オバマ大統領誕生で米経済、そして日本経済はどうなる?

現地時間1月20日(日本時間21日未明)、いよいよバラク・オバマ大統領が誕生します。就任前の支持率が8割超という驚異的な数字がある一方で、「イリュージョン(幻想)ではないか」との声も聞かれます。

果たしてオバマ大統領は“本物”なのか?新大統領誕生に際しての注目点、特に米経済、日本経済への影響をどう考えればよいのかについて考えてみたいと思います。

オバマ政権下での投資テーマは「雇用」「環境」

私が最も注目しているのは、オバマ氏が「私の最初の仕事は雇用増と経済再生」と語っている点です。目標に掲げる300万〜400万人の雇用創出・維持の実現のために、総額8,250億ドル(約74兆円)規模の景気対策を打つ準備が進められています。

その詳細は以下の通りです。

≪規模≫
・2年間で8,250億ドル(うち2,750億ドルは減税)
≪目標≫
・300万〜400万人の雇用創出・維持、米経済の再生
≪主な歳出分野≫
・省エネや再生可能エネルギーへの投資(320億ドル)
・高速道路の建設などインフラ整備(900億ドル)
・失業給付と職業訓練の拡充(430億ドル)
・州政府への財政支援(790億ドル)

また、鳴り物入りの「グリーン・ニューディール」にも注目が集まっています。今後10年で環境分野に1,500億ドルを投じ、500万人の雇用を創出するとうたっ
ています。

オバマ氏は、「再生可能エネルギーは絵空事ではない」と力説。「いま行動すれば、数百万人の雇用と新産業を生み出すことができる」と訴えていることから、オバマ政権下では、環境が大きな投資テーマになっていくことでしょう。

統計開始以来初、前年割れに陥った米消費

しかし、株価はというと、期待とは裏腹に下落気味だといえます。既に昨年の安値をうかがう展開となっているのです。“オバマ効果”のピークは「オバマ次期大統領決定の日」でした。

ニューヨークダウの推移
(出所)Google Financeより

オバマ氏もそのことを十分承知しているようで、就任式の舞台である首都ワシントンに向かう列車に乗り込む際に、独立宣言の地フィラデルフィアで演説しましたが、その中で「すぐに解決できない困難があると覚悟している」と述べていました。

実際、米国を取り巻く環境は安穏としていられるものではありません。

例えば消費。米商務省が14日に発表した昨年12月の小売売上高(季節調整済み)は、3,432億ドル(約30兆5,000億円)となり、前月比2.7%の減少でした。 08年通年では、前年比0.1%減の4兆4,783億ドル(約398兆6,000億円)で、現行統計が始まった1992年以来、初めて前年を下回ってしまったのです。商務省によると、1968年に始まった古い統計方式ベースでも初の減少といいます。

また、全米小売業協会(NRF)が発表した昨年の年末商戦(11〜12月)の売上高(自動車、ガソリン、外食を除く)は、前年同期比2.8%減の4,475億ドル(約39兆8,800億円)で、こちらも95年の統計開始以来、初めて前年を割り込みました。

国内総生産(GDP)の約7割を占める個人消費の失速で、08年10−12月の米国のGDPは大幅なマイナス成長に陥る公算が大きくなっています。

転換を迫られた米経済、日本への影響は?

ではこうした小売業の苦戦、消費の低迷に回復の兆しはあるのか?世界最大の小売業である米ウォルマート・ストアーズのリー・スコット最高経営責任者(CEO)は12日、ニューヨークでの講演で、以下のような厳しい認識を示しています。

「米国民の消費パターンは根底から変わってしまった。景気が回復しても、簡単には元には戻らないのではないか」

「ぎりぎりのせっぱ詰まった生活にさらされ、若い人たちが外食や映画、買い物を断念するようになっている」

「かつてのように借金を増やし、消費を謳歌する生活にすぐ戻るとは思えない」
つまり、これまで米経済の成長を支えてきた米国ならではの「過剰消費」が節目を迎えているというのです。

これは日本経済にとっても重大な意味を持ちます。北米の消費に支えられ、利益を出してきた自動車や家電などの苦しい状況が続く、ということなのです。

さらに財政赤字の拡大も心配なところです。米議会予算局は7日、09会計年度(08年10月〜09年9月)の財政赤字が、GDP比で8.3%となり、過去最悪を更新するとの見通しを発表しました。ここまでの赤字拡大は、オバマ氏が準備中の景気対策にも織り込まれておらず、また実際にはさらに拡大し、10%を超えてくるとみられています。

米国の財政赤字が拡大すると円高が進むことが予想されます。

もちろん、円高は日本にとって、自国通貨が強くなるという喜ばしい現象といえます。ほとんどの国が自国通貨が弱くなることを懸念していることを考えれば、日本は優位な立場にあるともいえます。

しかし一方で、日本企業のメインプレイヤーの多くは輸出関連企業です。円高は彼らにとってマイナス要因ともなります。特に、日本の基幹産業である自動車、家電などは、先ほどの北米消費の減退に円高が追い討ちをかける形となり、ますます苦しい立場におかれることとなるでしょう。

オバマ氏の大統領就任に、米国民だけでなく、世界中の多くの人が興奮しています。オバマ氏は世界の期待を一身に背負っているといえるでしょう。しかし、「期待先行型」の部分も否定できません。

1人のリーダーによって世の中が変わる例は枚挙に暇がありません。しかし、変化(チェンジ)には時間がかかることも忘れてはいけません。特に株式投資においては、期待感に踊るだけではなく、冷静になることが必要です。

私たち個人投資家は、オバマ氏が何を語り、何を実行するのかを、注意深く見ていくかなければいけません。

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木下晃伸(きのしたてるのぶ)

経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。

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マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。

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