投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
根拠なき「第3次世界大戦」を煽ったブッシュの狙い
世界各国のハシゴを外したブッシュ政権
去る12月3日、ワシントンから驚天動地のニュースが世界に向けて発せられた。イランに関する「国家情報評価(NIE)報告」が発表されたのである。この中で米国にある16の情報機関がイランによる核開発問題について分析し、「2003年に核兵器開発は中断されており、その後も少なくとも今年(2007年)半ばまで再開されている兆しはない」と断定した。
ブッシュ政権は、2005年に発表したNIE報告において、「イランは断固たる意思をもって核兵器開発に勤しんでいる」旨を述べていた。これをきっかけに、イランに対する制裁論議が活発となり、現在に至るまでつづいてきたのである。
つまり、今回のNIE報告を素直に読む限り、ブッシュ大統領が旗を振って盛んに煽りたててきた「イランによる核兵器開発問題」とは全く火急の問題ではなかったことになる。この秋、ブッシュ大統領は記者会見において、「第3次世界大戦を起こしたくなければ、イランによる核兵器開発を阻止する必要がある」とまで言い切っていた。
しかし、米国の情報機関筋によれば、今年8月の段階ですでにブッシュ大統領には今回のNIE報告にあるラインでのインテリジェンス分析結果が提示されていたのだという。それなのにブッシュ大統領はインテリジェンスのプロたちの言うことを無視し、「第3次世界大戦」などという物騒な言葉すら用いて、世界を揺さぶり続けたのである。このG.W.ブッシュという男は、いったい何がしたくて、世界各国のハシゴを外したのだろうか。
軍事利権に翻弄される日本に明日はあるのか?
世界中の経済・政治ニュースを選りすぐり、公式ブログでIISIAデイリー・ブリーフィング(無料)を出している私の目で、この観点より見ると、このNIE報告と並行して起きた出来事の中で非常に気になったことがある。それは、ここにきて急にミサイル産業の様子が活発に報道されるようになってきたということである。
そもそも、ブッシュ大統領はなぜ、盛んに北朝鮮やイランを「悪の枢軸」となじり、これらの国による「攻撃」に対する備えを整えるよう世界中を恫喝してきたのか。このナゾを解くカギは、平和ボケした日本人にはなかなか見えてこない、軍事利権の構図である。
実は外交の世界における「裏の常識」であり、北朝鮮、あるいはイランについて携わったことのある者なら誰もが知っていることが1つある。それは、これらの国々が米国に向けて「弾道ミサイル」を打ち込むと「仮定」するならば、いろいろと都合が良いということである。
すなわち、こういうことだ。米国の東海岸にはイランが、西海岸には北朝鮮が、それぞれ「弾道ミサイル」を打ち込むには適当な距離の場所にある。そこで、これらの国々がミサイル開発をしているとけん伝し、それに対する迎撃ミサイルシステム(BMD)を、これまた丁度良い位置にある国々に売り込むのである。それが、北朝鮮については日本、イランについてはポーランド、チェコといった東欧諸国ということになる。
しかし、実際に日本海に向けて打ち込んできた北朝鮮についてならまだしも、イランについて同じストーリーを展開するのにはかなり難がある。ところがブッシュ政権はそれでもなお、これをゴリ押ししようとし、東欧諸国の隣にある大国・ロシアから猛反発を食らったのである。
しかも、ロシアはイランにおける原子力開発を手伝ってきた国だ。おのずから、イラン問題をめぐって米ロ対立ということになる。それでもなお、ブッシュ政権が「イランの弾道ミサイル」を語り続けた背景には、極めて高価なこの迎撃ミサイル施設を売り込みたいという、米国の軍事産業たちからの強い圧力があったことはいうまでもない。
軍事利権に翻弄される日本に明日はあるのか?
1月19日に東京、26日に大阪、27日には名古屋で開催する拙著の新刊記念講演会(無料)では、その辺りの事情も踏まえつつ、2008年における世界マーケットとそれを取り巻く世界の見通しについてお話できればと思う。
18日、日本の海上自衛隊は米国以外の軍隊としては初めて、この迎撃ミサイルによる弾道ミサイルの撃墜に成功した。そしてこのことは世界中で大々的に伝えられたのである(同日付英国BBCなど)。
その一方で、NIE報告を出したはずの米国の情報機関たちは、17日にあらためてイランによる核開発についての分析を公表。その中で、イランによる弾道ミサイルの脅威に言及したのである(17日付米国VOA)。あまりにも出来すぎた展開だ。どうやら、一度抑え込まれたはずのミサイル産業によるロビイングが世界中で活発になっているのではないか。そううかがわせる展開というべきだろう。
原油価格高騰の一因は、中東情勢、とりわけイラン問題にある。ところがそれを煽りたてるブッシュ大統領の陰には、巨額のミサイル利権が見え隠れする。ブッシュにハシゴを外されるか、あるいは外される前に売り抜けることができるか。今ほど、日本の個人投資家に金融インテリジェンスが求められている時代は無いというべきだろう。
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- 筆者プロフィール
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
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