『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

ダヴォス会議で米中が“激突”する?

よみがえる「中国デカップリング論」

1月27日よりスイス・ダヴォスで恒例の「ダヴォス会議」が開催される。


今回は40回目ということで早くも様々な話題が飛び交っている。論点として私が今、最も注目しているのは、この場を使って米国と中国がどういった“大立ち回り”を演じるかだ。


「スイスの山奥で行われる会議は、米中両大国と一体どうして関係があるのか」そんな声が読者から聞こえてきそうだ。しかし、ここ数年のダヴォス会議における議論を見る限り、とりわけ中国側が大いなる警戒心を持って今回の会議に臨んでいることは間違いないのである。


事の発端は今から3年前の2007年に遡る。この年の8月上旬より突如として“発覚”したのが「サブプライム問題」だ。欧州から順番に株価が暴落し始めたのだが、その中で米国勢が猛然と叫び始めたのが、いわゆる「デカップリング論」であった。「サブプライム・ショックによっても無傷な大国がある。それは中国だ。これから欧米のマーケットは大幅に下落していき、経済は停滞する。ならばこれまで儲けてきたマネーをもって、中国は今こそ世界中を支援すべきではないのか」というのがその主旨だ。米系“越境する投資主体”たちは口々にそう叫び、一方では中国マーケットのバブルを煽りつつ、他方でその中国勢から米欧勢への資金の移転を促そうとした。


もちろん、中国勢としても黙ってはいられない。デカップリング、つまりは世界経済と中国勢が「切り離されている」などという主張を認めれば、世界貢献を名目に大量のマネーをむしり取られかねないからだ。そこで中国勢は何をしたのかというと、まずこの年の秋に、不動産マーケットで引き締めのため、対策を講じた。簡単にいうと、外資勢が入り込みにくくすることで、ホット・マネーの流入を食い止めようとしたのだ。もちろんその結果、中国の不動産マーケットは“暴落”する。これに支えられてきた中国株も“大暴落”した。


そしてその翌年(2008年)1月に行われたダヴォス会議の席上で、中国勢は声高に主張したのである。――「中国は世界経済とデカップリングなどされていない。それが証拠に、中国マーケットも暴落したではないか」中国からの代表団メンバーたちは口ぐちに会場中でそう叫び、諸外国の理解を求めたのだという。この勢いを前に「デカップリング論」は衰退。今では文字通り“死語”になった感がある。

今年もいよいよ「ダヴォス会議」が始まる

この様な視点からマーケットとそれを取り巻く国内外情勢を、東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、一つの気になる情報が飛び込んできた。今回のダヴォス会議に出席する各国政府代表団の陣容が明らかになったが、中国勢は副首相の派遣にとどまる見込みだというのである(1月21日付スイス「ノイエ・チューリッヒャー・ツァィトゥング」参照)。昨年(2009年)には、温家宝首相が派遣されたことを考えると、明らかにレヴェル・ダウンということになる。


今回、米国勢は確かに「デカップリング論」を中国との関係で叫び出してはいない。しかしその分、ある意味で高等戦術に出始めた感がある。というのも、来る2月末までに米中人権対話が開催される予定となっているが、正にそこで問題となるような「人権問題」が米国勢の手によって続々と指摘され始めているのである。


米系検索サイト「グーグル」に対する中国当局の規制を、厳しく批難し始めたのがその典型だ。米国勢に言わせればこれによる「知る権利」に対する制限は、これが“民主主義”の大前提であることから、「政治的自由」に対する制限だということになる。しかし、海外から共産党統治に反対する言論を大量に流し込まれては困るのが、今の中国勢だ。これは絶対に認められない。「そうであれば、他の局面=米国債の購入継続について譲歩しろ」と米国勢は言い出すことは間違いない。


上述のとおり、スイスの山奥にあるダヴォスで行われる「世界経済フォーラム」
においては、一昨年(2008年)、米中が文字通り“正面衝突”した感がある。
果たして今年はどうなるのか?目が離せない。

これから何が起こるのか?

この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その中で日本マーケットを取り囲む米国勢が密かに描き、着々と実現してきている戦略シナリオについて私は2月6日に東京で、7日に横浜でそれぞれ開催する「IISIAスクール」で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある向きは是非ともお集まりいただければ幸いである。


実は私の率いるIISIAの下に、昨年(2009年)初夏の段階から次の様な非公開情報が寄せられていた。――「マーケットとそれを取り巻く国内外情勢がいよいよ緊迫化するのは2010年2月になってから。しかも、その段階で前面に立つのはオバマ大統領ではない。ヒラリー・クリントン国務長官だ」。しかし、その後、ヒラリー・クリントン国務長官は明らかに“表舞台”からはむしろ姿を消し、地味な仕事に終始していた感が強い。ところが、ここに来て「インターネットの自由は、民主主義の維持・発展につながるものだ」と連呼し始めた。中国勢は、必死になって「グーグルに対する検閲は米中関係全体に影響を与えるべき論点ではない」と主張するが、米国勢は全く聞く耳を持たない。そこで中国勢は「米国でレジストリ―されている“イラン・サイバー軍”なる集団が中国系大手検索サイト“百度(Baidu)”をハッキングしている」と叫び出した。このように米中関係を巡る緊迫状態は収まるどころか、拡大しつつある。


ダヴォス会議、そして米中人権対話と続くこれからの“潮目”の中で、一体、誰が“勝者”として最後、歴史の前面に躍り出てくることになるのか。米国勢が仕掛けている「本当のシナリオ」を意識しながら、春まで緊張する日々が続くことになりそうだ。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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狙われた日華の金塊

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