投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
サイクロン被害のバングラデシュを支援する米国の狙い
「潮目」を読み解く第3の道
最近、私の研究所に新任の研究員I君を迎えた。フランス哲学の専門家で、かねてより私に私淑してくれてきた青年だ。そのため、私が唱えている「個人投資家が『新しい中間層』へと脱皮することにより、日本を大変革していくプラン」についてもI君はすでに詳しい。しかし、「学びの現場」と「仕事の現場」ではおのずから訳が違う。あらためてマーケットと国内外の情勢との密やかな連関性について、I君に集中講義することにした。
そんな中、自分で口にしながら、ハッと気付いたことがある。それは、株式マーケットを国内外情勢分析とリンケージさせながらフォローし、そこにある「潮目」を読み解く方法は3つあるということだ。
1つは、いわゆる財務諸表分析だ。企業の財務諸表を分析し、その成長性から、株価の「上げ」「下げ」を占うというやり方である。
第2は、チャート分析だ。株価をまず、マーケットに参加している人々の「集団心理」を反映しているとみなす。そしてその過去の足跡を示すチャートにあらわれた「集団心理」のパターンを読み解きつつ、株価の将来を分析する。
私の研究所では、以上の代表的な2つの手法ではなく、主に「第3の道」を選んでいる。それは、マーケットで圧倒的な影響力を持つ欧米のファンド、投資銀行など「越境する投資主体たち」の動きと、その背後で連動して動く各国政府機関などの動きを全体としてフォローすることにより、いったいどこで仕掛けがなされているのかをにらむというやり方である。
私が外務省を自主退職し、この手法を唱え始めたころ、まだこのやり方を理解し、支持する向きは少なかった。だが、今や中国、ロシア、そしてアラブ諸国があり余る外貨準備高を用いて、国策として「国営ファンド」を世界中で暴れまわらせる時代である。国際情勢分析から、マネーの潮目を読み解かなければ、いずれの金融商品であれ、もはや次の一歩を考えることはできないというのが、このコラムの読者に共感いただける「現実」なのではないだろうか。
バングラデシュで人道支援に励む米海軍
世界中の経済・政治ニュースを選りすぐり、公式ブログでIISIAデイリー・ブリーフィング(無料)を出している私が、この観点で見ていて大変気になることがある。それは、南アジアの国・バングラデシュにおける米海軍の人道支援活動である。
「越境する投資主体」たちが動きマネーを投入する際、米国勢がよく使う手が米軍による圧倒的な軍事力をもって、対象となる地域、あるいはその周辺において地政学リスクを演出するというやり方だ。テロや暴動といった地政学リスクが発生すれば、金融商品は暴落し、買いたたく絶好のチャンスとなる。その場合、たいていは米軍が密かに、あるいは公然と行動しているのであって、逆にいえば米軍の動きを丹念に追うことが、こうした「潮目」を読みこなす1つの大きなヒントとなるのだ。実際、個人投資家を対象に、公開情報分析によって得た米軍の展開状況を定期的に報告する企業が米国などにはあるくらいである。
12月2日、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙は「米海軍がバングラデシュのサイクロン被害者に対し、支援物資や医療品を供与」と題する記事を掲載した。これによると、それまで北アフリカのソマリア沖で哨戒活動にあたっていた攻撃艦「キアサージ」号が、5日間かけて4800キロを航海し、11月下旬よりバングラデシュで人道支援活動を行っているのだという。
この11月、バングラデシュは日本でいう巨大台風に相当するサイクロンに見舞われた。すでに3,200名が死亡していると伝えられているが、ライフラインが切断されているため、災害復旧に手間取っている。ここに米国が積極的に人道支援をしているというわけだ。
「何だ、別に大した話ではないではないか。むしろ『良い話』ではないか」。そう思われるかもしれない。しかし、それでは「潮目」を読み違える危険性がある。なぜなら、人道支援とは表向き「人道」のためではあっても、実は情報収集活動のために行われることが多いからだ。白衣でやってくる人道支援要員たちを、「スパイだ!」と糾弾する余裕など、現地の住民にあるはずもない。だからこそ、まさにやりたい放題の情報収集を行うには最良の機会なのである。
ちなみにこの記事によれば、「キアサージ」号がいつまでバングラデシュに停泊しているかは「不明」なのだという。
反転する「潮目」の将来を占う
いきなりバングラデシュ支援に熱心となり、軍艦まで差し向ける米国。ちなみにこの手の人道支援活動は、米海軍にとって「訓練は受ける内容」ではあるが、「通常業務ではない」とこの記事にもはっきりとかいてある。それでは、南アジアのバングラデシュに、あえて大々的に乗り込む理由はどこにあるというのだろうか。
1月19日に東京、26日に大阪、27日には名古屋で開催する拙著の新刊記念講演会(無料)では、その辺りの事情も踏まえつつ、2008年のマーケットとそれをとりまく国内外の情勢見通しについて皆様にお話できればと思う。
ちなみにバングラデシュの隣は、インド、そしてミャンマーである。インドについては、最近、ポールソン財務長官をはじめ、米国の財界人たちが大挙しておしかけ、インド財界とのビジネス・トークをしてきたばかりである。ところが、国内で沸々と反米主義の機運が高まりつつもあり、これまで親米路線をとってきたシン首相の地位すら危なくなりつつある。
他方、ミャンマーといえば、つい先日も僧侶を中心としたデモ行動が発生し、耳目を集めたばかりである。仮にミャンマーに対する制裁ということになれば、その最大の取引国である中国の立場も危うい。かなり大がかりな「潮目」となる危険すらある。
南アジアは、とりわけインドというマーケットがこれまで大いに喧伝されてきた。しかし、2007年も暮れに向かう今、どうやら潮目は「反転」しつつあるようだ。白衣の裏側で熱心にバングラデシュ事情を学んでいるに違いない米海軍の兵士たちの眼差しの向こう側に、いったいどんな「潮目」が見えているのだろうか。
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
- ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト
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