投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。
金売却に殺到する東南アジア勢!?
一段落する“デフォルト・ドミノ”?
「これからは、1930年代後半に見られたようなダラダラとした下り坂を下るような形で、株式マーケットは崩落局面に入っていく。最終的には平均株価ベースで半値にまでなるかもしれない」――世界を股にかけて大活躍するマーケットの“猛者”が口走ったそんな言葉を私が耳にしたのは、4月末のことだった。その直後、世界はギリシア・ショックによる大規模な崩落局面に突入。その後、持ち直したのも束の間、“ダラダラとした下り坂”を下るような形での崩落局面が続く展開となった。
もっとも、だからといって「世界はもう終わりだ!」と叫ぶのには早すぎるだろう。なぜならば、マーケットとそれを取り巻く国内外情勢に渦巻く“潮目”とその予兆を見る限り、明らかに5月19日前後を境にくっきりと世界は変わっているからである。
その最たるものが、欧州勢の動向だ。この日、渦中のギリシア勢は、自国国債の大規模な償還期日に直面。欧州勢と国際通貨基金(IMF)から緊急融資を受けていたため、すぐさま“デフォルト(国家債務不履行)”に陥るということはなかったものの、かなりの緊張が世界中に走ったことも事実なのであった。
それと前後して、ドイツ勢が打ち出したのが「空売り規制」だ。欧州各国の国債とドイツ系主要銀行10行の株式を巡って、空売りを禁止するという措置に一瞬だけマーケットでは歓迎ムードが走った。しかし、「空売り規制」をしたにもかかわらず、崩落に入った“潮目”が止まらなくなった場合には目も当てられないことになるのである。そのことをあらためて米系“越境する投資主体”たちがここぞとばかりに“喧伝(けんでん)”した。そして欧州マーケットは一層の崩落局面へと突入するに至る。
もっとも、このタイミングで私が目をつけていたのは、株式マーケットというよりも商品マーケットであった。なぜならば、“デフォルト(国家債務不履行)”危機に直面した欧州勢は、自らの中央銀行を支えるべく資産として抱えている金(ゴールド)の価格が上昇する局面に多大な関心を持つに違いないと思ったからだ。そしてそのとおりの状況が到来したのである。(前回、5月19日掲載の本欄コラム「“金高騰”を叫ぶ英国勢の真意」、前々回の「米国債デフォルトが仕掛ける本当の計画」参照)。事実、世界中で“よりマシな金融商品”として、現物の金(ゴールド)の価格が高騰。一時は、1トロイオンスあたり1,200ドルを超える展開すら見られたのである。
しかし、「上げは下げのため、下げは上げのため」とはよく言ったものである。緊急融資によるものとはいえ、ギリシア勢を巡る“デフォルト(国家債務不履行)”危機がまずは小康状態に入ってきた。むしろ「反転」の“潮目”が見えてきたといってもおかしくない状況が到来しているのである。――読者の皆さんはそのことにお気づきだろうか?
金売却に殺到するシンガポール人たち
こうした観点でマーケットとそれを取り巻く国内外情勢を東京・国立市にある我が研究所でウォッチしていると、一つの気になる情報が飛び込んできた。
シンガポールの街角で、一般庶民が金(ゴールド)の買取店に殺到。中には20年間も大切にしてきた金(ゴールド)を手放す人すら大勢いるのだという(5月19日付シンガポール「ストレイツ・タイムズ」参照)。率直にいってこれは実に「怪しい」、そう正に「怪しい」出来事なのである。
この報道によれば、「金価格が高騰したこと」がシンガポールにおいて一般庶民が一斉に金売却に走る理由なのだという。しかし、よくよく考えてみれば「まだまだ高騰する」かもしれないのである。それなのになぜ、とりわけ金(ゴールド)を好むことで知られる華僑・華人勢力の多いシンガポール勢が金“売却”に今の段階で走るのか。にわかには理解しにくいのである。
実はこの話には伏線がある。――欧州勢、とりわけスイス系“越境する投資主体”たちがこれと前後して次のような「分析」をあえて“喧伝”し始めていたのである。「年末から年始にかけて米国勢は必ずや利上げを行う。そうなった場合、金利の付されていない金融商品の典型である金(ゴールド・現物)は大いに売られるはずだ」。それではその代わりに一体何が今後、「崩落」ならぬ「高騰」を迎えるのかといえば、株式ではなく、むしろ「原油」なのだという。
もちろん、私はこの場で特定の金融商品について「占い」をしようというのではない。しかし、一つだけここで読者の皆さんに気づいて頂きたいことがあるのだ。それは、確実に5月19日前後をもって、マネーの“潮目”が発生したということである。そしてそれはまた、その直後に下落した金(ゴールド)を含めた「商品(コモディティー)」がどうやら主役になっていそうだということなのだ。
次なる“潮目”の焦点は「日本」なのか?
この点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、その中で欧州勢が密かに描き、着々と実現してきている戦略シナリオについて私は5月29日(土)に大阪、30日(日)に名古屋でそれぞれ開催する「新刊記念講演会」(無料)で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある方は是非ともお集まりいただければ幸いである。
上記のとおり、5月19日前後が世界の“潮目”の発生する、いわば“潮目”ターゲット・デートであったことは間違いない。ただし、その結果“越境する投資主体”たちにより崩落、高騰のいずれかという意味で「動かされた」のが、商品(コモディティー)だけであったのか、というと疑問なしとはしないのである。なぜならば、日本マーケットについては、内需促進を進める中国勢の動きに裨益(ひえき)する形で経済成長を享受。5月20日に行われた内閣府の発表によれば、1年を通して見ると実に5パーセント近くも実質GDP(国内総生産)成長率が伸びたというのである。確かに一般市民生活という観点からは、「肌感覚」という意味での景気回復には程遠い。しかし、少なくとも数字の上だけで見れば、かつて満州(現在の中国東北部)を独占的なマーケットとして、世界に先駆けての景気浮揚を図った1930年代の当時とほぼ同じく、日本勢は世界に先駆けて上昇し始めたかのように見えなくもないのである。
果たして日本勢は米欧勢に巻き込まれる形で「崩落」局面に突っ込み、冒頭述べたような「ダラダラとした下り坂」を転げ落ちていってしまうのか。はたまた、“よりマシなマーケット”として最後に残されることとなるのか。――日本勢、そして日本マーケットにとって勝負はまだこれからだ。
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- 筆者プロフィール
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- 名前:原田武夫(はらだ たけお)
- 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
- 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
- ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト
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