものなのである。その観点から見ると、日本はむしろ「買い」ということになるのだろう。
そのことは、カーター元大統領による突然の「告白」からも容易に推測できる。「密約」の存在を口にすることによって、未だに中国軍事脅威論を声高に語る日本の「親米保守論者」たちを徐々に一掃する。なぜなら、1970年代前半のニクソン・ショック以来、米国が手塩にかけて育ててきた世界最大のエマージング・マーケット=中国における果実を、もっと大きなものにするためには、隣国の貯金箱=日本におけるマネーがもっとつぎこまれる必要があるからだ。もはや「中国は脅威ではない」と強調されることによって、東アジアからは地政学リスクが消えてなくなっていく。
その結果、どういうわけか米朝が接近し、経済統合へと進みつつある朝鮮半島も巻き込む形で、東アジアにおける新秩序がつくられていくことであろう。そして、秩序構築の裏側に潜むさまざまな投資案件に、米系の「越境する投資主体」たちが目をつけていないはずもないのである。いや、すでに仕込みを終えており、だからこそ今回の「カーター発言」となったに違いないのである。
2008年は、この「東アジア新秩序」が徐々に明らかになっていく年となるであろう。その中心が日本であり、またそのマーケットであることを、私たち=日本の個人投資家は忘れてはならない。
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
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