投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
「日本デフレ論」は本当に正しいのか?
日本におけるお茶の間“デフレ”論議という愚行
金融メルトダウンが始まってからというもの、日本の大手メディアを舞台にいわゆる「お茶の間経済評論家」たちが繰り返して止まない議論が一つある。それは「日本デフレ論」だ。デフレだからこそ、日銀はもっとマネーを刷ってマーケットにばらまくべきなのに(=量的緩和)、それをしないのは一体何事かというわけである。経済関連の「資格」をもっていたり、あるいは経営コンサルタントOBだったりはするだろうが、およそ世界の“潮目”を知っていそうもない「お茶の間経済評論家」たちが続々と登場しては、同じ議論を繰り返す。そして言うのだ。――「日本銀行が動かないというのであれば、政府が紙幣を発行すれば良い」。
しかし私から言わせれば、これこそ正に「天下の暴論」、愚行中の愚行だ。確かに彼らは、もっともらしい「議論」を展開する。だが、そこには肝心の論点が抜け落ちてしまっている。「政府紙幣であれ、中央銀行の紙幣であれ、何かが担保となっているからこそ、その通用力が確保される」という点だ。特に後者については、財務省が発行する国債が担保となって中央銀行が発行している。そうである以上、マネー(通貨)を刷り増すということは、それだけ財務省(政府)が大量の国債を刷り増すということを意味しているのである。
そしてその結果、どうなるのか。――このことを端的に示しているのが、今や世界中で大騒ぎとなっている、ギリシア勢を巡る“デフォルト(国家債務不履行)”騒動だ。要するに景気が悪いからといって国債を刷りまくり、それを担保にマネーを増やしたからこそ、今の今になって支払えないという危機的な状況に陥っているのである。しかも、もっと厄介なことがある。それは余りにもマネーをバラマキすぎてしまった結果、このままではインフレが不可避だということだ。インフレを抑えるには最終的に金利を引き上げるしかない。しかし、金利を引き上げれば、おのずと国債の金利負担も増えてしまい、ますます“デフォルト”へ突き進むこととなる。「あちらを立てればこちらが立たず」、まさに量的緩和をした米欧勢が陥っているジレンマがこうした状況なのだ。
ところが日本勢は今のところこうした状況には陥っていない。なぜなら、お茶の間評論家たちのメディアを通じた怒号にもかかわらず、莫大な「量的緩和」には踏み切らなかったからだ。目先の“デフレ”の本質を見誤ったのは誰なのか、自然にお分かりではなかろうか。
「更なるインフレを!」と叫ぶIMF?
こうした観点でマーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、一つの気になる情報が飛び込んできた。国際通貨基金(IMF)が「これから世界で重要なのはインフレを誘導することだ」と叫び始めたというのである。これに対して欧州勢の中では、とりわけドイツ勢が強烈に反発。「天下の暴論だ」と大いに物議を醸す展開となっている(2月24日付ドイツ・フランクフルター・アルゲマイネ・ツァィトゥング参照)。
問題となっているIMFのワーキング・ペーパー「マクロ経済政策を再考する(Rethinking acroeconomic Policy)」(2月12日発表)は、仔細(しさい)に読むと必ずしもインフレ誘導だけを求める内容ではない。しかし、米国勢が早々と公定歩合の引き上げに踏み切った中、ギリシア勢の“デフォルト(国家債務不履行)”騒動があるため、欧州勢はなかなか「金利引き上げ」に手をつけられない。さらにインフレへ誘導するために金利政策まで手を縛られるのは、我慢がならないという言い分は、至極(しごく)うなずけるのだ。ちなみに昨年(2009年)春の東欧勢の債務危機においては、最終的にEU、EBRD(欧州復興開発銀行)とあわせ、IMFも支援スキームに入ることができ、「見せ場」があった。ところが今回のギリシア問題については、原則として支援スキームには「財政支援」という形での参画が拒否された経緯がある。これもまた、米欧勢の中における“角逐(かくちく)”が続いている重大な証拠ということになるだろう。いずれにせよ、これからデフォルト国家については、ハイパーインフレーションすら考えられるというのに、「インフレ誘導を」と叫ぶ主張は全く理解不能と言わざるを得ない。
これから起きる本当の“潮目”を知る
この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その中で日本マーケットを取り囲む米国勢が密かに描き、着々と実現してきている戦略シナリオについて私は、3月26日・27日・28日に神戸・大阪・名古屋でそれぞれ開催する「IISIAスクール」で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある方は是非ともお集まりいただければ幸いである。
先ほどは「理解不能」と書いたが、IMFの議論に全く理がないというわけではない。そのように理解するためには、インフレ誘導を行うタイム・フレームワークをどこまで取るかがカギを握ってくるように思う。
なぜなら、これから生じるのは、米欧勢の「デフォルト・ドミノ」とでもいうべき展開だからだ。時にそれは、強烈なハイパーインフレーションを伴うものである危険性が高い。だが、同時にその後に生じるのは、強烈かつ長期にわたる不況期の到来なのだ。そこでいよいよ支配的となるのがデフレである。「その時」に備えて、今から中央銀行は「インフレ退治」ではなく「インフレ誘導」の技術を磨いておくべきだという議論は、ややあっての将来について語る場合にはあり得べきなのである。
ただし、いずれにせよこうした議論は日本の「お茶の間経済評論家」たちが叫んでいる近視眼的な議論とは質もレベルも全く違う。それなのにこうした議論の腑(ふ)分けがなされることなく、そのまま流布(るふ)されてしまうのが、私たち=日本人による社会の悲しい性(さが)なのか。それとも米欧系“越境する投資主体”による誘導なのか。その見極めこそ、今、最も必要なことなのかもしれない。
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- 筆者プロフィール
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
- ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト
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