『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

円キャリー・トレードが消滅する?

ギリシア勢が喧伝する金融規制強化

「高金利国の通貨は積極的に買われる。だからその通貨の価値は、他の通貨に比べて上昇していく」。――私たちは、大手メディアからそのように教え込まれている。しかし、いわゆる「失われた15年」以降、日本(円)を巡っては、この原理原則からおよそ外れる事態がたびたび発生してきた。極超低金利で抑えられている日本マーケットで、日本円を買い漁る“越境する投資主体”たちが続出。その結果、むしろ低金利国の通貨(=日本円)が、高金利国の通貨(=米ドル)より高いという現象が発生してきたのだ。いわゆる“円キャリー・トレード”だ。


華々しく行われた円キャリー・トレードは、「金利を下げても円高のため“輸出不振”を招き、景気上昇を抑え込む」という悪循環を生んできたとされる。そのため、ある時期から非難の声が高まったことも事実だ。しかしそうこうする間に、金融メルトダウンが2007年夏より発生。そもそも高金利であった米国勢を筆頭に続々と金利を下げ始めたため、旨みが無くなり、“キャリー・トレード”という単語自体がそもそもあまり聞かれなくなったのである。


最近のトレンドはというと、むしろ“素のまま”の「空売り」というべきであろう。とりわけ「デフォルト(国家債務不履行)」懸念がギリシア勢を巡って激しく燃え盛った昨年(2009年)末以降、ターゲットにされたのが欧州の共通通貨・ユーロだ。徹底して売り込まれ、それまで対ドル・レートで1ユーロ=1.5ドルだったものが、1.35ドルまで下落した。


実はこのようなユーロ安は、欧州勢からすると対米貿易を促進するという意味でプラスの効果を持つ。しかし1999年に導入されて、ようやく10年が経ったばかりというユーロの制度的崩壊を招きかねない事態であるだけに、元凶となったギリシア勢に対して激しい非難の声が上がったことも事実である。


だが、当のギリシア勢からすれば、「国家的粉飾決算」といった糾弾(きゅうだん)の声は甘んじて受けざるを得ないにしても、ユーロ暴落の責任まで取らされてしまうのはどうかと考えたのだろう。3月9日に行われた米・ギリシア首脳会談においてオバマ大統領に対し、「“越境する投資主体”がやりたい放題をしないよう、しっかりと金融規制強化をしてほしい」と要請。ちょうど、連邦議会において金融規制改革法案を審議中の米国における状況を踏まえ、オバマ大統領はこれにふたつ返事で応じた経緯がある。これにより、事態は沈静化しつつあるかのように見える。


「キャリー・トレード禁止」に走る欧州勢

こうした観点でマーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、一つの気になる情報が飛び込んできた。オーストリア勢がキャリー・トレードを「禁止」するための政令を、3月中に発効させるというのである。オーストリア勢の中では、相対的に低金利な国である日本やスイスで、それぞれ日本円とスイス・フランを調達し、これをオーストリア国内での事業活動で使用する例が後を絶たないのだという。とりわけ盛んなのがゼネコン・セクターであるのだが、これは正にキャリー・トレードであり、規制するというのである(2日付ドイツ「フィナンシャル・タイムズ」)。


今でこそ収まった感があるが、オーストリア勢は昨年(2009年)春、東欧諸国が「デフォルト(国家債務不履行)」懸念に襲われかけた際、最も狙われた経緯がある。ギリシア勢を巡って、炎がその時よりも激しく燃え盛り始めたのを見て、大いに危惧(きぐ)しているというのが本音だろう。事実、オーストリア勢は今後、より国家として迅速に動けるよう、中央銀行の発行した株式について、民間保有分を政府が買い上げ、事実上「国有化」したのである。その警戒感たるや、目を見張るべきものがある。


しかし、ここでどうしても気になる点がある。――「禁止」することは簡単だ。そしてそれによって確かにキャリー・トレードは徐々に消滅することにはなるだろう。だが、金利差を逆手にとって、迅速にマネーの“潮目”をつくっていく“越境する投資主体”たちの動きが、「悪」だと一概に言うのもいかがなものか。むしろマーケットにおけるそうした自然な発想、行動が歪められる結果、あたかも「血栓」が出来たかのように世界的な資金循環が滞り始めるということは本当にないのだろうか。そしてその結果、世界経済全体が細かく分断・分割されていき、ひいては長期停滞へと誘われていくという危険性は本当にないのだろうか。


これから起きる本当の“潮目”を知る

この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その中で欧州勢が密かに描き、着々と実現してきている戦略シナリオについて私は3月27日・28日に大阪・名古屋でそれぞれ開催する「IISIAベーシック・セミナー」で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある方は是非ともお集まりいただければ幸いである。


私は金融メルトダウンの“最終局面”の向こう側において、欧州勢はとりわけ2つの絵柄を念頭に置いている可能性が高いと考えている。昨年(2009年)4月に予測分析シナリオ(愛称“ネオ・ヘイヴン”)という形で発表させてもらったのだが、その概要をかいつまんで書くと、まず一方で、いわゆる「地域統合」、すなわち国民国家より大きな統合体への収斂(しゅうれん)が進むという可能性が一つにはある。しかしそれだけではなく、国民国家自体がもはや統一体としての意味を持たなくなり、マネーの“潮目”が頻繁には起こらないようになる中、「長期停滞」を旗印にむしろ国民国家より小さな単位へ「地域分割」される可能性もあるのだ。


オバマ大統領率いる米国勢、あるいはオーストリア勢に見られる「金融規制強化」は、結果としてマネーの“潮目”をせき止め、上記のとおり「血栓」をマーケットに創りかねない行為だ。そしてその先にあるのは詰まったマネー・フローが分断され、その分断された単位という意味でのそこそこの規模でのマーケットへの収斂、すなわち「地域分割」が見えてくる気がしてならない。


円キャリー・トレードの消滅は、私たち=日本勢にとって低金利なのに円高という不自由からの脱却をもたらす光明なのかもしれない。しかし、そこが「新しい中世」の始まりであるかもしれないことを、今こそ認識すべき時なのだ。


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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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狙われた日華の金塊

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