『国際政治経済塾』

投資のチャンスを確実にモノにするには、世界にアンテナを張り巡らし、お金の流れを機敏に察知する必要があります。元外交官の経験を活かし、一見違う視点で、世界の政治とお金の関係を、リアルタイムで説明します。

オバマ氏の“アキレス腱”イラン問題が再燃?

風雲急を告げ始めたイラン情勢

イラン情勢が風雲急を告げ始めている。このコラムではこれまで繰り返し、中東情勢、特にイラン情勢を取り上げ、地政学リスクという観点から、個人投資家が見るべきポイントを説明してきた。その際の基本的な“構図”を繰り返すならば次のとおりとなる。


(1)イスラエルをバックとした、いわゆるネオコン勢力以外の米国エスタブリッシュメント集団が目指しているのは、中東における原子力ビジネスの展開である。そのためには中東和平が必要であり、したがってブッシュ政権は昨年夏より盛んに「中東和平」に向けた努力を行ってきた。


(2)その成果となったのが、昨年11月27日に米メリーランド州・アナポリスで開催された中東和平会議である。「いよいよ中東和平の成立か」と思われたため、原油価格は大幅に調整、下落した。もっとも、この会議に欠席したのがイラン。そのため、イラン問題の解決に向けた道筋が見えるかどうかが、最終的に原油価格の暴落が生じるかと、大きく連動し始めている。


(3)次回の中東和平会議はモスクワで行われる予定である。したがって、ロシアによる外交努力をじっくりと見据えつつ、この会議の開催がアナウンスされた暁に原油価格が大暴落する可能性のあることを踏まえておくべきだ。


「イラン発の第3次世界大戦が起きる」などと大騒ぎしていた日本の某“インテリジェンス専門家”がいたが、結果としてそうした世界大戦は起きなかったのである。しかも、昨年12月にブッシュ政権は「2003年以降、イランが核兵器開発を行っているという証拠はない」とまで断言したのである。大幅な路線変更に、金融インテリジェンス界では大いなる動揺が走った。


しかしその後、なぜか再びイラン情勢をめぐって緊張が走り始めたのである。そしてついにはイスラエル空軍が6月中旬に「イランからの攻撃に備えるため」という理由で、大規模な演習まで実施した。日本の大手メディアは大きく取り上げないが、実は今、中東ではイランを巡って巨大な地政学リスクが首をもたげ始めているのである。

右手に「バラの花束」、左手に「ナイフ」のブッシュ政権

そのような中、6月29日に米国で大変気になるリーク報道があり、これまた金融インテリジェンス界の話題をさらっている。それは、米国の富裕な若手ビジネスマンたちをターゲットにした雑誌『ザ・ニューヨーカー』に掲載された「戦場を用意する(Preparing the Battlefield)」と題する記事である(2008年7月7日号)。


日本の大手メディアでは、これまでのところ全く取り上げられていないが、このリーク報道のエッセンスをまとめると、


昨年(07年)末、ブッシュ大統領は連邦議会の幹部たちに対し、対イラン工作活動用に総額約4億ドルの支出を行うことに関する同意を求めた。この工作は主にイランの宗教指導者たち、そして亡命イラン人に対して行われるものとされ、中央情報局(CIA)のみならず、米軍も直接的に関与していた。ここに来てイラン国内では暴動が多発しているが、そのこととの関連性は明らかではない。その一方で、これまで対イラン対話路線を唱えてきたオバマ候補に対し、マケイン候補からイラン問題についても激しい批判が浴びせられるようになりつつある――というものである。


慎重な筆致で書かれたこのリーク記事にあることが、「事実」であればとんでもないことになる。なぜなら、上記のとおり、昨年12月にブッシュ政権は「イランによる核兵器開発は2003年よりストップしている」と公表したはずだからだ。実際、そうした発表の後、米・イラン関係にはやや雪解けの雰囲気が感じられたのであるが、その一方で米国は軍部まで動員してイランに対する破壊工作を遂行していたのである。正に「右手にバラの花束、左手にナイフ」である。国際場裏とはそんなものだと言ってしまえばそれまでだが、それにしても呆れるほどの巨大な“演出”なのである。


こうしたリーク報道を察知したイラン側は当然、激烈に反応することであろう。その結果、イラン情勢はさらに緊張の一途を辿ることになることは必定だ。それではその先、一体どんな「潮目」が私たちを待ち受けているのであろうか。

“逆転“と”発想転換“の時代が間もなくやってくる

この点も含め、今後想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”について私は7月12・13日に福岡・広島、8月2・3日に札幌・仙台、そして8月30・31日に大阪・名古屋でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナー(完全無料)で詳しくお話できればと考えている。


ここで私なりの分析の“結論”を先取りして申し上げるならば、こうしたイラン情勢の緊張は最終的に米大統領選挙へと連なるものである。このコラムでも以前書いたが、破竹の勢いで「米民主党の大統領候補に“確定”」したオバマ候補の“アキレス腱”となっているのがイラン問題なのである。


ただでさえ夫人の舌禍事件などで「オバマの愛国心に疑義あり!」との批判まで出ている現状の中で、仮に対イラン限定的空爆といった事態になり、しかもそれが大統領候補への正式指名より前であったならば、そもそも「オバマで本当に良いのか?」という声が出てきてもおかしくはない。しかし、米国を仕切る本当の閥族集団(「奥の院」)からすれば、それでも良いのかもしれないのである。


なぜなら、防戦一方となったオバマ候補の隣には、今やオバマ候補からも「強力な助っ人」と激賞されるに至ったヒラリー・クリントン候補がいるからだ。ちなみに、ヒラリー・クリントン候補は選挙戦を“停止(suspend)”するとは言ったが、そこから“撤退”するとは語っていない。


どういうわけか、オバマ候補はかねてから外国訪問の予定を口にしてきている。とりあえずはイスラエル、ヨルダン、そして英独仏を訪問するとの情報がある。しかし、本当のターゲットはイラク、そしてアフガニスタンであるようだ。


だが、ここであらためて考えてみると、かねてより米国は「イラクの治安が悪いのは、武装勢力にイランが武器を渡し、サポートしているからだ」と非難してきているのである。そんな危ないイラクをオバマが訪問した際、仮に“何か”あったらば一体どうなるのか。米側が見せる“激烈な反応”は想像に難くない。なぜなら、「国民の生命を守ること」は国家がなすべき第一の義務なのであるからだ。


そこまでの展開が見えていたとしても、あえてオバマ候補はイラクへと向かうことであろう。


「オバマよ、なぜイラクに向かうのか?」


感情的になる前に、米大統領選挙が巨大な“演出”であるというクールな認識と、その後に世界中で金(ゴールド)、原油、そして有価証券を巻き込んだ巨大な「潮目」が生じることを、今から考え、備えておくことが喫緊の課題となっているのだ。

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筆者プロフィール
  • 名前:原田武夫(はらだ たけお)
  • 1971年生まれ。1993年東京大学法学部を中退し、外務省入省。
  • 経済局国際機関第2課、ドイツでの在外研修、在ドイツ日本国大使館、大臣官房総務課などを経て、 アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を務める。2005年3月末をもって自主退職。現在、原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
  • ⇒原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)公式ウェブサイト

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