繰り返される不祥事。不二家は雪印の二の舞に?
食の安全に関わる不祥事、そして隠蔽工作
07年1月10日、大手菓子メーカーの不二家(2211)が、同社埼玉工場(新座市)で、消費期限切れの牛乳を使用してシュークリームを製造していたことが明らかになりました。出荷されたシュークリームの数は約2,000個に及びます。
しかも、不二家は06年11月時点での社内調査でその事実を把握していたにも関わらず、「雪印乳業の二の舞は避けられない」と自ら問題を公表することはありませんでした。
結果、問題が明らかになったのは菓子メーカーにとっての繁忙期であるクリスマス商戦を終えた年明け。内部告発を受けたマスコミによるものでした。
不祥事に加え、不二家のこうした消費者無視の保身・隠ぺいの姿勢に対しては厳しい目が向けられ、スーパーやコンビニの店頭から製品が撤去され、同社は減産を余儀なくされました。結果、株価は11日の終値が前日比22円安の211円まで大幅下落しました。
その後も相次いで不祥事が発覚しました。以下に主なものを列挙してみました。
・95年に泉佐野工場(大阪)で製造した洋菓子が原因の食中毒が発生
・泉佐野工場で埼玉工場向けシュークリームの消費期限を、社内規定より1日長く表示
・北海道旭川市のスーパーで販売されたチョコレートにガの幼虫が混入
・札幌工場で、検出された細菌数を記録しないまま出荷
あとを絶たない不祥事の発覚、そして長引く販売停止で不二家の経営危機がささやかれ、株価は11日以降も下げ続け、200円を割る状況となりました。
不二家といえば、「ペコちゃん」のマスコットキャラクターで知られる老舗企業。1910年には日本初のクリスマスケーキを販売して以降、18年にはシュークリーム、22年にはショートケーキを先駆けて商品化、業界の革新的企業です。
しかし、80年代以降には経営不振に伴うリストラ、また仕手集団による株買占めなど、同社を取り巻く環境は厳しいものでした。直近では、洋菓子事業が4期連続で赤字になるなど、厳しい経営を迫られていたのです。そんな状況の中で発覚したのが今回の不祥事でした。【ポイント1】
藤井林太郎社長は22日に辞意を表明、後任に桜井康文取締役をあてる人事を発表しました。初めて創業一族外から社長を起用することで、事態の収束と組織の刷新を図りましたが、まだまだ混乱は続いています。
これまでの企業不祥事の事例を見ると、不二家の再建は困難を極めるだろう、と予想できます。
多発する「同族企業」による不祥事
食品関連の不祥事として雪印乳業(2262)とともに思い出されるのが日本ハム(2282)です。同社の関連会社が02年6月、国のBSE対策事業の一環として行われた国産牛肉買取事業を悪用し、輸入牛肉を国産牛肉と偽り、補助金をだまし取ったというもの。発覚を恐れ、買取申請を取り下げた牛肉を無断で焼却する隠蔽工作も行っていました。
また、輸入ダコをめぐる脱税事件を引き起こしたマルハ(現・マルハグループ本社、1334)や、食品関連ではないですが、ガス給湯器の不具合で死亡事故を起こしたパロマ工業など、相次ぐ企業不祥事をみてみると、共通点が浮かび上がります。
それは、創業家が経営トップを務める同族企業であるということです。不二家も藤井一族が6代にわたって経営の舵取りをしてきました。こうした同族企業の閉鎖的な体質が今回の不祥事の遠因といえるかもしれません。
コンプライアンス(法令遵守)に詳しい桐蔭横浜大学の郷原信郎・法科大学院教授は「(不祥事の原因を)『同族企業だから』と結論づけるのは難しい」と話していますし、書籍『同族経営はなぜ強いのか?』(ダニー・ミラー、イザベル・ル・ブルトン=ミラー著)では、投資、人材育成、社会貢献における長期的視野を持つことができる同族経営の優位性が説かれています。
実際、食品業界でも、サントリーのように早い段階からコンプライアンス強化に取り組んでいる企業があることから、同族経営が即不祥事につながると考えるのは短絡的過ぎるかもしれません。
しかし、同族企業に不祥事が目立つのも事実。今回の不二家の事例でも、本来真っ先に考えなければならないのは消費者であったはずなのに、隠蔽工作をはじめとする創業家本位の行動が目立ちます。
つまり、同族企業が優位性を持つためには、率いる経営者に倫理、そして覚悟が必要であるということです。また、いくら覚悟があってもそれを実行できる状態でなければ意味がありません。
不二家の株主構成をみてみると、上位株主にならぶ創業家の保有割合は5.7%程度。これでは、覚悟を持って事業にあたるというよりも、権限のあるサラリーマン的な経営に居心地が良くなってしまうのは仕方がないでしょう。不二家の場合、同族企業の閉鎖性と、一般企業の目先ばかりを気にする経営という悪い部分のみが表れたのかもしれません。
その対極にあるのが、先に挙げたサントリーです。日本を代表する大企業ですが、創業以来、非上場を貫いています。その結果、大胆な経営が可能となり、革新的な企業として高く評価されています。
