投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
石油撤退から読み解く英国勢の“思惑”と近未来
「やっぱり日本株」と騒ぎ始めた欧州勢
このコラムの賢明な読者の皆さんは既にお気づきかと思うが、昨年(2009年)11月頃より、欧州勢が叫ぶ日本勢に対する「評価」が、その時々によって大いなる矛盾をはらむものになっている。すなわち、一方で欧州勢は「日本こそ、真っ先にデフォルト(国家債務不履行)になる国だ」と“喧伝(けんでん)”して憚(はばか)らない。対GDP比で180パーセント以上もの財政赤字を抱えている日本国内では貯蓄性向が落ち始めており、政府がどれだけ笛吹けども国債を買ってくれるはずの国内金融機関が動かない。もはやそのための資金(もとはと言えば日本勢の「貯蓄」)を持たないため、“デフォルト(国家債務不履行)”しかないというのである。だが、そう言いつつも欧州勢はここ最近、「やっぱり日本株だ」とも叫び始めているのである。この前兆は、実は昨年(2009年)末から見られた。とりわけスイス勢を中心に用心深い口調で語るには、「普通に考えた場合、日本株が2010年の花形になるとは考えられない。しかし、“サプライズ・シナリオ”としては十分にあり得る」とのことである。そして2010年も3月後半を迎えた今、欧州勢は「とにもかくにも日本株だ」と“喧伝”し始めている。
こうした展開を、やや呆れてご覧になられている読者の方々も多いのではないかと思う。一方では「破たんする」と言い、他方では「これからベストなパフォーマンスをあげるマーケットだ」と言って憚らない欧州勢は、“越境する投資主体”に典型的な無節操さを隠そうとはしない。そして、そうしたシュプレヒコールが聞こえてくるのと同時に、日本マーケットは2月末より続伸に続伸を重ね始めている。上記のように、昨年(2009年)末から聞こえた欧州勢の囁きを的確にとらえてきた方々にとっては、“想定内”のことかもしれない。だが、ここのところにきて為替マーケットにだけ関心を寄せてきた一部の読者の方々にとっては、やや驚きの展開かもしれない。
不気味に縮小・撤退をし始めた英国勢
こうした観点でマーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、一つの気になる情報が飛び込んできた。
英系“越境する事業主体”の雄である石油メジャーの一つ、ロイヤル・ダッチ・シェル社が、ここに来て急激かつ大規模な事業リストラクチャリングを実施することを発表したというのである。既に公表してきた6,000人に加え、1,000人を解雇するのと同時に、全世界でいくつもの製油所を閉鎖、生産量も15パーセントほどダウンさせるのだという(3月16日付英国・テレグラフ参照)。
「金融メルトダウンの真っ最中なのだから当然だろう」と思われるかもしれない。しかし、米欧勢は今、一昨年(2008年)秋より続けてきた大規模な量的緩和の“後遺症”を回避すべく、いわゆる「出口戦略」に熱心に取り組んで来ているのである。そのため、「景気回復は着実に進んでいる」と口ぐちに叫ばれているのが現状であり、正に“ハーメルンの笛吹き男”よろしく、徐々に設備投資を増やす企業が出始めているのである。日本勢の中でも3月15日に発表となった「内閣府月例経済報告」が、“設備投資は下げ止まりつつある”としたのはそのせいだ。ところが英国勢はというと、実は真逆であり、むしろ撤退モードを加速させているというわけなのである。
もう一つ気になることがある。――それは、ロイヤル・ダッチ・シェル社が一躍有名となったのが、何といっても1970年代に「シナリオ・プランニング」を世に広めたことによるという歴史的事実だ。当時、誰もそうは語っていなかったにもかかわらず、「これからは結託した産油国(OPEC)の力が強くなり、石油供給量が激減、その結果、原油価格の高騰が始まる」とのシナリオを立てた同社は相応の経営戦略を準備。第一次石油ショックの不意打ちで石油メジャーたちが低落していく中、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で乗り切り、不動の地位を得たというのである。
もちろんこうした「輝くべき神話」の背景としては、英国勢(およびオランダ勢)を巡る「真実」をしっかりと踏まえておくべきであろう。これら両国は近現代資本主義のルールをつくった国々であり、その隅々まで知り尽くしている。それのみならず、英国勢は世界に冠たる情報工作機関「MI6」を抱えている。こうしたことを勘案(かんあん)すれば、同社が決してイノセントに絵空事としての「シナリオ」を描いたのではなく、その後、事実が追随したのも“そうなるようにあらかじめ考えられていた”可能性のあることをおさえておくべきなのかもしれないのである。
そして、同じことを“今”と“これから”に当てはめてみる。すると、そこには世界経済の近未来を巡って、「景気回復」どころか、「より小さなマーケットへ適合した者が勝つ」という新しいルールが浮かび上がって来るのだ。
これから起きる本当の“潮目”を知る
この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その中で英国勢などの欧州勢が密かに描き、着々と実現してきている戦略シナリオについて私は4月3日・4日に東京・横浜でそれぞれ開催する「IISIAスクール」で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある方は是非ともお集まりいただければ幸いである。
前段で述べた様な大きな意味での「ルール変更」もさることながら、もっと近未来という意味で言えば、石油メジャーの雄があえて供給量を減らした場合であっても、彼らにとって最も収益の上がる状況というのをあらかじめ想定しておくべきなのかもしれない。金融メルトダウンがいよいよ“最終局面”を迎える中、「景気回復」には程遠く、単純な意味での需要増は全く見込めない。しかし、それでも現代社会が曲がりなりにも回っていくために石油は必要不可欠なのであって、需要が全く無くなるということがあり得ないことを抑えておく必要がある。
なぜならば、何らかの理由で石油の供給量が一時的であれ大幅に減少することになり、しかもその背景において石油メジャーたちによる供給量の計画的な削減があったとすれば、原油価格の暴騰は免れないからである。そして今、いわゆる「イランによる核兵器開発問題」、さらには「イスラエルによる東エルサレム入植問題」が沸点を迎えつつある。仮に中東におけるこうした地政学リスクが“炸裂”した場合、上記の条件はものの見事に揃うことになる。
確かに「歴史は単純な形で繰り返されることはない」のも事実だ。しかし、あらゆる形でリスクを未然に防ぐことがこれからの“潮目”を乗り切っていくためには、最も必要な能力であることをここであらためて確認しておくべきなのだとも思う。さもなければ、あらかじめ示した“シナリオ”のとおりの展開で、再び「独り勝ち」する英国勢の不敵な笑いを、私たち=日本人は40年前のあの時のように再び許すことになりかねないからである。油断してはならない。
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- 筆者プロフィール
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
- ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト
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