泥沼の決着?創業家社長の解任を決めたすかいらーくの今後
横川社長「辞任ではなく解任を選ぶ」
ファミリーレストラン大手のすかいらーくは、8月12日の臨時株主総会とその後の取締役会で、創業家出身の横川竟(きわむ)社長の解任することを決めました。後任は生え抜きの谷真常務執行役員です。
今回の解任は、主要株主である野村プリンシパル・ファイナンスと英CVCキャピタルパートナーズという投資会社2社が要求していたものです。その要求に対して、横川氏側は断固拒否の姿勢でしたが、結果としては株主である投資外会社の勝利という形になりました。
では、そもそもなぜ、経営者と投資会社が対立し、創業家が経営の表舞台から消える結果となったのか。その経緯を振り返ってみましょう。
すかいらーくは06年、業績の悪化に対応するスピーディーな経営改革実行のため、日本最大のMBO(経営陣が参加する買収)を実施し、上場を廃止しました。その際、協力したのが野村プリンシパル・ファイナンスでした。その上で、経営改革の実行と業績回復を成し遂げ、早ければ09年に再上場する予定でした。
しかし、業績の回復が思ったように進まず、投資ファンドが業を煮やし社長の解任を決めた、というのが今回の解任劇の背景です。
すかいらーくの07年12月の最終損益は130億円の赤字で、赤字幅は前年の111億円から拡大、とても「業績回復の軌道に乗った」とは言いがたい結果となっています。
もちろん、MBOを実施したからといって、短期間で業績を急激に回復させることは簡単ではありません。あまりに早急に結果を求める投資会社に対する悔しさがあるのか、最後まで横川氏は辞任を拒否、「やったことは間違いないと思うので辞任より解任を選んだ」と語っています。【ポイント1】
コスト高、客離れ。“冬の時代”のファミレス業界
日本最大のMBOという“離れ業”をもってしても業績回復を成し遂げられなかったすかいらーく。しかし、ファミリーレストラン業界で苦境を強いられているのは同社だけではありません。
業界の優等生といわれているサイゼリア(7581)は、08年8月期の連結業績で経常利益が前年同期比18%減の68億円になると、通期見通しを下方修正しました(期初予想は2%増)。同社が経常減益となるのは05年8月期以来3期ぶりのことです。
また、セブン&アイ・ホールディングス(3382)傘下のデニーズでも業績は大幅に悪化し、ゼンブンアイの主要5事業のうち、外食部門が唯一の不採算事業になっています。
こうしたファミレス業界の環境悪化の要因として、原油、食料品の価格高騰によるコストの上昇があります。加えて、「人手不足」も大きな要因です。
日経新聞の調査では、人手不足を「特定の店舗や時間帯で感じる」が52.2%、「全体で感じる」が42.9%という結果が出ました。つまり、9割以上が何らかの形で人手不足を感じているのです。
では、それをどのように解消するのか。63.5%がその手段として「時給を引き上げる」と答えています。その結果、人件費が上昇し、収益を圧迫してしまっているのです。
さらに、調査会社マクロミル(3730)の調査によると、ファミレスの利用回数が減った人は、アンケート回答者の39%に達していました。その理由の上位には、「メニューが代わり映えしない」「飽きた」などが並んでいます。
コスト上昇が収益を圧迫し、客離れも加速。ファミリーレストランにとっては、まさに“冬の時代”といえるでしょう。【ポイント2】
「同床異夢」の事業会社と投資会社
そうした状況を打開するために、すかいらーくはMBOという手法で改革を進めようとしたのでしょう。その真っ只中での解任劇。横川社長としては、道半ば、忸怩(じくじ)たる思いがあることでしょう。
すかいらーくといえば、90年代まではファミレス業界の中でも最強の部類に位置していました。すかいらーく、ガスト、バーミヤン、夢庵など、和洋中全てのジャンルを網羅する多彩な店舗展開を進め、日本のファミレス業界を形作った会社といえます。
「あと数年経過すれば、再び成長軌道に戻せる」――。横川社長にはそんな自信もあったことでしょう。しかし、投資会社の立場からすると、そんな悠長なことは言ってられない、となります。
なぜなら、投資会社と事業会社では、時間軸が異なっているからです。投資会社の背景には、資金の出し手がいます。いわば、株主のような存在です。彼らは投資会社に対して、早く結果、つまり儲けを出すように求めます。そのため、投資ファンドはどうしても投資先の事業会社に対して、早急に結果を出すように求めます。
今回の騒動について私は、投資会社の立場に立てば、結果を出せていない社長の解任を求めるのもやむを得ない、という感覚を持っています。一方、経営を行う立場で考えれば、2年間で結果を出せというのに無理があるのではないか、とも思います。
異なる時間軸を持つ事業体が、業績回復、成長という同床異夢を描いてしまうと、どちらにとっても不幸な結果になりかねません。M&Aは互いをリスペクトしあってこそ成功するものです。【ポイント3】
MBO、そして社長の解任という“激動”を経験したすかいらーくの事例は、多くの示唆を含んでいるはずです。今後の展開を見守りたいと思います。
- 【ポイント1】
- MBOという手法は、最近でこそ珍しくはありませんが、すかいらーくは、手法が登場したごく初期の例であり、規模が大きかったため注目が集まりました。また、ファーストフードのロッテリアの経営に金融事業会社が参画するなど、外食業界に注目が集まっていた時期でもありました。 横川氏の経営手腕はともかく、そうした注目を集めた事例が、創業家が追われる結果になったのは、やはり残念だといわざるを得ないと感じています。
- 【ポイント2】
- 外食、小売業で業績の改善、そしてその後の成長を達成するためには、1)不採算、赤字店舗からの撤退、2)商品、店舗改革、3)新規出店の3つのステップを踏んでいくことが必要です。 すかいらーくは1)の段階から進めていたわけですが、スピードと覚悟が足りなかったことは否めません。その点に投資ファンドが痺れをきらした、ということでしょう。
- 【ポイント3】
- 数あるM&Aの事例の中でも、成功事例として私が真っ先に思い浮かべるのが永盛重信社長率いる日本電産(6594)です。直近では、万年赤字に苦しむ日立系の日本サーボ(6585)を買収、翌年度には最高益を更新させることに成功しました。 永盛社長は、日本電産本社がある京都から、週に1度、群馬にある日本サーボに出かけていたといいます。こうした“融合”に向けたリスペクトがあってこその成功なのだと思います。
私自身、自分が勤務していた会社でM&Aを4度経験しています。M&Aには「人的資本のリストラクチャリング」という側面があります。企業風土の違いは不協和音につながります。事業会社と投資会社のように、時間軸の異なるもの同士が一緒になる場合も同様です。そのことを、身をもって体験してきたからこそ、今回のすかいらーくの事例は、その難しさが理解できつつも、やはり残念だと思ってしまいます。(木下)
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木下晃伸(きのしたてるのぶ)
経済アナリスト、フィスコ客員アナリスト。1976年愛知県生まれ。南山大学法学部卒業後、中央三井信託銀行、三菱UFJ投信などを経て、現在は株式会社きのしたてるのぶ事務所代表取締役。(社)日本証券アナリスト協会検定会員。著書『日経新聞の裏を読め』(角川SSコミュニケーションズ)発売中。
投資脳のつくり方
マネー誌「マネージャパン」ウェブコンテンツ。ファンドマネジャー、アナリストとして1,000社以上の上場企業訪問を経験した木下晃伸が株式投資のヒントを日々のニュースからお伝えします。「株式新聞」連載をはじめ雑誌掲載多数。