「同属企業だから…」と結論付けるのは確かに短絡的です。株主構成も含め、その企業の個々の事情をしっかりと把握する必要があります。【ポイント2】
雪印の二の舞?不二家と製菓業界の今後
不祥事発覚後、不二家の株価は117円程度までは下落するのではないかとみられていました。それは、この価格でPBR(株価純資産比率)が約1倍になるためです。
PBRとは、一般的に解散価値と呼ばれ、企業買収などの場合に企業価値を測定する投資尺度としても用いられることが多くあります。PBRが1倍ということは、保有する資産と株式市場の評価が同程度ということです。
日本を代表する企業のPBRをみてみましょう。トヨタ自動車(7203)は2.6倍、松下電器産業(6752)は1.5倍と、株式市場で解散価値を上回る評価となっていることが分かります。これは市場が今後の成長性を保有する資産価値以上に評価しているということです。
では、このPBRをベースに、過去に不祥事を起こした食品会社の株価状況をみてみると、00年に集団食中毒事件を起こした雪印乳業はおよそ1倍、02年に牛肉偽装が発覚した日本ハムは0.8倍程度でそれぞれ下げ止まっています。不二家も同様にPBRが1倍、つまり解散価値程度までは下落すると考えるのは妥当といえるでしょう。
しかし、不二家の株価の場合、1倍にまで下落するどころか、12日に200円台を割り込んだあと反発し、再び200円台を回復、PBRは1.8倍程度となっています。数値だけをみれば、株式市場は、不二家の将来性を資産価値以上に評価していることになります。
不二家を巡る報道を見てみると、相次ぐ不祥事に倒産間近、雪印乳業の二の舞と思われるかもしれません。しかし、投資家であるならば、冷静に事実を見極める必要があります。
不二家再建には、同社の大株主である森永製菓(2201)が支援に前向きな姿勢をみせています。また、山崎製パン(2212)も技術協力を持ちかけているようです。りそな銀行と早々に再建に向け協議を始める予定です。
そもそも、製菓業界は少子化の影響などで先細りが懸念されていました。今回の不二家の不祥事が、大きな業界再編につながる可能性もあります。
今後、不二家株の推移、そして業界の動向から学ぶべきことは多いでしょう。投資家として冷静に、そしてしっかりと見守る必要がある事例といえます。【ポイント3】
- 【ポイント1】
- 「最後の相場師」と呼ばれ、83年の高額納税者番付で全国1位になった是川銀蔵氏が83年に不二家株を買い集め、約13%を取得しました。その後、転々とした株を買い戻すのに、不二家は700億円もの資金を使ったといわれています。
是川氏は、短期間に筆頭株主になれたのは「創業者一族の内紛を利用したから」と言っていたようです。創業者問題で揺れる同社の根幹は、すでに20年も前に予兆があった、と言えるかもしれません。 - 【ポイント2】
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株主構成をみることの例としては、ユニクロを展開するファーストリテイリング(9983)が分かりやすいでしょう。05年7月、家族などを含め、発行済み株式の4割以上を握る事実上のオーナー柳井正氏が、社長に復帰し会長と兼任すると発表しました。その際に「1人に権限が集中しすぎるのでは」と問われ、柳井氏は「今は緊急事態」とはねつけました。
当時6,000円台でうろうろしていた株価も、07年1月時点で1万円を伺う展開になっています。同期間の日経平均株価の上昇を上回るものであり、オーナーの覚悟が功を奏した成功例といえるでしょう。 - 【ポイント3】
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株式市場は不祥事に厳しい反面、寛大さをみせることもあります。また、不祥事を起こした会社の株価はリターン・リバーサルなどが起こり、短期的に反発をすることがあります。短期のリターンを狙った投資家をひきつけるのはやむを得ないことかもしれません。
しかし、投資をするのであれば「会社を丸ごと買う」つもりで考えるのが妥当ではないかと私は考えています。再編を引き起こす可能性のある不二家には、同業や投資ファンドなどが食指を伸ばすことでしょう。
もし同社への投資を検討するのであれば、今後の展開を注視してから投資を開始することをおすすめします。雪印乳業も結果的に不祥事発覚後の最安値から、07年1月時点で、3倍弱の上昇を見せています。状況をしっかりと把握してから投資しても遅くはないのです。
同族経営に非難が集まるのは、感情的な部分もあると思います。ご紹介した書籍『同族経営はなぜ強いのか?』では、長期的視野で優位に立つ同族企業は成長率が高いという米国の研究報告がなされています。一律的に同族経営だから良い、悪いではなく、1社1社を丹念に調べることがやっぱり投資の王道ではないか、と思います。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。