投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
不況で『戦争』が引き起こされる危機
不況になると「戦争」が起こるのか?
「不況になると『戦争』が起こる」――しばしばそう耳にする。しかし、本当にそうなのだろうか?
戦争が「起こる」というのは語弊(ごへい)があるかもしれない。より精確さを求める方の中には「不況だからこそ、戦争が“起こされる”」という者たちもいる。不況、すなわちマーケットにおける供給が足りない状況だからこそ、需要を強制的に創出するために戦争を起こすというわけなのだ。つまりこの意
味で「戦争」とは“ペイ”するからこそ、「起こされる」ものだということとなる。
しかし、本当だろうか?この点について論究したのがポール・D・ポーストの名著「戦争の経済学(The Economics of War)」(山形浩生・訳 バジリコ・刊)である。ポーストの問いかけは明快だ。「歴史を通じて、戦争はお金のために戦われ、そしてお金は戦争が戦われるのを可能にしてきた」(同第13頁)ということは本当なのかという問いである。
これに対する答えもまた明快だ。
「戦争が経済的に有益なのは、以下の条件がそろったときだ」。(同第51頁)
1.その国が戦争前に低い経済成長で遊休リソースがたくさんあるとき
2.戦時中に巨額の政府支出が続くとき
3.自国が戦場にならず、期間が短く、節度を持った資金調達が行われている
とき
これらの条件が揃った時、戦争は“起こる”出来事ではなく、“起こすべき”出来事になるということとなる。なぜなら、繰り返しになるが、その方が経済的に有益だからである。
以上の「定式」に当てはめた時、現代はどのように見えてくるか。――2007年夏以来の金融メルトダウンの中、世界経済は低成長に喘(あえ)いでいる。総需要が著しく低減する中、遊休リソースは山の様にあふれている。客観的に見ると、少なくともこれだけの条件は整っているように見えなくもない。
再来した「1982年」という悪夢
こうした観点でマーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、一つの気になる情報が飛び込んできた。ゴードン・ブラウン首相が「アルゼンチンとの関係でフォークランド諸島を守るべく英国の備えは出来ている」と述べたというのである(18日付英国デイリー・メール)。日本の伝統的な大手メディアはほとんど報じていないが、実は英国勢は昨年(2009年)以来、アルゼンチン勢との間でフォークランド諸島(マルビナス諸島)周辺海域における油田開発を巡り激しく火花を散らし始めている。キルシュナー・アルゼンチン大統領は昨年(2009年)の段階から、「仮にアルゼンチンの主権が侵されるならば、断固とした措置を講ずる」と宣言してきていた経緯がある。そこに来て英国勢があからさまな油田開発を開始したのである。2月中旬の段階で既にアルゼンチン沖のフォークランド諸島に至るまでの海域を封鎖する姿勢すら、アルゼンチン勢は見せ始めている。
こうした展開を地球の裏側から発信される公開情報媒体で見ながら、私の脳裏にふと浮かんだ事がある。1982年に両国の間で発生した「フォークランド紛争」だ。短い期間ではあったが、先進国同士の容赦ない殺戮(さつりく)が繰り広げられ、連日報道される写真を見ては、その凄惨な光景に耐えきれなかった記憶がある。「あの光景が再び繰り広げられるのかもしれない」――そう思った私は戦慄(せんりつ)を覚えた。
デフォルト・ドミノ」がもたらす戦争という“潮目”
この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その中で日本マーケットを取り囲む米国勢が密かに描き着々と実現してきている戦略シナリオについて、私は、3月7日にさいたまで開催する「IISIAスタート・セミナー」で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある方は是非ともお集まりいただければ幸いである。
1982年という“あの時”と同じく、英国勢とアルゼンチン勢には「戦争」を起こす理由がある。それは、冷め止まぬ金融メルトダウンの中で、両国勢は共にデフォルト(国家債務不履行)の危機に陥りつつあることだ。アルゼンチン勢に至っては2001年に一度、「デフォルト宣言」を公にしたことすらある。その後、2005年をめどに債務は一旦整理されたものの、直後より再び状況は悪化。現在では中央銀行総裁を罷免(ひめん)し、政府自身が全てをハンドルせねばならないほど、アルゼンチン勢は追い詰められてしまっている。
一方、英国勢とて状況は同じだ。今年(2010年)1月に、財政赤字が43億ポンドに達していることが判明。「歳入」という側面から見ると、毎年1月は英国政府にとって最も“かき入れ時”であるにもかかわらず、この大赤字であるということは、今後どのような展開になるかはもはや明らかなのである。しかも来る5月6日には下院総選挙を控えている。ブラウン政権にとってみれば、文字通りの「天佑(てんゆう)」を待つしか状況を打開する手段はない。
あとは双方がポーストの言う上述の定式に従って、あり得べき戦争が“ペイ”するか、あるいはしないかを判断するだけだ。仮に一度戦争ともなれば、もはやその行く先は誰も予測の出来ないものとなる。多くの人命が失われ、多くの未来が失われる。“越境する投資主体”たちが巻き起こす金融メルトダウンの度に、私たち=人類は一体いつまでこうした非道なシステムによる「最終解決」に頼ろうとするのだろうか。――今こそ、本当の意味での「システムの大転換」が求められている。
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- 筆者プロフィール
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
- ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト
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